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2度目の休息日が明け、いよいよマドリード到着が近づいてきた。年末には4年間の短い歴史を閉じ、あと4日後にはグランツールから永遠にさよならするイアム サイクリングが、今季4つ目のグランツール勝利を祝った。スイスチームをリーダーとして3年間支えてきたマティアス・フランクが、自身初めてのグランツールの栄光を手に入れた。まるで常軌を逸したような激勾配で、総合上位4人はギリギリの攻防を繰り広げた。結果は4者引き分けに終わった。
のんびりと海辺で休息し、元気を取り戻した一行は、猛スピードで走り始めた。特に終わりに向けて、そろそろ帳尻合わせが必要な者たちは、熾烈な戦いを厭わなかった。
たとえば青玉ジャージを狙う面々は、スタートから20km地点の2級峠へ向けてこぞって加速した。山岳賞首位のケニー・エリッソンドが苦しむ中、現在2位にして、1年前の山岳賞オマール・フライレが、首位通過をかすめとった。今区間のポイント収集合戦はこれにて打ち止められたが、2人の差はわずか3pt。第18区間で最大5pt、第20区間で最大35ptが収集可能なことを考えると、いまだ決着には程遠い。
この日も含めて、区間勝利のチャンスは、5回しか残っていなかった。しかもタイムトライアル(第19区間)とスプリント(第21区間)の存在を考えると、実質的な機会は3回。だから、大多数の選手にとって、激坂フィニッシュが自分向きか否か……なんて悩んでいる余裕はなかった。猛烈なアタック合戦は続いた。45kmほど走って、ようやく、大きなひとかたまりが飛び出した。最終的に28人がエスケープに乗った。
総合首位ナイロ・キンタナ擁するモヴィスター チーム、2位クリス・フルームのチーム スカイ、3位エステバン・チャベスのオリカ・バイクエクスチェンジが、それぞれ2人ずつアシストを送り込んでいた。4位アルベルト・コンタドールのティンコフからも1人。ちなみに最も多数派だったのはイアム サイクリングの3人だ。そして、モヴィスター チームは、どうやら逃げ切りを望んでいた。うっかり吸収して、総合ライバルたち(というかクリス・フルーム)にボーナスタイムを取られたくはなかったし、うっかり近づきすぎて、チーム スカイやオリカ・バイクエクスチェンジのアシストたちに前方待機→アシストの機会も与えたくはなかった。だからスペインチームは淡々とリズムを刻みつつ、ゴール前70kmで最大7分45秒ものタイム差を与えた。
これにしびれを切らしたのが、ビーエムシー レーシングチームだった。チーム総合で現在首位につけるスイス資本のアメリカ籍チームは、逃げ集団に1人しか送り込めなかった。つまり、このまま大差で逃げ切りを許してしまうと、前に2人抱えるチーム総合2位モヴィスター チームに、接近されてしまう可能性がある(チーム総合順位は、各ステージ単位でのチーム内上位3人のゴールタイム総計が用いられる)。だから、できる限り、タイム差を縮めなければならない。
こうしてビーエムシー レーシングチームの数選手が集団前方に駆け上がると、猛烈な牽引作業に乗り出した。ちなみに、前方も大人数だったせいか、タイム差は思うようには縮まらなかった。この日だけでモヴィスター チームから5分近く縮められたが(現在19分30秒差)、チーム総合首位の座は守り切っている。
逃げ切りを許された28人の集団は、残り30kmで早くも分裂した。ダリオ・カタルドの加速に、マティアス・フランクが呼応すると、あっさりと飛び出しは決まった。そのまま30秒ほどのタイム差をキープしながら、全長3.8kmの最終峠へと突入した。
ブエルタ初登場のマス・デ・ラ・コスタを登り始めた途端に、2人の両足には、12.5%の難勾配が襲いかかった。しかも、この勾配は、極めて簡単な部類でしかない。むしろ延々と20%近い勾配が続く道で、誰もが、文字通り一寸ずつしか前に進めない状況だった。
極限だった。それでもゴール前2.7km、2015年ツール総合8位のフランクが、持てる力をすべてペダルに踏み込んだ。2012年ブエルタで、25%ゾーンを含む超激坂クイトゥ・ネグルを制したイタリア人を、ほんの少しだけれど、突き放すことに成功した。そのまま2人の距離は、じわり、じわり、と広がっていく。
後方に残された26人からは、ヒルクライムの得意な選手が、必死の形相で追走を仕掛けていた。今大会最難関ステージで伝統峠オービスク峠を制したロベルト・ヘーシンクや、普段はクリス・フルームの山岳アシスト役として奮闘するレオポルド・ケーニッヒが、ほんの少しずつ、最前線へとにじり寄っていた。しかし、総合トップ10を狙って乗り込んだツール・ド・フランスで途中棄権を余儀なくされ、「走る喜びを取り戻したい」「自分自身を証明したい」と強く願いつづけたフランクは、どれほどの難勾配ゾーンに差し掛かろうとも――最大21%――決してリズムを崩さなかった。フィニッシュライン直前まで勾配の緩まぬ山道で、安定したペダリングを貫き通した。執拗に追いかけてきたケーニッヒをわずか6秒差、ヘーシンクを11秒差で振り切ると、堂々とてっぺんをさらいとった。
皮肉なことに、過去3年間どれだけ頑張ってもグランツール区間を勝てず、ジロ期間中に「スポンサーの旨味がない」と今季限りでの解散を告げられたイアム サイクリングが、今季4つ目のグランツール区間勝利を手に入れた。母国スイス籍のチームジャージを着て走るスイス人にとっては、生まれて初めてのグランツール区間勝利だった(今大会「初」勝利を手にしたのは11人目!)。年末に30歳となるオールラウンダーは、来季からは、Ag2rでロマン・バルデの山岳補佐役を託される。
ビーエムシー レーシングチームがせっせと引っ張り、最終盤はオリカ・バイクエクスチェンジも先頭で突っ走ったメイン集団は、約4分45秒差で激坂のバトルへ踏み込んだ。しかし山道に突入すると同時にモヴィスター チームが制御権を取り戻し、大量4人でテンポを刻んだ。逃げていたチーム スカイの1人、ミカル・ゴラスも前から降りてきたけれど、すぐに突き放した。ビーエムシー レーシングチームのベン・ヘルマンスやチーム カチューシャのマトヴェイ・マミキンの飛び出しは、マイヨ・ロホ争いには直接的な影響がないとして、放っておいた。
ただアルベルト・コンタドールがアタックを仕掛けると、話は違った。総合ではすでに4分02秒も突き放して入るが、3大ツール全覇者の動きを、やすやすと見逃すわけには行かない。モヴィスター チームは黙々と距離を縮めにかかった。最終的にはナイロ・キンタナ自らが加速して、大先輩をとらえた。アルベルト・コンタドールから総合でわずか5秒のリードしか有していないチャベスも、サイモン・イェーツの助けを得て、すぐに後輪に飛び乗ってきた。
ただクリス・フルームだけは……いつものように、激坂では自分のペースで上るほうを好んだ。メイン集団の後方から、ゆっくりと追い付いてきた。やはり3分37秒ものリードを有しながら、個人タイムトライアルを終えるまではどうも安心できないナイロ・キンタナは、クリス・フルームの接近を感じてさらなる加速を畳み掛けた。7月のマイヨ・ジョーヌは一旦は距離を開かれるも、粘り強くペダルを回し続け、再びしっかりとライバルの背後に舞い戻ってくるのだった。
チャベスがスピードを上げたときも、状況は同じだった。フィニッシュ100m手前では、アルベルト・コンタドールが最後の力を振り絞った。ほんの1秒でも分断を作り出そうと、得意のダンシングを見せた。しかし、いかなるときも、クリス・フルームはもちろん、4人の中で誰一人として脱落する者はいなかった。
結局はフランクから3分27秒遅れで、総合首位ナイロ・キンタナ、2位クリス・フルーム、3位チャベス、4位アルベルト・コンタドールは揃って1日を終えた。もちろん総合順位にも、2位から4位までが25秒差以内という力関係にも変化はなかった。一方で4位アルベルト・コンタドールと5位イェーツとのタイム差は、1分05秒から2分01秒へと大きく広がった。
<選手コメント>
■マティアス・フランク(イアム サイクリング)
すごく満足してる。これまで必死にトライしてきて、2回はあと少しのところまで近づいて。そして、ついに、ぼくはやり遂げた。本当にすごいことだよ。2年間勝利から遠ざかっていたから、そろそろ勝つべき時だった。とにかく、勝つのは最高に素敵だね。
(途中棄権した)ツール・ド・フランスの後、今大会には、良い感覚を取り戻すためにやってきた。ツールで見せてしまったようなひどい選手じゃないんだ、と証明するために。それにグランツールの区間勝利が欲しかった。それを今、成し遂げることができて、本当に素晴らしいよ。
ただ言えることは、ぼくら(のチーム)はいつだって攻撃的に戦ってきたこと。いつだって逃げに乗ってきた。そして今年は、あらゆるグランツールで区間勝利を上げてきた。このチームになにができるのか、証明してきた。終わりが近づいているなんて、みんなにとって、残念だ。(レース公式リリースより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
数カ月前に今日の最終峠は下見していた。今日まさしく自分の脚で感じたように、厳しい峠だと分かっていた。だから少し神経質になっていたんだ。だって、あれほど短くて、勾配がきつくて、パワフルなフィニッシュには、いつだって苦労させられてきたから。幸いにも、ぼくは調子が良く、ライバルたちのペースについていくことができた。36×29で上った。今日のフィニッシュにはパーフェクトだったよ。1つ、もしくは2つ小さい歯数を選んでいたら、おそらく厳しすぎただろうね。エサロ(第3ステージ)とカンペローナ(第8ステージ)、そして今日の上りはそれぞれにかなり違うし、それぞれに必要とするペースが異なる。ぼくにとってはカンペローナが一番難しい。たしかに、あの場所で、ぼくはライバルたちからタイムを奪ったんだけどね。今日に関しては、特にアタックを打ったわけではない。ただ、ひたすら守りに入るよりは、残りのレースもこんな風に続けていきたい。調子はいいし、今日もまたチームはやるべきことをやってくれた。このまま上手くやり遂げられるよう、願っているよ。(チーム公式ホームページより)
■アルベルト・コンタドール(ティンコフ)
足の調子がいい時は、こういう上りは幸せをもたらしてくれる。さもなければ、間違いなく、楽しくなんかないよね。みどころたっぷりのステージだし、ファンたちはこの種のフィニッシュが大好きだけれど、たしかに、ここでタイム差を開くのは難しいだろう。だって選手間の走行速度の違いは、たった1kmにしかならないんだから。昨日は頭の中でずいぶんと葛藤した。天使の言うことに従うべきなのか、それとも「アタックしろ」という悪魔の囁きを聞くべきなのか、って。今日は悪魔が勝った。この先の彼は、ぼくになんて囁いてくるんだろう。ただ、ぼくが信じているのは、物事は自分のなすようにしか進まないということ。自らで立ち向かっていかなければ、何事も成し遂げることなんてできないということ。今大会でも、ツールでも、ぼくは自分の立ちたい場所には立てなかった。でも、ぼく自身は楽しんでいる。そして、ぼくの唯一の望みは、この先も楽しみ続けることなんだ。(レース公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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