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サイクル ロードレース コラム 2016年9月2日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016 第12ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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まるでカオスのような、統率のとれないスプリントを、イェンス・ケウケレールがさらい取った。またしても2016年ブエルタは、グランツール区間「初」勝利をお膳立てした(今大会7人目!)。しかもステージ終盤をベルギーのフランドル人が盛り立てた末に、今大会3人目のフランドル人勝者を輩出した。総合2位クリス・フルーム擁するチームスカイは、今大会初めてエスケープに選手を送り込み、マイヨ・ロホ集団を大いに働かせた。目まぐるしく展開の変わる1日の終わり、総合上位に変動はなかった。

バスクのビルバオへと5年ぶりに帰り着くこの日、前回覇者のバスク人イゴール・アントンのいない集団は(第9ステージでリタイア)、猛烈な場所取り合戦を繰り広げた。いつまでも終わらないアタックの波は、49km地点の1級ラス・アリサス峠への上りで一旦静まった。7選手が飛び出し……、うち1選手(今大会4日間マイヨ・ロホを着用したダルウィン・アタぷま)が落車で後方プロトンへと引き下がり、つまり計6人がしばらく前線で存在感をアピールした。

この春のジロで区間1勝&マリア・ローザ2日間と大活躍を見せたジャンルーカ・ブランビッラを筆頭に、今ツール総合8位のルイ・メインチェス、2013年ブエルタ屈指の難峠アングリル勝者ケニー・エリッソンド、さらにロマン・アルディ。こんな強豪揃いのエスケープ集団に、しかも、スカイのアシストが2人滑りこんでいた。今大会初日マイヨ・ロホであるピーター・ケノーに、バスク生まれのダビ・ロペスガルシアだ!

過去11日間、決して逃げに選手を送り込まなかったチーム スカイが、大胆な作戦に出た。おかげで、最終盤に2級エル・ビベロ峠×2が待ち構えるただでさえナーバスなコースは、ピリピリした雰囲気に包まれた。総合首位ナイロ・キンタナ擁するモヴィスター チームは、否が応でも、集団制御に駆り立てられた。6人に最大2分半ほどのリードを与え、スペインチームは黙々とタイム差保守に務めた。

ラスト50kmを切り、まさに1回目のエル・ビベロに突入した頃だった。後方プロトンの主導権を、突如としてアスタナ プロチームが奪いとった。追走スピードを増し、緊迫感もよりいっそう増した。しかもカザフ集団は、ミニアタックで繰り返しプロトンに揺さぶりをかけた。山をすっかり下り切り、ビルバオの町を通過する頃には、水色隊列が牽引するメイン集団は、逃げ集団を30秒差にまで追い詰めていた。

ブランビッラは最後まで抵抗を試みた。しかしゴール前20km、かつてエウスカルテルのオレンジジャージを着ていたこともあるロペスガルシアが、チームメートのケノーに感謝の意を示し、静かに後ろに下がっていったのが合図だった。序盤からの逃げが吸収され、そして、めくるめくアタック合戦第2部が幕を開けた。

2度目のエル・ビベロ登坂と同時に、ドゥリース・デーヴェニィンスが飛び出した。フランドル生まれの33歳は、すでに第9ステージでも攻撃的に走りながら、フィニッシュ手前1kmで脚が止まって……。あの日フィニッシュ地で「もう1度繰り返すさ」と断言した通り、思い切りよく加速を切った。後方にはすぐに30秒ほどのタイム差をつけた。

その後方では収集不能なほど、数々のアタックが巻き起こった。ジョージ・ベネットが試み、アンドレイ・ゼイツが加速した。第9ステージ同様に、デーヴェニィンスのチームメート、マティアス・フランクがストッパー役として前方で暗躍し、21歳の若きマトヴェイ・マミキンはむずかる脚を幾度となく爆発させた。ラスト15km、バスクの熱狂的なファンが詰めかけた細い山道では、前日ステージ獲りを失敗したアルベルト・コンタドールが攻撃に転じたことさえあった。

下りに転じるとモヴィスター チームの護衛役ダニエル・モレノが飛び出して、LLサンチェス等々と数人で追走集団を形成したり。下りきった先ではヤン・バークランツやアンドリュー・タランスキー、サイモン・イェーツが加速を見せたり。

ただし、すべての試みは、長続きしなかった。デーヴェニィンスを追って飛び出した選手たちは、牽制と抜け駆けを繰り返すばかりで、一切の協力体制を取ろうとはしなかった。後方ではトレック・セガフレードやオリカ・バイクエクスチェンジが、集団牽引の脚を緩めようとはしなかった。結局、あらゆる謀反は消し止められた。単独で粘リ続けたデーヴェニィンスもまた、ラスト1.2kmで、40人ほどの小さな集団に飲み込まれていった。

トレインのない、てんでばらばらなスプリントへと、集団は突進していった。そもそも、スプリント巧者は、ほとんど残っていなかったのだけれど……。それでもモヴィスター チームが最後まで先頭を引っ張り、「ヒルクライマー最高のスプリンター」アレハンドロ・バルベルデのために力を尽くした。集団内で唯一の「上れるスプリンター」ファビオ・フェリーネも、渾身のスプリントを切った。

遠くからのスプリント一発で、勝負は決した。ケウケレールが、ライバルたちをほぼ自転車一台分突き放して、先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた。最終的にアタック潰しの役目を果たすことになったイェーツと、最終発射台を務めてくれたダミアン・ハウスンの尽力にしっかり応え、しかも、応援に訪れていた恋人と息子の前で男を上げた!北クラシック巧者にとって、5度目のグランツール参戦でつかみとった、初めての区間勝利だった。

フランドルっ子の背後で、来季フランドルチーム(エティクス・クイックステップ)からフランスチーム(フォルチュネオ)へと籍を移すマキシム・ブエが2位に食い込んだ。フェリーネは3位に甘んじ、アレハンドロ・バルベルデは8位で走り終えた。総合トップ10選手は、ひどくナーバスだった1日を、揃ってタイム差0で締めくくった。

<選手コメント>

■イェンス・ケウケレール(オリカ・バイクエクスチェンジ)
素敵だね。初めてのグランツール勝利がより一層スペシャルなものになったのは、家族の前で勝ったから。ほんの1ヶ月ほど前に、ぼくは父親になったんだ。彼ら(息子と息子の母)は3日前からレース会場に来ていた。本当に、素晴らしいことだよ。

なにがあっても集団スプリントに持ち込もう、という意気込みでチームが動いていたわけではないんだ。朝のミーティングで、もしもぼくが前線に残っていたら、ぼくがトライすることになっていた。でも、集団スプリントのために、チームを犠牲にするつもりもなかった。最終的にそういう状況に持ち込めたことは、本当に嬉しい。だってレースをコントロールしたのは、ぼくらチームではなかったから。

初めてのグランツール区間勝利というのは、誰にとっても、キャリアにおける大きな一歩だ。この勝利も同じ。レースを勝つのは簡単なことじゃない。ぼくは幾度となく自問自答を重ねてきた。キャリア序盤にレースをいくつか勝ったけど、その先もすべてが簡単に行くわけじゃなかった。毎年、一歩一歩、段階を踏んでいった。それにキャリア序盤にぼくが勝ったレースは、みんな自国のレースだったからね。そこから先は、毎年、プロツアーのレースを転戦するようになった。このレベルですぐに勝てる選手というのは、ひと握りの強い選手だけ。時間がかかるものだよ。とにかくぼくにとっては、時間が必要だった。今年ついに勝ちを得ることができた。本当に満足している。(レース公式リリースより)


■ダビ・ロペスガルシア(チーム スカイ)
それほど楽しめなかったんだけど、この先何日かかけて、自分の成し遂げたことを実感していくのかな。今日の目的は、大きな逃げが出来た時に、前方に滑りこむこと。おかげでモヴィスター チームは冷静ではいられなくなった。彼らを仕事に駆り立てることに成功した。最終的な逃げ集団に、ぼく自身が飛び乗れたのは、単なる偶然なんだ。だから最高だったね。地元だったのも幸いした。だって今日がどれだけ厳しいステージになるのかを、あらかじめ知っていたから。最初の上りで風が吹いているのを感じて、すぐに今日は1日中向かい風に苦しめられるだろうと察知した。だからかなり鬱になっちゃったけど。(レース公式リリースより)


■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
ここ数日と同じく、厳しいステージだった。序盤の山ではたくさんのアタックが巻き起こった。総合ライバルチームの選手たちさえ、攻撃に加わった。おかげで1日中、ぼくらチームはハイスピードで走らなきゃならなかった。アルベルト・コンタドールにアタックの意志があることは分かっていた。アレハンドロ・バルベルデが彼をきっちりマークしてくれがおかげで、無問題で乗り切れた。ぼくらはあらゆるアタックに対応することが出来た。(レース公式リリースより)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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