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写真:今大会2勝目をあげたキッテル
集団落車も、危険な妨害行為もなかった。もちろん、全ての選手が、幸せな終わりを迎えられたわけではなかったけれど……。いまだ議論が過熱し続けるペーター・サガンとマーク・カヴェンディッシュの接触の2日後に、失格処分と途中棄権で2人分(つまり2チーム分)のスペースが空いた集団最前線で、事故のないスプリントフィニッシュが繰り広げられた。マルセル・キッテルが今大会2勝目を競り落とした。大会6日目にしてようやく、4賞ジャージの移行は一切なかった。
平和で、蒸し暑く、気だるい午後の始まりだった。ゼロkm地点で3選手の旅立ちを見送ると、プロトンは少しだけお休みモードに入った。スプリントフィニッシュが運命付けられたステージで、無謀なアタック合戦など、誰一人として望んではいなかった。なにより前夜の激坂フィニッシュの疲れを癒したかったし、またしても2日連続で210km超の長距離ステージが待ち構えている。ペーリ・ケムヌール、フレデリック・バカールト、ヴェガールステイク・ラエンゲンが元気よく飛び出していった背後で、集団は静かにペダルを回し続けた。
初日からマイヨ・ジョーヌをチーム内で守り続けているチームスカイと、複数のスプリンターチームが、淡々とタイム差制御に努めた。勇敢な3人は、最大4分半ほどのリードを手に入れた。ただし大部分の時間帯は、集団の2分から3分ほど手前を、延々と泳がされていただけだった。
中間スプリントが、退屈な時間に、ピリリとスパイスを効かせた。メイン集団前方にあらゆるスプリンターが詰めかけ、本気の加速合戦に挑んだ。アレクサンドル・クリストフやマイケル・マシューズ、さらには新城幸也が支えるスプリントリーダー、ソンニ・コロブレッリが積極的に攻撃を仕掛けたが、マイヨ・ヴェール姿のアルノー・デマールが先頭通過=4位を果たした。
一方で後の勝者キッテルは、後方集団だけで見れば7位通過。体中にまとりつくような重たく熱い空気の中で、81km先のフィニッシュに備えて、体力節約も忘れなかった。
ローラン・ピションのシャス・パタット、いわるゆ「芋ほり」も、ちょっとしたアトラクションだったかもしれない。ステージ後半の4級峠を登り始めた時点で、メイン集団から飛び出すと、なんとたった1人で前方を追いかけ始めた。……ただ、結局のところ、いつまでたっても先頭の3人には追い付けなかった。サウナのような熱い大気の中で、15kmほどたっぷり汗を流しただけで、再びメイン集団に引きずり込まれた。
それにしても3人はよく粘った。日陰でさえ摂氏40度という猛暑に負けず、通算213kmも逃げ続けたのだ。なによりフィニッシュまで3km地点で、大きな波に飲み込まれる直前まで、先頭交代も加速も決して止めなかった。最も勇敢な者を称える敢闘賞は、3人を代表してラエンゲンに与えられた。昨季ジロとブエルタを初体験し、この夏は生まれて初めてのツールに挑戦しているノルウェーの28歳は、興奮と戸惑いの両極端の感情を抱いているようだ。
「これが僕にとって初めてのツール・ド・フランス表彰台だね!でも今回の逃げは、自分で行きたいと思ったわけではないんだ。チームから指示されて、僕は自分の任務を果たしただけだから……。明日は出来れば逃げたくないなぁ。だって個人的には、土曜日の第8ステージに、再トライするつもりだから」(ラエンゲン、ミックスゾーンインタビューより)
写真:逃げ続ける3名の選手
急カーブこそ存在しなかったけれど、ラスト2kmからの道は、うねうねと蛇行していた。クイックステップフロアーズのアシストが、全ての難所を先頭で切り抜けた。残り600mからは、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンが強烈なロングスパートを試みた。カヴェンディッシュの抜けたディメンションデータを救うため、あらゆる「ピュア」スプリンターを千切りにかかった。しかし最後の200mで、あらゆる俊足自慢が一斉に加速を切ると……、ノルウェーの天才はあえなく後方へと沈んでいった。
右フェンス脇からすり抜けるようにして駆け上がったデマールと、堂々と中央を真っ直ぐ突き進んだアンドレ・グライペルの、一騎打ちであるかのように見えた。緑色のジャージがわずかに先行し、ドイツのゴリラはハンドルを投げた。
「でも僕がすり抜けた場所は、すごく、すごく、狭かった。だから100%の力が出せなかったし、なによりスプリントラインを上手く調整できなかった。でも、スプリントできない可能性さえあったのに、それでも最後は勝負に加わることができたんだ」(デマール、ミックスゾーンインタビューより)
ところがライン上でガッツポーズを突き上げたのは、第3の男だった。2人が加速を始めた時、前から10番手ほどに隠れていたキッテルが、外側から大きく追い上げた。第2ステージでは嬉し泣きした感激屋さんは、自身にとって通算ツール区間11勝目を挙げた直後、チームメイトやスタッフと抱き合いながら、流れ落ちる汗と涙が入り混じった液体を拭ったのだった。
「まず何よりも、チームメイトの仕事を誇らしく思う。みんなで素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。第2ステージの時とは、かなり状況は違ったんだ。今日はみんな常に前線に留まって、重要な時間帯には必ず側にいてくれた。スプリント時に脚さえ残っていれば、自分には抜け道を見つけることが可能だと確信していた。そして、まさしく、僕には脚が残っていた。全員で勝ち取った勝利だよ」(キッテル、公式会見より)
デマールは2位に、グライペルは首をひねりながら3位に終わった。フレンチスプリンターが3日連続で緑ジャージ表彰式に臨んだが、ポイント賞2位キッテルとのポイント差は、40pt→27ptに大きく縮まった。
実際の事故こそ起こらなかったけれど、実はプロトン内はがやがやとうるさかった。アレクサンドル・クリストフのリードアウト役マルコ・ハラーは、デマールのアクロバチックな動きのせいで足止めを食らい、腹を立てた。デマールのリードアウト約ジャコポ・グアルニエーリは、ナセル・ブアニに肘打ち&幅寄せされたと、イタリアのTVに告発した。……まあ、デマールとブアニの確執は、今に始まったことではないけれど。2012年に現フランスチャンピオンがエフデジでプロ入りして以来、両者のいざこざのエピソードは掃いて捨てるほどある。そもそも第4ステージ後は、ブアニ本人が、テレビ生中継でデマールを糾弾しているのだ。
すると翌日第7ステージも、色々な意味で、熱狂的なスプリントが繰り広げられることになりそうだ。総合ライダーにとっては、本格的な山入り前の、最後の静かな1日となる。
写真:記念撮影に応じるフルーム
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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