人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
ブエルタ伝統の勝負地で、サスペンスに満ちたバトルが繰り広げられた。アルベルト・コンタドールは精力的に加速を繰り返すも、最後には力尽きた。クリス・フルームは一時は大きく脱落しながらも、猛烈なラストスパートで遅れを取り戻した。そして、7月とはまるで違う頼もしさでコバドンガを駆け上がったナイロ・キンタナが、区間勝利を仕留めた。大会1回目の休息日前日、失ったばかりのマイヨ・ロホも、再びしっかりと身にまとった。
1日は簡単に始まったわけではなかった。ステージ序盤には集団落車が相次ぎ、キンタナさえ地面に転がり落ちた。強烈なアタックが幾度となく試みられた。日本の別府史之や新城幸也が、前方へと果敢に躍り出たこともあった。離合集散を繰り返したプロトンから、70㎞地点に迫るころ、ようやくひとつのかたまりが飛び出していった。
16選手の逃げ集団内では、数日前から過熱気味の山岳ポイント争いが、予想通りに巻き起こった。ゴール前約60kmの1級峠では、昨大会山岳王オマール・フライレと、山岳賞にひときわ思い入れの強いコフィディス——2008〜2011年に所属選手ダヴィド・モンクティエが山岳賞を持ち帰り、それが縁で大会スポンサーにも乗り出した——のルイス・マテマルドネスが、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げた。最後にはフライレが粘り腰を発揮し、先頭通過の10ptを懐に入れる。ちなみにマテマルドネスは、ステージ後に敢闘賞を授与されることになるのだが……。
この1級峠で、真の敢闘を披露したのは、むしろヴィクター・カンペナールツだった。生まれて初めてのグランツールを戦う24歳は、それこそ麓からほぼ山頂まで引き倒した。一緒にエスケープに乗ったチームメート、ロベルト・ヘーシンクのためだった。おかげでタイム差は最大5分半にまで広がった。ゴール前25kmの平地で集団が2つに割れ、オランダ人ヒルクライマーが後方に置き去りにされてしまった時も、自ら後方に下がり集団合流に力を割いた。若きルーラーは自己犠牲を貫いた。コバドンガの麓で最後の全力疾走を行うと、静かに後方へと下がっていった。ゴールまで12.2㎞。後方メイン集団とのタイム差は3分を切っていた。
チームメートの働きに応えるために、ヘーシンクは奮闘した。それはもちろん、総合リーダーのスティーヴン・クライスヴァイクの落車リタイアで、意気消沈するチームを救うためでもあった。山道への突入と同時にルイ・ヴルヴァークが仕掛け、続いてピエール・ローランがアタックを打ったが、慌てずマイペースで追走を続けた。そしてラスト7㎞、前を行くライバルをとらえた。それだけでなく、じわり、じわり、とまさにセンチ単位でフレンチクライマーを引き離していった。
ブエルタで過去3度総合トップ10に入った強者は、ゴール前6.5km、ついに単独先頭に立った。しかし、初めての区間勝利は、遠かった。
後方では、モヴィスターが猛スピードで追い上げていた。ここまでの10日間、逃げにも乗らず、平地スプリントにも交わらず、黙々とリーダーのためだけに尽くしてきたアシストたちが、またしても高速リズムを刻んだ。あまりにも暴力的な速さだったから、ゴール前10km、フルームが後方へと置き去りにされてしまったほど!
8月末のフルームは、7月とはまるで異なる走り方を採用している。圧倒的なチーム力で、完全にレースを支配下に治めたツールとは違う。スペインの山では、必ずといっていいほど一旦遅れる。周りがどれほど急ごうとも、ひたすらサイクルコンピュータのワット数を見ながら、ペースを崩さずに走り続ける。そして、山もいよいよ最終盤にさしかかったころ、突如として前線に舞い戻る。今年だけでなく、過去の参加時も同じだった。だから、ライバルたちも、理解していたはずなのだ。ただ、今回のフルームは、50秒近くも遅れを取った。もしかしたら、いよいよ……。
ライバルたちは先を急いだ。コンタドールが攻撃の口火を切った。すぐにキンタナが反応した。やはり7月とはまるで異なる積極性を披露しつつ、カウンターアタックをお見舞いした。力強くペダルを踏み込み、しかも長く執拗な加速だった。コロンビア人の後輪に、すかさず貼り付けたのは3大ツール王者のスペイン人だけ。エスケープの残党の間を縫いながら、そのまま2人は敢然と完全と突き進んだ。
しかし、いつしか、ミケーレ・スカルポーニやアレハンドロ・バルベルデが、じりじりと距離を縮めてきた。なにより現役マイヨ・ジョーヌが、ついに、はるか遠くで加速装置のスイッチを入れた。
山頂まで3.5km。キンタナはさらに一段スピードを上げた。誰からも追いつかれないために。すべてを完全に振り払うために。コンタドールも得意のダンシングで抵抗したが、長く、執拗な加速で、ついにサドルに腰を下ろした。ゴール前6.5kmから単独先頭で逃げ続けていたヘーシンクは、残り2.5㎞で無情に追い抜かれた。キンタナが勝利への独走へと飛び立った。
ライバルたちからできる限りタイムを稼ぐため、フィニッシュラインギリギリまでペダルを踏み続けた。いわゆる勝利のポーズをとっている暇などなく、ラインを越えた直後に、慌てて投げキッスした。2013年ツール区間1勝、2014年ジロ区間2勝のコロンビア人にとって、初めてのブエルタ区間勝利だった。記念すべき史上20回目のコバドンガステージで、この山を制した4人目のコロンビア人となり、もちろん1日着用しただけで失ったマイヨ・ロホをわずか1日で取り戻した。
キンタナがボーナスタイム10秒を手にした背後では、フルームの高速ペダルが炸裂した。エステバン・チャベスを追い落とした。アレハンドロ・バルベルデを捕らえ、背中にひっつけて先を急いだ。ゴール前2.5㎞では、とうとうコンタドールとスカルポールに並んだ。しかも、くるくると速いリズムで畳み掛けると、キンタナとのランデヴーで力を使い果たしたコンタドールを、完全に置き去りにした。最後はヘーシンクとフライレを巻き込んで山頂スプリントさえ挑み、区間3位で4秒のボーナスタイムを懐に入れた。キンタナからは25秒遅れのゴールだった。
バルベルデとスカルポーニが28秒差で続き、チャベスは1分02秒差で1日を終えた。コンタドールはラスト3.5kmで、キンタナから1分05秒を失った。
総合では2位バルベルデが57秒差、3位フルームが58秒差と、キンタナからすでに1分近い遅れを喫したことになる。4位以下に至っては、もはや2分以上の距離を開かれてしまった(4位チャベス2分09秒、5位コンタドール2分45秒)。
2016年ブエルタもほぼ折り返し地点に差し掛かった。マイヨ・ロホを巡る戦いは、休息日明けのピレネー連戦でどう動くのか。フライレがついにその手に取り戻した山岳ジャージの行方も、まだまだ分からない。
<選手コメント>
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
ここで勝てたことは、素晴らしい誇りであり、喜びでもある。かつて数々の偉大なる選手たちが勝ち取ってきた場所で、勝利を上げることは、ぼくにとっては大きな夢だった。彼らの名前の下にぼくの名前を加えることが出来たなんて、名誉なこと。偉大なる選手やヒルクライマーたちが、ここを制してきたからね。
それほど体力的にフレッシュではないんだ。ツールを走ったし、ツール前にもたくさんのレースを走ってきた。その影響を感じている。今の時点では、シーズンここまでの疲れを感じているけれど、それでも調子はいい。ジャージを守っていきたいものだね。ここからは、毎日、危険が潜んでいる。トリッキーな日々が続くから、最終日までとても難しいだろう。今日が決定的なステージであることは分かっていたけれど、でもこの先もっと難しい時間が待ち受けている。警戒していかなければならない。
フルームの走り方はちょっと理解しがたい。でもおそらく彼らの戦術が、スロースタートだったのだろう。この先、彼からもっとタイムを稼ぐ方法を、見つけられたらと願うね。(大会公式リリースより)
■ロベルト・ヘーシンク(チーム ロットNL・ユンボ)
素敵な1日だった。ぼくより速い選手がいたことに関しては、決して楽しくはないけれど。それでもいいフィーリングをつかめた。誰が一番にアタックをかけて、誰が真っ先に反応するか、というのが大切ではなかった。ぼくは自分のペースを守った。そして、すぐに、ほかの選手たちを振り払えるだろうと理解した。カンペナールツもいい仕事をしてくれた。逃げ集団内でうまく協力体制が取れていないときには、速いスピードを保つよう働いてくれた。ぼく自身だって、ペースを上げるために、数回前を引いたほどさ。だって大部分は、リードを出来る限り開くよう働く代わりに、最終峠のことばかり考えていたからね。目標はブエルタの後半にいい走りをすること。ぼくの感覚では、今日からが、ブエルタの後半戦だ。クライスヴァイクのリタイアのあと、ぼくらは難しい日々を数日間過ごした。でも今では、状況はすっかりよくなった。(出典:チーム公式ホームページより)
■ピーター・ケノー(チーム スカイ)
限界に達しない、リスクをあまり冒さない、という計画だった。ダビ・ロペスガルシアも素晴らしい仕事をしてくれた。ぼくも自分のベストを尽くして、できる限り長くフルームのペースで走り続けるよう努力した。登っている間ずっと、フルームはひたすら励まし続けてくれた。あまり苦しくなりすぎてしまわぬよう、気を配ってくれたんだ。彼はぼくらを信頼して、最初の2㎞を任せてくれた。信じられないようなことだよね。もしぼくが、自分自身のために走っていたとしたら、ほぼ間違いなく正反対の行動に出ているだろう。できるかぎりライバルの後輪に張り付いていこうとするはずだ。でもコンタドールやバルベルデが、最後は息切れしてしまったのを見る限り、フルームの行動が正しかったわけだ。(出典:チーム公式ホームページより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!