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写真:きわどいゴールスプリントで今大会3勝目をあげたキッテル
「わずか6ミリが、歓喜と失望の境目となった」(マルセル・キッテル、公式記者会見より)
213.5kmの長い戦いの果てだった。2017年大会4度目の大集団スプリントフィニッシュで、マルセル・キッテルがエドヴァルド・ボアッソンハーゲンをぎりぎりで退けて、3勝目をさらい取った。同時にキング・オブ・スプリンターの証、マイヨ・ヴェールも手に入れた。総合勢たちにとっては、いよいよ本格バトル開始の前日の、静かな移動ステージとなった。
「旅の安全を祈る」。そんな願いを込めた千羽鶴を、さいたまクリテリウム開催委員会から受け取ったツール一行は、またしても210km超えの長いコースへと走り出していった。ちなみにツール委員会の語った小さな逸話によると、千羽鶴の効果は抜群らしい。なにしろ1年前、4賞ジャージカラーの折り紙に守られたツールは、大会史上最もリタイア率が低かったのだから!
海を渡った千羽鶴に守られて、大会7日目が走り出した。第1ステージの個人タイムトライアルを除くと、ここまでの平均ステージ距離はなんと202.25kmにも達した。しかも体を包み込む大気は、相変わらず、まるでサウナの中にいるかのように蒸し暑い。
「仮スタートからの距離を含めると、2日連続220km超えですからね!僕自身は暑さも距離も問題ありません。だってタイ合宿では、連日これくらいの暑さの中で、同じような距離を走り込んでいますから。でも経験の少ない若い選手たちにとっては、きついかもしれませんね」(新城幸也、フィニッシュ後インタビューより)
こんな日は、体力温存こそが肝要だ。ゼロkm地点でスタートフラッグが降りおろされると同時に4選手が飛び出すと、後方に残された189選手は、すばやく制御モードに突入した。マキシム・ブエ、マヌエーレ・モーリ、ヨアン・ジェーヌ、 ディラン・ファンバーレに対して、常に3分前後の程よい距離感を保ち続けた。前日はたっぷり213kmに渡ってエスケープを泳がせたものだが、この日もまた、最終的には207.5kmもの逃げを許容した。
シャンパンの産地から、ブルゴーニュワインの本拠地へ。あたり一面にぶどう畑が広がる、いかにもフランスらしいのどかな風景の中で、中間スプリントだけは熾烈を極めた。特に元気いっぱいの我らが新城幸也が、ソンニ・コロブレッリを背負って力強い牽引を行った。前日はフィニッシュのスプリントに絡めず残念な思いをしたバーレーン・メリダのスプリントエースは、ナイスアシストのおかげで6位通過……つまりメイン集団内で1番通過を果たした!
「手前1kmからは僕がずっと前で引っ張って、500mでグレガ(ボーレ)に代わって。でもきつかったですね。道がずっと上ってましたから。いわゆるソンニ向きのスプリントポイントでした」(新城幸也、フィニッシュ地インタビューより)
続いて6位アレクサンドル・クリストフ、7位アンドレ・グライペル、ひとつとんで9位マイケル・マシューズ、10位アルノー・デマールと、いわゆる各チームのスプリントリーダーたちがそれぞれにポイントを収集した。ただ唯一、キッテルだけは、「2kmの上り坂スプリント」に加わらなかった。チームメートのゼネク・スティバールとジャック・バウワーを前方へ送り込み、わずかなポイントのために無駄に汗を流すことは避けたようだ。
果実の香りと品の良い重みを兼ね備えたワインで有名なコート・ド・ニュイ地区では、横風分断の注意報が出されていた。北クラシック精鋭軍クイックステップフロアーズが集団先頭に並ぶと、集団にはピリピリムードが漂った。幸いなことに風はそれほど渦巻いてはいなかったし、そもそも、キッテル親衛隊にクレイジーな動きを強行する必要性もなかった。大きな塊のままプロトンは突き進み、フィニッシュまで6kmで逃げの4人を飲み込むと、極めて予定通りに集団はひとつになった。
写真:逃げ続ける4人の選手
残り3600mで、少々クレイジーで、危険な動きが目に留まった。緑ジャージ姿のアルノー・デマールと、平坦ステージ時は必ず真っ赤なワンピースを着用しているナセル・ブアニが、激しく肩と肩をぶつけ合ったのだ!!やれやれ、宿敵の2人は、相変わらずである。今大会も第2ステージ後にフランステレビの生中継でブアニがライバルを糾弾し、第6ステージ後にはイタリアテレビの生中継でデマールのアシストが他方を非難して……。第3ラウンドは200スイスフランの罰金で喧嘩両成敗となった。
ちなみに両者ともに、この第7ステージは勝負に上手く絡めなかった。連日のスプリントとインタビュー攻めで疲労がたまり、体調不良で眠れない夜を過ごしたデマールは、後方であえて少し緩めに走った(そのせいでフィニッシュ後は緑から、青白赤のトリコロールジャージに着替えた)。ブアニは一時はキッテルの後輪に上手く滑り込んだが、抜け出せないままだった。クリストフはラスト1kmから風に直接さらされる時間が多すぎたし、グライペルは後方から飛び出すのが遅すぎたし、マシューズは勝利に迫ったが、軌道変更がわずかなタイムロスにつながった。
つまりニュイ・サン・ジョルジュにおける史上初めてのツール区間勝者として、フィニッシュライン上で競り合ったのは2選手だった。1人目はエドヴァルド・ボアッソンハーゲン。前日は超ロングスプリントに打って出たが、13位に甘んじた。この日は対照的に発射台付きで前に駆け上がると、ラスト200mで加速を切った。そしてもう1人は、もちろんキッテル。ラスト1kmのフラム・ルージュまで3人のアシストに付き添われ、万全の態勢でスプリントへと向かった。しかも勘の良さも発揮して、臨機応変に立ち回った。残り450mで、ボアッソンハーゲンの後輪に飛び乗ったのだ。
思わず歯を食いしばりたくなるような、力と力のぶつかり合いだった。ラインへ向けて両者互いにハンドルを投げた。肉眼では、同時フィニッシュにしか見えなかった。いや、たとえフォトフィニッシュでも、画像を最大限に拡大してようやく、小さな差の存在が浮き上がって来たほどだった。判定の結果、キッテルに軍配が上がった。距離にしてわずか6ミリ差、時間にして0.0003秒差。あまりに小さく、あまりに大きな溝が、ボアッソンハーゲンとキッテルの間を隔てた。
「幸いにも僕は、歓喜する側に立った。ハンドル投げに有利な、長い腕を持っていて良かったよ!」(キッテル、公式記者会見より)
今大会3勝目にして、ツール通算12勝目は、キッテル自身も「キャリアで最も僅差の勝利」だと断言する。ポイント賞争いでもデマールを15ポイント上回り、緑色のジャージを取り戻した。もしかしたらパリに初めてのマイヨ・ヴェールを持ち帰ることができるのではないか――しかも5年連続受賞者のペーター・サガンが大会を去ったことだし――、という周囲の期待には、あくまでも慎重に対応する。
「まだパリまで道のりは長い。大会は1週間を終えたばかり。だから、ジャージに関しては、2回目の休息日になってようやく確実な話が出来ると思う。それまでは、ただ、一瞬を、一勝を、大切にしていくだけ」(キッテル、公式記者会見より)
それに翌日からは、いよいよ、本格的な難関山岳へと放り込まれる。マイヨ・ジョーヌで2日間過ごしたクリス・フルームも、週末の本格バトルへ向けて気合を引き締める。
「間違いなく厳しい2日間になるだろう。ファビオ・アルから目を離してはならない。それから、日曜日のステージは、ロメン・バルデにとってはいわゆる地元。何か仕掛けてくるはずだ。土曜日よりも、日曜日こそ、総合が大きく動くステージとなるだろう。僕のリードはほんのわずかだけれど、総合ライバルに、マイヨ・ジョーヌを手渡すつもりはないよ」(フルーム、ミックスゾーンインタビューより)
写真:友人と談笑しながら走るマイヨ・ジョーヌ
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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