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今大会ステージの3分の2が、「グランツール初優勝」の喜びにわいている。この日はなんと、12人目の初優勝選手が誕生した。しかも23歳のマグヌス・コルトにとっては、今ブエルタこそが、生まれて初めてのグランツールだった!人生6度目のグランツールを戦う別府 史之は、「グランドスラム」を達成した。2011年ジロ第10ステージのフーガ賞、2009年ツール第21ステージの敢闘賞に続き、初出場ブエルタでも敢闘賞を手に入れた。翌日に勝負の個人タイムトライアルを控えつつ、総合勢は単純なはずのスプリントステージを、少々ナーバスに終えた。
暑い1日に、あっさりとエスケープ集団はできあがった。ここまで片手で足りないほどの飛び出しを繰り返してきたピエール・ローランを筆頭に、マルコ・カッタネオ、クエンティン・ハウレギ、そして我らが別府 史之が、スタートから6km地点で逃げの許可を得た。ルイ・ヴルヴァークもすぐに追いくと、5人で逃げはじめた。
行く先に2級峠が1つ待ち構えるだけの、いわゆる平坦ステージだった。つまり5人のままでは、逃げ切り勝利は、どう考えても不可能だ。だから、5人は、ちょっとした「駆け引き」を試みた。すぐに5分程度のリードを奪ったというのに、スタートから70km地点の2級峠の上りで、逃げスピードをあえて落とした。わざとゆっくりと山を上り、タイム差を2分半ほどにまで縮めた。できる限りプロトンとの距離を縮めて……、後方からさらに数選手が合流してくるのを待つ作戦だ!
ギリギリまで我慢したけれど、残念ながら、誰も飛び出しては来てくれなかった。5人は再びスピードを上げるしかなかった。2級峠は別府が先頭で越えた。147km地点の中間ポイントではヴルヴァークが1位通過、別府が3位通過を果たした。タイム差は最大6分45秒ほどにまで開いた。
ゴールまで50km。後方メイン集団へのリードはいまだ4分半ほど保っていた。しかし、ここから、急激にタイム差は縮んでいった。地中海沿いのフィニッシュラインへ向けて、道がひたすら下り基調だったせいでもある。なによりエティックス・クイックステップ、チーム ジャイアント・アルペシン、ボーラ・アルゴン18、イアム サイクリング、ディメンションデータの5チームが、精力的にメイン集団を引っぱった。あまりにもスピードを上げすぎて、時にメイン集団内で、小さな分断さえ発生したほどだった。
もちろん逃げ集団は、仲間割れもせず、夢中で先頭交代を続けた。途中でカタネオが脱落したのも気にせずに。しかし、向かい風の中、確実にタイム差は縮んでいく。残り40kmで2分45秒差、30kmで1分40秒、20kmで30秒。
しかもゴールの接近と共に、総合系チームが集団加速に加わり始めた。近頃、平坦ステージの最終盤では、すっかりおなじみの風景だ。もちろん彼らの目的はステージ優勝ではない。ひたすら「救済地点=3km」に到達するまで、落車や分断をできるかぎり避けるため……。特にチーム スカイとモヴィスター チームの加速が、逃げにとどめをさした。ゴール前11.3km、エスケープには強制的に終止符が打たれた。
それでも、別府 史之と日本のファンたちにとっては、素敵なご褒美が待っていた。すでにジロのフーガ賞(単純に逃げ距離で計算)、ツールの敢闘賞(審判団が選出)を手にしてきたる別府が、第18ステージの敢闘賞に選出されたのだ!
ちなみにブエルタでは、あらかじめ審判団がプレセレクションした3選手の中から、ファンたちがお気に入りの1人にTwitter投票を行うというシステムが採用されている。この日は別府 史之、ハウレギ、ローランの3人が選ばれ、最終的に別府80%、ハウレギ5%、ローラン15%……という圧倒的な得票率で、別府 史之がステージ後の表彰台に上がった。しかも、ジロは翌日ステージ前の表彰、ツールは最終日の特別体制で、総合表彰台の脇のテントの中でひっそりと盾の受け渡しだけだったから、つまり別府 史之にとっては生まれて初めての表彰台だった!!
エスケープを飲み込んだ後も、スプリンターチームに混ざってチーム スカイやモヴィスター チームが、精力的にプロトン前方に位置取りを繰り返した。町中の細道やロータリーが繰り返し訪れ、ひとつになったばかりの集団は、後方から次々と分裂していった。ゴール前4kmのアーチを過ぎた瞬間に、ヤン・バークランツがアタックを仕掛けると、さらに集団はひとまわりちいさくなった。ラスト3kmでようやく総合勢は第一線から退き、2km手前でバークランツは飲み込まれ、そして、ボーラ・アルゴン18とチーム ジャイアント・アルペシンが先導するメイン集団は、猛スピードでラスト1kmへと飛び込んだ。
ゴール前600mの最終コーナーでも、いまだドイツの黒ジャージ2チームが先頭を突っ走っていた。ところが、チーム ジャイアント・アルペシンの発射台が最前線から退くほんの寸前に、深い青のジャージが先攻を仕掛けた!オリカ・バイクエクスチェンジのマグヌス・コルトだった。広い道の反対側からは、第16ステージのスプリントを制したジャンピエール・ドラッカーも猛烈なスピードで上がってきていたが……、この日もブエルタの女神は勝利未経験者に微笑みかけた!
今大会通算12人目のグランツール初勝利を、我々は目撃することになった。しかも第4ステージのリリアン・カルメジャーヌ、第7ステージのヨナス・ヴァンヘネヒテンに次ぐ、今大会3人目のグランツール初出場・初勝利でもあった。所属チームのオリカ・バイクエクスチェンジにとっては、第6ステージのサイモン・イェーツ、第12ステージのイェンス・ケウケレール(2人共やはりGT初勝利)に続く3人目の区間勝利だった。
最終盤の小さな分断で、先頭集団は60人ほどにまで数を減らしていた。もちろん総合上位20選手は、揃ってコルトと同じ先頭集団で何事もなく1日を終えた。日本の新城幸也は先頭集団で、長きにわたって前線で奮闘した別府 史之は、4分4秒遅れの集団でゆっくりとステージを締めくくった。
<選手コメント>
■マグヌス・コルト(オリカ・バイクエクスチェンジ)
長いスプリントだった。最後のカーブに好ポジションで入るよう注意を払った。閉じ込められやしないかと、少しひやひやさせられたけれど、第2ステージ以降ちょっと自信もつけていたんだ。チャベスやイェーツがプロトン前方に留まるよう、チーム全体で配慮を続けていたから、ぼくはただみんなの後輪に入って、自分のスプリントのために力を蓄えた。ゴール前3km、チームみんながあるべき場所にいた。だからようやく、ぼくは自分のことだけを考え始めた。ある意味、チームがぼくを助けてくれたんだ。
ファンタスティックだよ。ぼくにとって初めてのグランツールだ。最終週だからぼくらみんな疲れているけれど、こんな勝利のおかげで、やる気を高く持ち続けられる。ぼくの周りには素晴らしいチームメートが揃っているし、総合につけている選手さえいる。おかげでぼくらみんな、最終週になっても、意欲も集中力も保ち続けられているんだ。
(この勝利は)多くの意味を持つ。勝利を夢見る若い選手たちは、「自分にはレースを勝てるんだ」と証明しなければならない。キャリアのこれほど早い段階で、こんな大きな勝利を手に入れられるなんて、ファンタスティックだよ。ぼくはまだ若いし、成長の過程にいる。まだ夢を追い求めている真っ最中だ。自分はなかなかのスプリンターだと思うけど、トップスプリンターほどの速さはない。でも、上りも、かなり上手くこなせる。だからこの先は、ベルギークラシックスペシャリストとして、成長していきたいと願ってる。(レース公式リリースより)
■別府 史之(トレック・セガフレード)
勝利ではなかったけれど、何かをトライしよう、何かをしてやろう、という試みが認められたのは嬉しい。昨日は調子が良くなかった。だから今日は、逃げに乗ってやろうというモチベーションが高かった。ただ最終目標は、フェリーネのスプリントのためだったんだ。
プロトンとちょっとした駆け引きを試みた。スピードを一旦落として、それから、第2カテゴリーの山岳のラスト3kmで本気の加速を始めた。タイム差は縮まって、広がって、再び縮まった。ぼくらは、必死に努力した。でも、簡単なことではなかった。ラスト30kmは向かい風が吹き付けていたから。ぼく自身は満足している。だって、ようやく逃げに乗ることができたわけだから。前を走る喜びを噛み締めた。逃げられたことに満足している。それに、まだ、大会は終わっていない。まだ3日間残っている!(チーム公式ホームページより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
明日のタイムトライアルはかなり長い。でも、スペシャリスト向けだとも思わない。上りパートがあるし、起伏やカーブもいくつも潜んでいる。好タイムを出し、堂々とジャージを守りたい。これはぼく個人にとって大いなる挑戦だ。タイトルに徐々に近づいている、と言いたいけれど、でもまだこの先に重要なステージが2つ残っている。注意深くあらねばならないし、土曜日はアタックに警戒しなきゃならない。明日はより単純で、ただ自分のバイクにまたがって、自分の走りだけに気を配ればいい。マイヨ・ロホのおかげで、間違いなく、アドレナリンが出ているよ。まさしくボーナスのようなものだ。明日もジャージを守りに行くし、チームさえついていたら、土曜日も問題なく終えることができるだろう。明日は冷静に過ごすつもり。午前中に走りに行って、コースを下見して、それからウォーミングアップを開始する。(レース公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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