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写真:第2ステージを制したキッテル
ドイツとベルギーを股にかけて行われたステージで、ベルギーチームのドイツ人、マルセル・キッテルが歓喜の瞬間を味わった。2017年ツール最初のラインステージの大半はツール初心者が盛り上げ、冷たい雨の中では、前日に続きヒヤリとするような落車が発生した。ビッグネームが幾人も巻き込まれたが、幸いにも、総合争いに止めを刺すような大事態とはならなかった。
人垣は途切れなく続いた。11年ぶりにやってきたツール・ド・フランスが、たった1日半でドイツから立ち去ってしまうことを名残惜しむように、日曜日のコース沿道は観客でびっしり埋まった。3年前の英国開幕にも負けないほどの人出だった。ただ、ここでは誰もが節度を持って、選手の通過を温かく見守った。ゼロkm地点で逃げ出した4選手にも、後方のメイン集団にも、心からの声援が送られた。
大会初のラインステージにふさわしく、逃げ集団にはフレッシュな顔ぶれが揃った。トマ・ブダ23歳、テイラー・フィニー27歳、ローラン・ピション30歳、ヨアン・オフレド30歳..の4人には共通点があった。それはツール・ド・フランス初出場であること。初めて乗り込んだ世界最高の舞台でも、物怖じせずに、4選手は勇んで前へ飛び出した。
写真:逃げる4名の選手、先頭はフィニー
初逃げの醍醐味と言えば、やはり山岳賞の行方である。しかし、運命は、6.5km地点であっさり決まった。
「あらかじめ逃げようと計画していたし、このジャージ獲りも、あらかじめ計画していたんだ」(ミックスゾーンインタビュー)
と語ったフィニーが、大会最初の山岳(4級)で首位通過を果たしたからだ。最終盤に、確かに、4級峠はもうひとつ残っていた。ただ大会規則によると、ポイントが同点で並んだ場合は総合上位の者に山岳賞が与えられるため、前夜の好走で12位に食い込んだ元トラック世界チャンピオンが「ほぼ」ジャージを確定させたことになる。それでも、道はすでにベルギーへと入り、お隣ドイツにも負けないほどの大量の..、いや、むしろ「ラルプデュエズ」のようなお祭り騒ぎを繰り広げる観客の目の前で、2度目の4級峠もきっちりフィニーは先頭で山頂を越えた。
10代で虹色のジャージを身にまとい、21歳でジロ・デ・イタリアのピンクジャージをを3日間着用した早熟なエリートが、少々遅すぎたツールデビューで、赤玉ジャージを颯爽とさらい取った。しかも、そのまま、下りでさらなる加速を試みた。初めての冒険を少しでも長引かせようと、ただオフレドと2人きり、熱心に先を急いだ。
もちろん大会最初の平坦ステージであるから、スプリンターチームが簡単に手綱を緩めるわけはない。決して3分半以上のタイム差は許されなかった。いつしか降り出した大粒の雨も、メイン集団の脚を止めてはくれなかった。4人の背後では、エース級スプリンターたちが中間スプリントで本気でジャブを打ち合い(アレクサンドル・クリストフが集団先頭=5位通過)、来るべくフィニッシュラインでの真剣勝負に向けて猛烈に前進を続けた。
ただし、プロトンの勢いは、一旦削がれた。フィニッシュ手前30km。濡れた路面で、集団落車が発生したからだ。しかもマイヨ・ジョーヌ姿のゲラント・トーマスを筆頭に、クリス・フルーム、ロメン・バルデ、リッチー・ポートという総合有力勢が次々と地面になぎ倒された。不幸中の幸いか、ジャージのあちこちが破けたり、メカトラに悩んだりする選手も多かったけれど、誰もが再び走り出した。スプリンター軍団が後方に配慮して少し減速したおかげで、大部分の選手はすぐに集団復帰も遂げた。「G」は黄色いジャージをしっかり守ったし、フルームは「背中の皮をちょっと失う」程度で済んだ。
写真:終盤の集団落車
すなわち、この集団落車が、フィニーやオフレドの頭の中の、もしかしたら、という思いを強めた。実際にアメリカ人は「ラスト10kmから」信じ始めたというし、フランス人も「最後まで行けるかもしれない」と考えた。そのラスト10kmで、タイム差は50秒。両者は余計な駆け引きなどせずに、一心にペダルを漕ぎ、先頭交代を繰り返した。ラスト5kmで30秒差。いまだ2人に諦める気配はなかった。最終カーブを抜けた直後のラスト2kmで12秒差。そこからの直線で急速に距離は縮まっていく。万事休す。残り1kmフラムルージュの手前で、約202kmのエスケープは幕を閉じた。
ギリギリの吸収劇のせいで、スプリント隊列には大いに乱れが生じた。
「コントロール不能となり、誰もが自分の場所を確保しようと右往左往した」(記者会見)
こう語るキッテルも、ほぼ孤立状態に陥り、前方になかなか抜け出せなかった。それでも、ダイナミックで、パワフルな集団フィニッシュを実現させた。すでにツールで2回(2013・2014年)、ジロでも2回(2014・2016年)、「大会最初の集団スプリント」を制した経験を裏付けるように、今大会でも驚異的なスタートダッシュ力を披露した。
「調子は最高だし、非常に強いチームが僕のために働いてくれている。つまり、この先もいくつか勝ち取るチャンスがあるだろう、と考えている」(公式記者会見)
なにより個人としても、チームの一員としても、絶対に勝ちたい――いや、勝たねばならない――ステージで、並み居るライバルをまとめて後方へと置き去りにした。フィニッシュ直後には、思わず嬉し涙があふれてきた。
「とてつもなく大きな感動だ。たくさんの観客が訪れるだろうと予想していたけれど、あれだけの人々を実際に目にして、彼らみんなが再び自転車競技を愛してくれるようになったんだと思うと、すごく嬉しいね。デュッセルドルフを走ったのは、僕にとってはかけがえのない瞬間だった。泣いちゃったよ。絶対に忘れはしないだろう」(公式記者会見)
ボーナスタイムも10秒手に入れ、マイヨ・ジョーヌまで6秒差に接近した。同じくドイツ人として栄光目指したアンドレ・グライペルは3位、ジョン・デゲンコルプは13位に終わった。
また山岳エースイオン・イザギレの初日リタイアで、急遽作戦変更を余儀なくされたバーレーン・メリダは、新城幸也の献身もあり、ソニー・コルブレッリを6位に送り込んだ。「今後はスプリントと逃げ、その2本立てで区間勝利を狙って行く」(フィニッシュ後インタビュー)と、チームマネージャーのコープラントも前向きに気持ちを切り替える。「だからユキヤには、自分のカードを切れるチャンスがより多く巡ってくるだろう。そう、おそらく、とてつもなくたくさんね」
☐ ツール・ド・フランス 2017
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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