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サイクル ロードレース コラム 2016年9月12日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016 第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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宵闇せまるマドリードで、今季最後のグランツールが大団円を迎えた。マグヌス・コルトが自身2つ目のスプリント勝利をさらいとり、ラストスプリントに飛び込んだ新城 幸也と別府 史之が、それぞれ12位と13位で最後のステージを締めくくった。ナイロ・キンタナが赤き衣を身にまとい、大量に詰めかけたコロンビアのファンたちが、祖国の偉大なるチャンピオンに惜しみない賛辞を送った。

夏の真っ盛りに、カンタブリアの海辺から198人で走り始めたプロトンは、3週間の長い戦いを終えて、159人でマドリードへとたどり着いた。とてつもなくハイレベルで、最高に熱狂的だった総合争いは、前夜のアイタナ山頂で全て幕を閉じていた。大会最後の日曜日、残すは華やかなスプリント勝負だけ。マイヨ・ロホ獲りを成功させたモヴィスター チームが、カヴァのはじける泡でたっぷりとお祝いしたあと、先頭で最終周回コースへと滑り込んだ。

山岳ジャージは、いつになく激しい争奪戦の果てに、2年連続でオマール・フライレの肩に羽織られていた。チーム総合は、リーダ格のサムエル・サンチェスとティージェイ・ヴァンガーデレンの途中リタイアがありながらも、ビーエムシー レーシングチームが守り通した。ブエルタ独特の白い複合賞は、第10ステージ以降ナイロ・キンタナが首位で突っ走り、結局レース中には1度も着ないまま持ち帰ることになった。

ただ、緑色のジャージだけは、最終日になってもいまだ持ち主が確定していなかった。前日の驚異的なエスケープで、ファビオ・フェリーネがポイント賞首位に踊りでた。しかし、長らくトップの座を守り通してきたアレハンドロ・バルベルデが、わずか7ポイント差で3位につけていた(2位は3ポイント差でナイロ・キンタナ)。すでに過去3度ポイント賞に輝き、しかも2012年と2015年には、最終日のスプリントでジャージをさらい取った無敵男を……、決して油断することなどできなかった。

フェリーネにとって幸いなことに、全長5.8kmの市街地サーキットに入った途端に、4選手が次々と飛び出していった。クエンティン・ハウレギ、ロイック・シェトゥー、ピーター・ケノー、クーン・ボウマンが、今大会最後のエスケープに打って出た。おかげで、2度目のフィニッシュライン通過時にもうけられた中間スプリントでは、直接的ライバルにポイントをさらい取られる心配はなくなった。

メイン集団は変わらずモヴィスター チームが制御し、時にはアレハンドロ・バルベルデ本人が先頭を牽引することさえあった。しかし周回を重ね、タイム差が最大1分10秒ほどにまで開くと、複数のスプリンターチームが徐々に前線へと位置取り始めた。

マドリードの目抜き通りで、スピードはぐんぐん上がっていった。2周回を残してボウマンが力尽き、さらに残り8.5kmでケノーもペダルをこぐ足を緩めた。ただフランス選手2人だけが最後まで粘り続けた。しかし最終周回突入を告げる鐘の音と共に、ハウレギが集団へと引き戻され、そしてラスト5kmで、シェトゥーの奮闘も終わりを告げた。

独特なT字サーキットでは、コーナーをすりぬけるたびに、着実なポジション取りが要求された。ラスト3.5kmのU字カーブ後にはティンコフが主導権をさらい取り、2km手前の直角コーナーでは、フェリーネは安全を期してアレハンドロ・バルベルデの後輪にひたすら張り付いた。最後のUターンを抜けだし、真っ先にスプリントを切ったのは、ティンコフのダニエーレ・ベンナーティだった。2007年にマドリード最終ステージを制した35歳大ベテランは、今大会スプリント2勝のジャンニ・メールスマンと競り合った。

しかし、エアロスーツが、2人の間をすり抜けた。24時間前にはエステバン・チャベスのためにチーム全員で猛攻を行ったオリカ・バイクエクスチェンジが、この日はスプリンターを輝かせた。第12ステージでやはりスプリント勝利を手にしたイェンス・ケウケレールが、この日は最終発射台役を務めた。マグヌス・コルトが先頭へと駆け上がると、そのままフィニッシュラインを鮮やかにさらいとった!

ほんの3日前に、グランツール初出場・初区間勝利の快挙を祝ったばかりの23歳が、早くも2勝目を手に入れた。2016年ブエルタで区間勝利を上げた17人中、最終的には13人が、グランツール初優勝の喜びを味わった。初出場初優勝は第4ステージのリリアン・カルメジャーヌ、第7ステージのヨナス・ヴァンヘネヒテン、第18ステージのコルト、そして第20ステージのピエール・ラトゥールの4人だった。また複数勝利(2勝)はメールスマン、クリス・フルーム、そしてコルトの3人。

別府 史之と新城 幸也も最終スプリントに加わり、そして別府 史之のチームメートのフェリーネは20位、アレハンドロ・バルベルデは48位で最後のステージを締めくくった。この瞬間に、トレック・セガフレードの上れるスプリンターのポイント賞受賞が決定した。チームにとってはジロのジャコモ・ニッツォロに続く、今季2枚目のポイント賞ジャージとなった。

スプリンターたちが大急ぎで駆け抜けた背後では、赤いジャージが天にガッツポーズを突き上げながら、大会最後のフィニッシュラインを越えた。26歳のナイロ・キンタナが、2014年ジロ・デ・イタリアに次ぐ、自身2度目のグランツール制覇を成し遂げた。所属チームにとっては通算4回目のブエルタ総合・14回目のグランツール総合優勝。また1987年ルイス・エレラに次ぐ、史上2人目のコロンビア人ブエルタ王者となった

7月のツールでは上から3番目の場所に立ったナイロ・キンタナだが、あの時は最上段にいたクリス・フルームが、スペインでは総合2位で終えた。またジロでは総合2位だったチャベスが、ブエルタでは3位についた。つまり3人が3人共に、2016年2度目のグランツール表彰台を楽しんだことになる。残念ながらクリス・フルームの挑戦、つまり1978年以来初となるツール&ブエルタの同一年制覇は、失敗に終わった。ただ決して不可能な賭けではないことを、自転車界は改めて認識させられた。

ちなみにジロ総合3位のバルベルデは、ポイント賞こそ逃したけれど……、フェアプレー賞受賞者として表彰式に臨んだ。また惜しくも総合4位に終わったアルベルト・コンタドールは、その勇敢なる走りが讃えられ、総合敢闘賞に選出された。

2016年ブエルタの戦いは、美しく幕を閉じた。来年はジロ・デ・イタリアが記念すべき100回大会を迎えるから、例年以上にビッグネームたちの参戦が期待される。おそらくツール・ド・フランスでは、ナイロ・キンタナが3大ツール全制覇をかけて、新たにクリス・フルームと熾烈な戦いを繰り広げるに違いない。そして1年の終わりには……、いつも通りに、3大ツールで一番クレイジーなブエルタ・ア・エスパーニャが待っている!楽しみな2017年大会は、フランスのニームから走り始める。

<選手コメント>

■マグヌス・コルト(オリカ・バイクエクスチェンジ)
どの勝利もとても特別な味がする。最初の勝利はとても素敵だったし、今回もまた素敵だった。終わってみて、こうして2ステージも勝てたことに興奮しているよ。Uターンが多くて、トリッキーな最終盤だった。イェンス・ケウケレールがぼくをしっかり守ってくれたし、素晴らしいリードアウトを行ってくれた。長いスプリントだった。ぼくは誰かの後ろに閉じ込められてしまったんだけど、なんとか前にすり抜けることができた。(この3週間で)エネルギーを温存することを学んだ。最初の週はちょっと控えめに走って、最終週に向けて体力を残しておけるようにした。そのご褒美を手にしたのさ。ぼくはクラシックに向いていると思うんだ。もちろんこの先もスプリントでベストを尽くすつもり。でも正直に言うと、今大会では、世界最高のスプリント争いが行われたわけじゃないからね。(レース公式リリースより)

■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
昨日のフィニッシュラインを越えた時に、ようやく純粋なる喜びを感じ、安らかな気分になった。とんでもない1日を乗り越えた。難しいステージだった。全てを失ってしまう可能性もあった。でも、そんな事態には陥らなかった。ぼくを支えてくれた偉大なるチームに感謝だね。彼らは最初から最後までぼくを助けてくれた。3週間通してずっと変わりなく。選手、監督、メカニック、マッサー……チーム全体がぼくのために働いてくれて、ぼくが必要とする全てを整えてくれた。この勝利は彼らのものであり、みんながこの瞬間を楽しむに値する。

このブエルタには、不満を抱いて乗り込んできた。ツールで総合優勝を本気で狙いに行けなかったせいなんだ。それでも、極めて冷静だった。開幕前のトレーニングで、身体の調子がいいことが分かっていたし、データ類も自分が好成績を望めることを示していた。それに開幕時から、チームがぼくを信頼してくれた。

このブエルタ総合優勝はぼくにとって大きな意味を持つ。ツールで表彰台に登れたのは、自分の足のおかげではなく、むしろほかの選手が脱落していったから。フランスではまるで調子が良くなかったからね。でも、ここでは、自分のベストコンディションを取り戻せた。なによりこのレースには、現プロトンにおける強豪総合ライダーの、ほぼ全員が勢揃いしていた。強いクリス・フルーム。アルベルト・コンタドールには、常に警戒を払い続けなければならなかった。そしてチャベスにオリカ・バイクエクスチェンジ……。こんなやり方で、こんな彼らを相手に勝てたことが、より一層この勝利を価値のあるものとしてくれるんだ。(チーム公式ホームページより)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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