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サイクル ロードレース コラム 2017年7月5日

ツール・ド・フランス2017 第4ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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写真:第4ステージを制したデマール

たいくつな長距離ステージの最後に、事件が待っていた。スプリント中にペーター・サガンとマーク・カヴェンディッシュが接触し、英国人が激しく地面に叩きつけられた。アルノー・デマールがトリコロールの栄光をたっぷりひけらかし、自己にとってのツール区間初勝利と共に、2006年大会以来の「フレンチスプリンター勝利」をもぎ取ったというのに、話題は世界チャンピオンのレース追放にさらわれてしまった。

蒸し暑く、気だるい夏の午後だった。スタートと同時に、ギヨーム・ヴァンケイスブルクが弾丸のように飛び出して行くと、集団はぴたりと蓋を閉じた。コース地形は完璧なるピュアスプリンター向きで、行く手に待ち構える山はちっぽけな4級峠がひとつだけ。しかも、200km超のステージはこれで連続3日目だし、前日のうんざりするような起伏で足は疲れ気味だし、気候の極端な変化に体がついていかないし、本物の休息日はまだ1週間も先で……。

「プロトン内では、足が痛い、っていう声がかなり聞かれました。距離の長さもそうですし、昨日は全部合わせて標高2600mも上りましたからね。だから、こんな日に逃げるなんて、無茶なんですよ」(新城幸也、フィニッシュ後インタビューより)

もちろん、ヴァンケイスブルクだって、自分がやっていることは自殺行為だということくらい十分に悟っていたのだ。いくらツール・ド・フランス初体験だとは言っても。

「飛び出してすぐに、自分が1人だと気が付いた。『このまま誰もついてこなかったら、すごい苦行になるぞ』と思った。ただ監督から、そのまま行けとの指示を受けた。『もしかしたら、そのうち他の選手が追いかけてくるかもしれないから』って。でも、誰もついてこなかった。振り返ってみたけれど、誰ひとり、いなかった。長くて孤独な1日だった。1人で向かい風の中を走っていると、なおのこと孤独を感じるものだね」(ヴァンケイスブルク、TVインタビューより)

1時間半ほど走っただけであっさり13分以上の大量リードを奪ったヴァンケイスブルクだが、その後はじわじわと距離を縮められた。かといってすぐに吸収される気配もなかった。生かさず、殺さず。というのもスプリンターチームが制御権を握ったプロトンが、1分半から2分ほど後方で、ヴァンケイスブルクを泳がせておいたからだ。

たった1人の逃げは、190kmでようやく幕を閉じた。フィニッシュまで約17kmを残して、ヴァンケイスブルクは静かにプロトンにバトンを渡した。クライマックスへ向けて、急激に集団スピードは増していった。

それにしても、全長207.5kmの最終2.5kmに、危険が潜んでいるとは!微妙な起伏と、頻繁に変わる道幅、そして90度カーブの連続。「ツールでこんなフィニッシュ設定は珍しい」とツール7度目の新城を驚かせたほどだった。特に残り1.4kmの右カーブには、ロードブックに「virage serre=狭い曲がり角」と注意が書き込まれていた。

まさにそこで、第1の事件が引き起こされた。集団のほんの前方で、集団落車が発生したのだ。マイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマスは軽くアスファルトに転がり落ち、マルセル・キッテルは足止めを食らい、スプリントへの参加権利を失った。新城は急ブレーキでぎりぎり難を逃れたが、「残り4kmくらいで沿道に落ちたソンニ(コロブレッリ)の代わりに、僕がスプリントを任されていたのに」と、少々悔しさを隠せなかった。幸いにも「フィニッシュ3km以内タイム救済ルール」が適応され、総合表彰台候補たちのタイムには影響はなかった。

難を逃れ、フィニッシュへと急いだ15人ほどの小さな集団に、第2の事件が降りかかる。アレクサンドル・クリストフが真っ先に長いスプリントを切り、誰もがトップスピードに乗っていた時のことだった。


写真:ゴール前での落車

右フェンスぎりぎりのラインを上がっていたカヴェンディッシュの上体が、すぐ左隣のサガンに接触する。世界チャンピオンは反射的に右ひじを強く突き出した。フェンス側にカヴェンディッシュは押し返され、そのまま右半身から倒れ込んだ。真後ろにいたアドリアン・プティはギリギリで難を避けたが、むしろその後ろのジョン・デゲンコルブとベン・スウィフトが、地面に転がり落ちた。

背後で起こったカオスを尻目に、デマールがクリストフの背後から飛び出した。そのまま先頭を突っ走ると、フィニッシュラインで力強く両腕を突き上げた。フランス国内ではトップスプリンターの名をほしいままにし、1年前にはミラノ~サンレモでモニュメントさえ制した25歳が、5度目のグランツール挑戦でようやく嬉しい1勝目を手に入れた。

「個人的には、サンレモ勝利と同じくらい、価値ある勝利だと思っている。でも大多数の人たちにとっては、やはりツール・ド・フランスのほうが、何か意味のあるものなんだ。この大会は知名度がずば抜けて高いし、それに自転車ファン以外の人々の目にも留まる。だから一般的に考えれば、この勝利はとてつもなく凄いもの。でも僕にとっては、サンレモの勝利こそが、僕自身に大いなる自信を植え付けてくれた。それが、今回の勝利につながった」(デマール、公式記者会見より)

ちなみに、デマールの動きも、小さな不満を作り出した。なんでも「クリストフに進路を塞がれるのが怖かった」というフランスチャンピオンは、左方向へと斜行気味に加速した。行く手を阻まれ、ナセル・ブアニはブレーキをかけた。そのブアニとアンドレ・グライペルも軽く接触し、やはりドイツ人も減速を余儀なくされた。



写真:落車した後にゴールするカヴェンディッシュ

プロトン唯一の「地元ヴォ―ジュ出身選手」であり、デマールの「因縁のライバル」は、直後のレース振り返り番組にゲスト出演して「奴に前輪をハスられて、後輪ブレーキを慌ててかけた。それで終わりさ」と語った。一方のグライペルは、「そもそも昨日の中間スプリントでも、サガンは僕に同じようなことを仕掛けてきた。王様気分だ」(ベルギーTVインタビューより)とサガンに対して苦言を呈した。ただ当夜にツイッターで、「時には映像を見てから発言すべきかもしれないね。サガンに謝罪したい。審判の下した処分は厳しすぎると思う」と前言を撤回している。

その「審判の下した処分」とは、サガンの大会失格処分だった。2番目にフィニッシュラインを越えた世界チャンピオンには、レース直後に、まずは降格処分が与えられた。危険行為があったとして、同タイムフィニッシュ集団内における最下位(115位)に降格され、総合タイムに30秒のペナルティが課され、さらにマイヨ・ヴェール用のポイントが80点減点された。しかしその後、失格処分へと切り替えられた。つまり世界チャンピオンの2017年ツールはわずか4日で幕を閉じた。区間を1つ制したが、6年連続のマイヨ・ヴェール獲りは不可能となった。この処分に関してはメディアやファンの間で様々な議論が巻き起こり、所属チームのボーラ・ハンスグローエは、処分に公式に抗議する旨の文書を発表している。

また、カヴェンディッシュは右肩を骨折し、右手人差し指も負傷。フィニッシュラインは越えたものの、残念ながら、翌第5ステージのスタートラインに並ぶことはない。

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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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