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最終5kmの激坂に、息詰まる攻防が待ち受けていた。5年前に初めてグランツール区間勝利を手にした、海の見える山の上で、クリス・フルームが天に向かって力強く拳を突き上げた。見ている方さえ思わず歯を食いしばってしまうような、ギリギリのせめぎあい末に、またしても赤いジャージを一騎打ちで打ち倒した。あの時はフアンホセ・コーボで、今日はナイロ・キンタナだった。マイヨ・ロホは極めて冷静に背中に張り付き、完璧に状況を制御し、危なげなく首位を守った。
カンタブリアの海岸でゆっくり休息を取り、生気を取り戻したプロトンは、いつも以上にハイスピードで走りだした。序盤1時間の走行時速は約50kmにまで達し、最終的には時速44km以上でフィニッシュまで駆け抜けた。猛烈なアタック合戦はスタート後のまるまる1時間続き、ついに23選手がエスケープへの切符をもぎ取った。
大きな逃げ集団は、いわゆる「常連」揃いだった。ヤン・バークランツは4回目の挑戦で、しかも3ステージ連続だった。ピエール・ローランとアクセル・ドモンのフレンチコンビは、今大会3回目の挑戦となった。そもそも約半数が2回目のトライだった。そして、いつも通り、総合系チームは一切紛れていなかった――実際に今大会は、モヴィスター チーム、チーム スカイ、オリカ・バイクエクスチェンジ、ティンコフの4チームは、1度も逃げにトライしていない――。今回こそは逃げを成功させたい、そんな野望を抱いた男たちがずらり揃った前方集団は、後方に5分程度のリードをむしり取った。
補給地点を過ぎると、しかし、逃げ切りがはかない夢であったことを悟ることになる。休息日中に「総合優勝の可能性はもはや薄いだろう」と、いわゆる敗北宣言を出したアルベルト・コンタドールが、せめて区間勝利を手に入れようと……、チーム総出で追走に取り掛かったのだ!
逃げ集団との差を急速に詰めていった。90km地点で5分あった違いは、65kmで2分15分まで縮まった。あまりに早く吸収しすぎてもならない、というセオリーにしたがって、そこから20kmほどは同じ距離を保ち続けた。その後改めて、蛍光イエローの隊列は、本格的な吸収作業に取り掛かった。
猛烈にタイム差が縮んでいく中で、前方の23人からは、小さな抵抗を試みる者たちもちらほらと出現した。結局のところは、最終峠ペニャ・カバルガまで協力しあうしか道はなかった。そしてプロトンに約20秒先んじて、激坂へと突っ込んだ直後に、ばらばらと砕け散っていった。休息日前日にも逃げに乗り、休息日翌日のこの日は最後まで粘り続けたベン・ヘルマンスも、山頂の手前3kmでついに引きずり降ろされた。
アルベルト・コンタドールもまた、むなしく努力を散らすことになる。アシストたちはあまりに体力を費やしすぎて、激坂に入って以降は、1人もリーダーの周りに残っていなかった。だからヘルマンスを吸収するころには、代わりにマイヨ・ロホ擁するモヴィスターが、冷徹な高速リズムを刻んでいた。今大会これまでの山頂フィニッシュとは違って――特に休息日前日のコバドンガとはまるで異なり――、クリス・フルームもスカイのチームメートに支えられて、最前線にしっかり居残っていた。
10%台の勾配が延々と続く、まさしく壁としか表現しようのない坂道の中間には、ほんの数百メートルだけ平坦なゾーンが挟み込まれている。そこで誰もが一息ついた直後だった。ゴール前1.8km、突如としてエステバン・チャベスが、爆発的に飛び出した!
2分09秒差で総合4位につけている危険人物を、遠くへと逃がしてはならない。いつもの微笑みは姿を消し、必死の形相で山をよじ登るコロンビア人ヒルクライマーが20秒ほどの差をつけたところで、ライバルたちは動いた。特に総合首位ナイロ・キンタナのチームメート(で総合2位の)アレハンドロ・バルベルデと、総合3位クリス・フルームのアシスト(で総合6位の)レオポルド・ケーニッヒが、ペダルを力づくで踏み込み、前を追いかけた。暴力的なまでの努力の果てに、フィニッシュまで800m、ついにオリカのジャージをとらえた。
その瞬間だ。ナイロ・キンタナが鋭い加速を見せた。クリス・フルームはすぐに反応した。アルベルト・コンタドールもワンテンポ遅れたが、なんとか後流に入り込めそうに見えた。しかし、絶好調のライバル2人は、手ごわすぎた。
なにより、直後に、クリス・フルームが畳み掛けるようにスピードを上げた。しかも勾配18%ゾーンで、7月のマイヨ・ジョーヌが披露したのは、例のサドルに座った高速ペダル回転ではない。力強いダンシングアタックだった!コンタの姿は消え、ただマイヨ・ロホだけがぴたりと後輪に張り付いた。
ときには牽制し、ときには猛加速をみせた。しかしナイロ・キンタナを背中から振り払えないことを理解すると、クリス・フルームはありったけの力をふりしぼって区間勝利を獲りに行った。自らの名前を初めてグランツール史に刻んだペニャ・カバルガのてっぺんで、荒々しく勝ち名乗りを上げた。
5年ぶりのブエルタ区間勝利と共に、クリス・フルームはボーナスタイム10秒も手に入れた。ただしナイロ・キンタナは背後霊のように同タイム2位で静かにフィニッシュし、つまりクリス・フルームが縮められたタイムはボーナスタイム差分=4秒のみだった。
またリーダーのために力を尽くしたアレハンドロ・バルベルデとケーニッヒは、6秒遅れの区間3位と4位に区イオンだ。すなわちアレハンドロ・バルベルデが6秒遅れ、かつボーナスタイム4秒取得に終わったため、今年のツール総合覇者は総合2位(54秒差)に浮上し、シーズン3つめのグランツールを元気いっぱい戦う36歳は総合3位(1分05秒差)へ一歩後退した。
区間獲りに失敗した3大ツール覇者アルベルト・コンタドールは8秒遅れで、勇敢なアタックで力を使い果たしたエステバン・チャベスは19秒遅れで山を登り終えた。
<選手コメント>
■クリス・フルーム(チーム スカイ)
もちろん2011年ブエルタの想い出は特別だよ。あの時はコボ相手に走っていて、プロとして初めての勝利だった。だから、この上りには、スペシャルな想いを抱いているんだ。今日はまた別の体験となった。フィニッシュの地形はよく理解していたし、山道も把握していた。それが間違いなく、ぼくを助けてくれた。最後の200mに入ってからは、フィニッシュラインは見えなかったけれど、いつ加速すればよいのかを分かっていた。区間勝利を手に入れることが出来て、本当に嬉しい。
ブエルタに乗り込んできた時点で、とにかくレースを走りながら調子を整えていこうと考えていた。難しかったね。ツール・ド・フランスの後、オリンピックにも出場したから、ブエルタに特化した調整を積む時間がそれほどなかったんだ。だからレースを走りながら整えていき、後半に調子を上げられたらと考えていた。現時点で、自分が良い軌道に乗れていたらいいんだけど。
(コバドンガへは)まったく異なるアプローチを行った。過去の経験から、コバドンガはいつもと違うやり方で走るべきだと考えていた。自分に最適なペースで走るべきだ、とね。以前あの上りで、何度も限界を越えてしまったから、自分のリズムで走った。かなり上手くいったよ。ぼくにとってはベストの走法だった。今日の上りは全く違うタイプの上りなんだ。だからアプローチ方法も違った。今日はとにかく前方にとどまっているべき上りだったんだ。(レース公式リリースより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
上手くやれた。フルームと一緒にフィニッシュに到着することができた。彼がステージを制したのは、最後の最後に、彼の方がぼくより速かったからさ。彼は強くさえあった。まだまだ気を抜くことは出来ない。この先いくつか難しいステージが残っているし、バトルが繰り広げられるだろう。フルームがこの先何をしてくるのか予測がつかない。だって戦術がまるで違うから。この間の短い上りでは、ぼくがタイムを奪った。今日は一緒にゴールした。だから長い登りのステージで、どれだけフルームが強さを発揮できるのか、しっかり見定めていかねばならない。ただ、すでに、彼は強さを見せつけている。だから用心深くいなくてはならない。彼こそが、ぼくらの直接的ライバルなのだから。(出典:レース公式リリースより)
■アルベルト・コンタドール(ティンコフ)
すでに総合ではタイムを大きく失っていたから、ほかの目標に切り替える必要があった。今日は上りフィニッシュで、ぼくらのチームに適していた。たしかに休息日のあとで、どんな調子で走れるか分からなかったけれど。だから23人という大人数にも関わらず、逃げ集団との差をコントロールした。自分が勝てるか勝てないのかを知りたいなら、危険を冒さねばならないんだ。プロトンの中で動かずにいたら、23人を無意味に逃してしまっただろう。だからぼくらはトライした。でも、ぼく自身に脚がなかったし、ぼくよりも強い選手が存在した。この先もトライを続けるつもり。ブエルタには難しい要素がたくさん潜んでいるから、この先も選手間のタイム差は広がっていくことだろう。ただぼく自身が置かれている状況は、これ以上悪くなりえっこないんだ。(出典:レース公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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