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なんという長い1日だったのだろう。今大会最長の213.4kmを、メインプロトンはのんびり6時間以上かけて――今大会クイーンステージの前夜に――、いわゆる「サイクリングモード」で走り切った。フィニッシュまで走り切った170人の中で、真剣勝負を挑んだのはただ12人だけだった。ヴァレリオ・コンティが独走で生まれて初めてのグランツール勝利をつかみとり、セルゲイ・ラグティンは晴れて山岳ジャージを身にまとった。
フランス側バスクを通過するこの日、(歴史的な領域としての)バスク出身であり、ツール・ド・フランスを過去5回制したミゲル・インドゥラインが、スペイン一周を訪れた。ステージ中には来年のブエルタ開幕地が、フランスのニームとなることが発表された。しかも明日の第14ステージでは、フランス屈指の難峠をよじ登る……。
その前に、総合ライダーたちは、自主的な休息日を取ることに決めたようだ。スタートからわずか1kmほどで、飛び出していった12選手の背中を見送ると、モヴィスター チーム率いるプロトンは一切の勝負を止めた。
なにしろ12人の全員が、マイヨ・ロホのナイロ・キンタナから、すでに大幅な遅れを喫していた。総合で最も出来のいいコフィディスのフランス人ステファヌ・ロセットさえ、1時間12分26秒遅れだった。総合最下位=3時間00分46秒遅れのフランス人、ロマン・アルディの姿さえあった。だから後方の総合勢は、警戒する必要などまるでなかった。ただ無駄なエネルギーを消耗せず、安全に最後まで走り切ることだけに専念すればよかった。おかげでエスケープのリードはどんどん広がっていった。ステージ折り返し地点で、すでに18分近い差を開いていた。
第8ステージで逃げ切り勝利をもぎ取ったセルゲイ・ラグティンも、まんまと逃げ滑りこんだ1人だった。あの日の最終峠で、すでに山岳ポイント10ptを手にしていたウズベキスタン生まれのロシア人は、この日は4つ全ての山岳で先頭通過を奪いに行った。3pt×4=12ptを積み重ね、首位ナイロ・キンタナを1ptだけ上回り、ステージの終わりには青玉ジャージランキングトップに颯爽と躍り出ることになる。もちろん、山岳ポイントを追い越されても、タイム差がどんなに開いても、ナイロ・キンタナボーイズは追走スピードを決して上げなかった。ただチーム9人全員で隊列を組み、黙々と前に進むだけだった。
ゴール前40kmで、タイム差は20分。どんなに疑い深い人間さえも、もはや前方集団の逃げ切りを確信するしかなかった。そして上りを利用してガティス・スムクリスが試験的な加速を仕掛けると、いよいよ壮大なる警戒ごっこが始まった。
数日前に落車し、数針縫ったせいで絶好調ではなかった……というロセットが、ラスト30kmの平地でがむしゃらなスピードアップを試みた。そこに反応したイェーレ・ワライスが飛び出しを決め、ティンコフ勢としては今ブエルタ初めての逃げに乗ったミハエル・ゴグルが後を追って……。はるか後方のプロトンの静寂がまるで嘘であるかのように、前方では壮絶な化かし合いが繰り広げられた。
人が吸収されると、戦いは再び活性化した。ゴグルは最前線に留まり、スイス籍チームの2人、ダニーロ・ウィスやベガールドステイク・ラエンゲンは奮闘し、平地巧者イヴ・ランパルトも起伏に負けずきっちり前方にしがみついた。4つの山ですでに力を使ったラグティンも、残る力を振り絞って、じりじりと追い付いてきた。
そして、ゴール前18.5km、最終的に6人にまで小さくなった先頭集団の中から、するり……と前に飛び出していく影がひとつ。ランプレ・メリダのジャージを身にまとう、ヴァレリオ・コンティだ!
走行距離はほぼ20kmに達していた。誰もが疲弊しきって、足がひどく重くなっている状況の中で、23歳は極めてスムーズに加速した。ほんの1kmほど走っただけで、追いすがる5人にはあっさり30秒もの差を押し付けた。
2014年、21歳の晩夏に、生まれて初めてのグランツール=ブエルタに出場した。背中にはゼッケン1番が、燦然と輝いていた。というのはディフェンディングチャンピオンのクリス・ホーナーが出場をキャンセルし、大会前夜の金曜日に急遽呼び出しをくらっての代替出場だったから。なにより、生まれて初めてのラインステージ=第2ステージで、大逃げを打つ勇敢さを披露した!
あれから2年。人生3度目のグランツール=今季ジロでは、総合27位に食い込んだ。高いオールラウンド能力を証明した。そして4度目の体験で、ついに、生まれて初めてのグランツール区間勝利をもぎ取った。
初物好きな今ブエルタにおいて、8人目の「グランツール区間初勝利」となった。2016年のグランツールにおいては、ジロ第10ステージ覇者ジューリオ・チッコーネ(1994年12月生まれ)に次ぐ、2番目に若い区間覇者(1993年3月生まれ)だ。また所属のランプレ・メリダにとっては、ディエゴ・ウリッシのジロ区間2勝に続く、今季嬉しい3勝目だった。
コンティの歓喜の瞬間から55秒後、ウェイスがフィニッシュラインを駆け抜けた。12番目の逃げの友、カルディは3分04秒後に逃げを締めくくった。そこからさらに30分以上待って……コンティがあちこちのメディアにゆっくりと優勝インタビューを終えた後に、ようやくプロトンがゆっくりとゴールへ帰ってきた。なんと33分54秒もたっぷりと遅れたから、前夜まで総合最下位だったカルディは、下から13番目にちゃっかりと浮上した。
ちゃっかり、といえばアレハンドロ・バルベルデ。笑い合って、茶化し合いながらも、きっちり後方集団内で首位=13位フィニッシュを果たしている。すなわち緑ジャージ用のゴールポイントを3ptを計上し、あらためて首位の座を固めた(92pt、2位以下とは27pt以上の差)。また区間上位3選手の成績累計で争われるチーム区間順位でも、当然モヴィスター チームが、1日中後方で過ごしたチームの中では最高位13位を手にいれた。嵐の前の静けさだったのだろうか。総合マイヨ・ロホ争いには、一切の変動はなかった。
<選手コメント>
■ヴァレリオ・コンティ(ランプレ・メリダ)
フィニッシュラインまでひたすら全力を尽くすことだけを考えた。今日はパーフェクトな1日だった。完璧なエスケープだった。最も難しいパートで、ぼくはただ全力で飛び出すと、チーム監督の助けを得て、あとは最後まですべてを尽くした。スタッフみんなにお礼を言いたい。チーム監督、メカニック、マッサー、とにかく全員にだ。ぼくは地球上で一番幸せな人間だよ。
ぼくはまだ若いし、プロ入り3年目でしかない。今年のジロを戦って、肉体的にも、精神的も、より成熟することができた。そして今日こそ、ぼくにとって待ちに待った1日だった。この勝利こそが、輝かしい未来の始まりなんだ。
ブエルタでの目標は、エスケープに乗ることだった。毎日トライしてきた。それが叶わなかった日には、ひたすらプロトン内でチームメートのために働いてきた。総合争いのために走っているわけじゃないからね。今日はラッキーだった。だって良いエスケープに乗ることができたし、逃げ切りるには完璧な1日だった。全てがぼくの思い通りに進んだ。
こんな調子であと2年は続けていきたい。ぼくはタイムトライアルが好きだから、いつかは優秀なグランツールライダーになりたいな。それが叶わなかった場合は、クラシックに集中するつもり。でも、(今の段階では)自分の可能性に限界を設けたくはないんだ。(レース公式リリースより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
ぼくらにとって、危険なステージではなかった。だから、その状況を、上手く利用しようと思ったんだ。ここからは本物の山岳ステージが始まる。ぼくらが試される場だ。しっかり仕事を成し遂げられるよう願ってる。感触はいい。コバドンガは最高のテストだったし、あの時のような調子を再び発揮できたらと思ってる。明日はライバルたちからタイムを奪わなければならない。少なくとも、タイムを失わぬよう努力していく。チームが安全に、ぼくを最終峠の麓まで連れて行ってくれるよう願ってる。その先はぼく自身がベストを尽くす。オービスク峠は好きなんだ。ピレネーの上りは全体的に、ぼくの脚質に向いている。(レース公式リリースより)
■ダニーロ・ウィス(ビーエムシー レーシングチーム)
がっかりしてる。だって調子がすごく良かったし、自分には勝てる脚があると思っていたから。ビーエムシー レーシングチームは強豪揃いだから、今シーズン、今日のようなチャンスはそれほどたくさんは得られなかった。ぼくはヘルプ役として走ることが多かった。最高のエスケープに乗れたけれど、コンティが最強だったんだと思う。彼が飛び出していったときに悟ったんだ。すでに200km以上も走って果てに、ここから5人が協力してさらに追走を仕掛けるなんて、あまりに遠すぎる……とね。彼は本当に強い一発を、お見舞いしたんだ。(レース公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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