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フレンチピレネーは大騒ぎ。4つの難関峠が待ち構えた最難関ステージで、41人が大脱走を企てた。逃げに3人送り込んだチーム ロットNL・ユンボから、ロベルト・ヘーシンクが「復活」の山頂勝利をつかみとった。やはりエスケープに3人揃えたオリカ・バイクエクスチェンジは、遠隔チーム戦術を成功させ、サイモン・イェーツを総合7位から4位へと一気に引き上げた。総合首位ナイロ・キンタナと2位クリス・フルームは、オービスクの山道で、文字通りの「頂上決戦」を繰り広げた。マイヨ・ロホは幾度となく加速するも、最終的には、両者引き分けで狂乱のステージを終えた。
スタートからほんの15kmほど走ったころだった。大きな塊が、前方へとするする遠ざかっていった。まるでメインプロトン……とさえ見まごうほどの極大な集団が、後方に有無を言わせず、逃げへと走りだした。
滑り込んだのはなんと41人!全22チーム中、乗り遅れたのはチーム ジャイアント・アルペシンだけ。一方では6チームが3人ずつ、前方への選手派遣を成功させた。しかも総合でわずか5分38秒遅れのダニエル・モレノが前にいた。同じく逃げたセルヒオ・パルディリャも、総合5分55秒遅れでしかなかった。
巨大で、危険な逃げだった。2010年ジロで56人の逃げが発生したことがあるが、結局その中から、最終的な総合2位と新人賞が産み落とされた……。だから、総合本命たちは、絶対にこの企てを見逃してはならなかった。しかし、前方にそれぞれ3人ずつ送り込んだモヴィスター チームとオリカ・バイクエクスチェンジは、当然のように集団制御を放棄した。そもそも、今大会ここまで決して逃げに選手を送り込まなかった両チームは、あえて今ステージ、戦術として初めての逃げを打ったのだ。総合2位クリス・フルームも、かろうじて1人(ダビ・ロペスガルシア)だけは前に送り込んだけれど……。自ずとチーム スカイが、タイム差コントロールに励まざるをえなくなった。
後方集団をチーム スカイが牽引する一方で、前方ではチーム ロットNL・ユンボが惜しみなく働いた。とりわけ第10ステージで涙ぐましい献身を披露したヴィクター・カンペナールツが、またしても熱心に前を引いた。一緒に逃げたヒルクライマーの2人、ジョージ・ベネットとヘーシンクの区間優勝の可能性を引き上げるためだった。この日3つ目の峠道に差し掛かったころで、ついにリードはこの日最大の6分半にまで開いた。
後方を引かないオリカ・バイクエクスチェンジも、前方は精力的に引いた。ただしオージーの目的は、区間勝利ではなかった。サイモン・ゲランスは3つ目の山まで全力を振り絞ると、静かに下がっていった。先頭を引き継いだマグヌス・コルトもまた、山道で仕事を終えて脱落した。さらに山頂間際では、集団内でもっぱら体力温存に努めていたイェンス・ケウケレールが、ペダルを踏む脚を緩めた。同じ頃、後方メイン集団では、やはりオリカ・バイクエクスチェンジのジャック・ヘイグが1人飛び出していった。これで準備は整った。イェーツが集団からアタックを打った。
すでに先頭集団は約半分にまで小さくなっていた。序盤2つの山を制して山岳賞「暫定」首位に立ったオマール・フライレは姿を消し、3つ目の山では代わりに、ケニー・エリッソンドが首位通過を果たした。下りではこのポケットクライマー含む6人が仕掛けた。ツール・ド・スイスの落車以来、下りに対する恐怖感をいまだ払拭できないヘーシンクは、一時は50秒ほどもタイム差を開かれた。最終峠オービスクに突入した時点でも、いまだ25秒ほどの遅れを抱えていた。
そのはるか後方では、総合7位の英国人が、果敢に前進を続けていた。行く先々で頼もしいチームメートに力を借りた。ヘイグはタンデム走行し、サイモン・ゲランスとコルトは力強く牽引してくれた。さらにケウケレールは、最終峠へ向けた発射台となってくれた。登坂口の時点で、逃げの先頭からイェーツはいまだ3分半遅れており、マイヨ・ロホ集団に対するリードは1分20秒だった。
最前線では、6選手が駆け引きしているうちに、上りにはめっぽう自信のあるヘーシンクが追いついてきた。しかもラスト7kmで、逆にライバルたちを振りきった。今大会4度目の逃げを成功させたいヤン・バークランツだけが、必死にしがみついた。しかし山頂まで3.5km、「元アングリル覇者」エリッソンドが後方からカウンターアタックを仕掛けると、ベルギー人はあえなく後方に沈んだ。さらに大小2人のヒルクライマーに、ゴール前1kmで、ロシア人エゴール・シリンが追い付いてきて……。
あれほど巨大だった41人の集団が、フィニッシュでは3人になっていた。シリンは力が足りず、そもそも「山岳賞狙いだった」というエリッソンドは、2位通過の15ptと、その後に付いてきた青玉ジャージで満足するしかなかった。ほんの5日前に、コバドンガへの逃げ切り優勝を果たせなかったヘーシンクが、今度こそ両手を天に突き上げた。
天国の父に捧げる勝利であり、2014年不整脈手術からの完全復活を印象づける快挙であり、さらにはツール・ド・スイス落車時の脳震盪からの、順調な回復を示す成果だった。なにより、グランツール総合トップ7入り5回の実力者にとって、生まれて初めてのグランツール区間勝利だった。総合狙いのスティーヴン・クライスヴァイクの落車リタイアで、一時は完全に目標を失ったチーム ロットNL・ユンボにとっても、嬉しい今大会1勝目となった。
そのチーム ロットNL・ユンボのベネットが4位に食い込んだ直後に、イェーツが山頂へと駆け込んだ!つまりエスケープの残党を、最終峠だけでも最低15人はゴボウ抜きしたことになる。ヘーシンクからわずか39秒後のゴールで、ツール総合4位アダムの双子の兄弟は、同じ総合4位にまで急浮上した。
しかもチームメートであり、前夜まで総合4位だったエステバン・チャベスが、表彰台圏内へと繰り上がった。オリカ・バイクエクスチェンジが前方で奮闘してくれたおかげで、今ジロ総合2位のコロンビア人は、姿をまるっきり潜めていることができた。そしてナイロ・キンタナvsクリス・フルームのにらみ合いの隙を突いて……、温存していたエネルギーを一気に爆発させた。ゴール前4kmで飛び出して行くと、両巨頭に33秒先んじてゴールに飛び込んだ。
アレハンドロ・バルベルデが最終峠で力尽きたのも、オリカ・バイクエクスチェンジの2人にとっては幸いだった。ジロ総合3位→ツール総合6位と好成績を重ねてきた36歳大ベテランに、ついに、長いシーズンの疲れが襲いかかった。大きくタイムを失い、一気に総合19位まで陥落した。アルベルト・コンタドールもまた、改めて限界を見せた。総合では1つ順位を下げた(6位)。ただしバルベルデの脱落のおかげで、表彰台までの遅れは30秒近く縮まった(1分27秒差)。それにしても、マイヨ・ロホの1度目の加速には、しっかり反応したのだ。しかし、ラスト3km、自らが打った軽いジャブに、カウンターアタックでKOを決められてしまった。
それこそナイロ・キンタナは何発となく打ち込んだ。ツール・ド・フランスの伝統峠に入ると、いよいよ疲れが見え始めたスカイから、モヴィスター チームは主導権を奪い取った。周りで激発するミニアタックなど一切気にもとめなかった。ただクリス・フルームだけを警戒するマイヨ・ロホは、ゴール前約5km、ついに自ら攻撃に転じた。長く力強い加速だった。クリス・フルームは一瞬反応が遅れるも、高速ペダリングで距離を縮めた。その後もナイロ・キンタナは、それこそ片手では足りないほどの回数を仕掛けた。前方に控えていたモレノと合流してからも、繰り返し、スピードを上げた。現時点での総合リード54秒リードを、少しでも広げるためだった。なにしろ7月のマイヨ・ジョーヌが得意とする個人タイムトライアルが、第19ステージに待ち受けているから――。
ラスト100mまで、ナイロ・キンタナは加速を止めなかった。しかしクリス・フルームを1秒たりとも引き離すことはできなかった。総合順位やタイム差が大きく上下したステージで、上位2人の関係だけは、一切変わらなかった。
<選手コメント>
■ロベルト・ヘーシンク(チーム ロットNL・ユンボ)
本当にスペシャルな気分だ。ここまで、とてつもなくハードな1年を過ごしてきた。ツアー・オブ・スイスで落車して脳震盪を起こし、長い間トレーニングすることができなかった。これはつまり、ブエルタでの総合争いを諦めることを意味した。それでもグランツールを走りたかった。ステージ勝利のために走りたかった。こうして今、上手く行って、心から幸せだ。
(落車の後)長い間、なにひとつ上手く行かなかった。常に疲労を引きずっている感覚だった。頭から落ちたから、あらゆることを忘れてしまった。数週間はひたすら眠くて、まったく練習ができなかった。アメリカに高地トレーニングに出かけたけれど、自分の思っているような練習も積めなかった。ツールからできるだけ遠ざかっていたかった。ジローナに戻っててからは、日に日に調子が良くなっていった。
これまでずっと、チームの中で、ぼくは総合を狙う役割を負ってきた。この役割が好きだし、ぼく自身も自分は本物の総合ライダーだと考えている。でも、グランツールをただステージ勝利のためだけに走ってみたい、という気持ちもずっと持っていた。今回ついに、これが可能になった。残念ながら、チームメートのスティーヴン・クライスヴァイクが落車してしまったからでもあるんだけれど。将来的には再び、総合に集中していくつもり。それでも区間勝利というのも、素敵な気分を味わえるものだね。(レース公式リリースより)
■サイモン・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)
スタート前に計画を立てて、それを完璧に実行した。チーム全体が本当にいい動きを見せた。今日の働きが報われて最高だね。逃げていた選手たちが道のあちこちに散らばっていて、誰もが疲れきっていた。でもぼくはずっと集団内に潜んでいたおかげで、オービスクでは彼らよりちょっとだけ元気だったんだ。(チーム公式ホームページより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
チームの作戦は、前方に選手を送り出して、他のチームに追走作業を押し付けることだった。クリス・フルームからタイムを稼ぎたかったから、ああして何度もアタックを続けた。たしかに望んでいたほどには上手く行かなかったけれど、満足しているんだ。一方ではクリス・フルームがカウンターアタックを仕掛けてくるかもしれない、と神経をすり減らした。つまりタイムを失わぬよう、コントロールする必要もあったんだ。だから、満足してる。足の調子はいい。(レース公式リリースより)
アレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)
1日中、調子が良くなかった。最後の上りに入って、チームメートたちが牽引を始めた時に、彼らのリズムについていけないことを悟った。あともう少しだけ集団内で粘れたかもしれないけれど、そんなことしても無意味なんだ。いずれにせよ、脱落していったはずなんだから。この先は、ぼくらチームは全てをナイロに捧げる。いまだ首位に立っているし、今のタイム差をさらに広げなければならない。(レース公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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