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とびきり厳しかった山岳2連戦を抜けだして、164選手が低地へと帰還した。残暑の厳しい地中海岸で、久しぶりにスプリンターたちは生存証明を行った。グランツール区間初優勝の出血大サービスキャンペーンは続き、今回はジャンピエール・ドラッカーが勝ち名乗りを上げた。2日間の死闘を繰り広げてきた総合ライダーたちは、最終盤にほんのちょっとナーバスさを見せたが、何事もなく大会2回目の休息日を迎えることができた。
スタート直後に、ルイス・マテマルドネス、ダヴィデ・ヴィッレッラ、マリオ・コスタ、シルヴァン・ディリエ、スベンエリック・ビストラム、ジュリアン・モリスが飛び出した。序盤約75kmがほんのゆるやかな上りで、残り80kmは延々と下り坂……という、ほぼ逃げ切りの見込みのない1日ながら、6選手は前方で汗を流すことに決めた。
ちなみに、後者4人は、前日第15ステージを「制限時間外」で終えている。特別に救済された命を、後方で無駄には費やしたくなかったのかもしれない。一方、前夜は山で大健闘を見せ、わずか2分49秒遅れでフィニッシュしたマテマルドネスは、この日の朝、自身のTwitterでこんなアンケートを取っていた。「今日は逃げるべきか否か?追伸:昨日のせいで脚が痛いです」と。回答は79%が「Si(イエス)」。だからファンたちの期待に応えて……、陽気なスペイン人は前に飛び出したというわけ!
タイム差は3分程度にしか広がらなかった。この日唯一の難関である3級峠を越え、静かな下り坂に入ると、じわじわと距離は縮まっていった。
後方のメイン集団内では、今大会5勝目を目論むエティクス・クイックステップを筆頭に、イアム サイクリング、チーム ジャイアント・アルペシン、ボーラ・アルゴン18、ディメンションデータ等々が順番に追走作業を請け負った。下り基調でスピードは順調に上がった。幸いにも風はなく、道幅も広かった。極めて黙々と追走は行われ、ゴール前12.5kmで、予想通りに6人を飲み込んだ。
昨夜までピレネーの山奥にいたプロトンが、地中海沿岸の、完全に平坦な道を走っていた。残念ながらプロトンに、海の香りをそれほど楽しんでいる余裕はなかった。なにしろ近年の「グランツールの平坦ステージ最終盤」によく見られるように、総合上位を抱えるチームが、プロトン先頭でナーバスなポジション争いを始めたからだ。ティンコフが前方に張り出した。前日の失態を繰り返すまいと、チーム スカイも最前列でトレインを引いた。マイヨ・ロホを支えるモヴィスター チームは、常に警戒態勢を崩さなかった。
特にゴール前10kmには、細道とカーブが連続した。危険をどうにか避けようと、あまりにもビッグチームが加速を強行したものだから……、ついに集団後方から千切れていく者が続出したほどだった。
さらにラスト5kmからは、ロータリーがいくつも散りばめられていた。直線と曲線が交互に襲い掛かる道を利用して、ゴール前2.5km、ダニエーレ・ベンナーティが奇襲を仕掛けた。かつてはプロトン屈指の俊足スプリンターとしてならした35歳が、3年ぶりの区間勝利目指して、ロータリーをいくつも先頭ですり抜けた。
しかし、大会に踏みとどまる数少ないスプリンターが、ベテランの抜け駆けを許さなかった。なにしろ、ここまでの15日間で、わずか5回しかチャンスを与えられなかった。この先は第18ステージ(しかしステージ中に2級峠あり)と最終第21ステージの、2回しか機会が残されていない。だから、集団のあちこちで中切れが起こるほどの猛烈さで、ベンナーティを追い立てた。
フィニッシュ手前200m、ぎりぎりで吸収を完了した。その瞬間だった。すでに今大会2区間制し、すっかり勝利の味をしめるジャンニ・メールスマンが、スプリントを切った。ただトップスピードに乗るタイミングが、どうやら、少々早すぎたようだ。後輪から飛び出したドラッカーが、堂々と競り合い、そしてラスト50mでトップに立った。そのまま両手を天に放り出しながら、フィニッシュラインを先頭で越えた!
ブエルタ直前のブルゴス一周で区間2位に3度泣いたスプリンターが、今季一番大きな舞台で、嬉しい「今季スプリント初勝利」を手に入れた。ちなみにルクセンブルク一周でも1勝を得ているが、個人TT区間だった。
また、ずいぶんと長い間、小さなチームで過ごしてきた30歳にとって……人生でたった2度目のグランツール出場で、生まれて初めての区間勝利を手に入れた!なんと2016年ブエルタではメールスマン(第2ステージ)、リリアン・カルメジャーヌ(4)、サイモン・イェーツ(6)、ヨナス・ヴァンヘネヒテン(7)、セルゲイ・ラグティン(8)、ダヴィド・デラクルス(9)、イェンス・ケウケレール(12)、ヴァレリオ・コンティ(13)、ロベルト・ヘーシンク(14)に次いで、10人目の初勝利となった。
所属チームのビーエムシー レーシングチームにとっても、極めて大切な1勝となった。マドリード到着まで残り5日、このスイスチームは、現在チーム総合首位を突き進んでいる。
細かい分断はあちこちで発生するも、総合トップ10選手は、ドラッカーから2秒遅れの集団で揃って走り終えた。同集団内で別府 史之は15位に、新城 幸也は29位に食い込み、休息日前のステージを無事に締めくくった。
<選手コメント>
■ジャンピエール・ドラッカー(ビーエムシー レーシングチーム)
(第14ステージ最終峠の)オービスクではすごく苦しめられた。ただ、いつか集団スプリントの機会がやって来る、とひたすら信じ続けた。ぼくのキャリアにおける最大の勝利だし、ぼくの経歴にグランツールの区間勝利が加わったなんて、本当に素敵だね。ここまでのスプリントステージでは運に恵まれなかったけれど、今日は完璧だった。もちろん、ポジショニングが良かったおかげでもある。でも、やっぱり、あるべき瞬間にあるべき場所にいるというのは、運も必要なんだ。
明日は休息日。その後にはまた、厳しいステージとタイムトライアルが待っている。ぼくの考えでは、ブエルタの総合争いはいまだ終わっていない。チーム スカイは昨日の大惨害のリベンジをしてやろうと、モチベーションを抱いて乗り込んでくるはず。対するモヴィスター チームもかなり堅固に見える。この先なにが起こるかは、見ていくしかない。さらなる動きがあるだろうことは、間違いない。(レース公式リリース)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
昨日のようなステージでは、ぼくらは、アルベルト・コンタドールのような選手の動きや戦術を注視するようにしている。それから、もうプロトンにはいないけれど、「プリト」ロドリゲスのような選手とか。ふたり共に、本当に素晴らしい策略家だ。ぼくにとっての初めてのグランツールは、2012年のブエルタだった。あの伝説的なフエンテ・デ、つまりアルベルトがプリトから総合首位を奪い取ったステージに、ぼくも立ち会っている。あの日、自分自身に言い聞かせたものさ。いつかぼくが大選手になったときは、常にアルベルトには警戒しなければならないだろう、と。ツールではぼくに期待する声が多かったけれど、100%を尽くすことができなかった。だから、この大会には、モチベーション高く臨んだし、常に学び続けている。(レース公式リリース)
昨日は、チームみんなでカバ(スパークリングワイン)でお祝いするにふさわしい夜だった。だって、みんなが、本当によくやってくれたから。それでも冷静さは保ち続ける必要があった。体調をしっかり回復し、地に足をしっかりつけて、今日のナーバスなステージに臨まねばならなかった。それに、厳しくて難しいステージが、最終週に待ち受けている。ライバルはクリス・フルームだけではない。アルベルト・コンタドールもいる。たとえ彼が後方でひらひらしていようが、いかなるときも目を離してはならない人物なんだ。チャベスだって同じ。というか、オリカ全体がそうだね……。なにひとつ、すでに決まったものとして扱ってはならない。今日のステージは暑さがぼくらを打ちのめしたし、上手く走るのは難しかった。でも、リーダージャージを着ていると、すべてがちょっとずつ簡単に進むんだ。それにぼくは暑いのは得意なんだ。寒いのより好き。たしかにぼくは、寒さや雨にも強いけれどね。 (チーム公式ホームページより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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