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写真:ツール・ド・フランス初優勝を飾ったカルメジャーヌ
くるくると展開が変わる忙しいステージだった。前半から積極的に動いたリリアン・カルメジャーヌが、最後の山で独走態勢に持ち込んだ。ツール初の区間勝利だけでは飽き足らず、山岳ジャージと敢闘賞も手に入れた。総合勢は揃ってフィニッシュラインを越え、トップ16に順位やタイムの変動はなかった。
呼吸が上手く出来ないほどの酷い湿気が、標高1200m級の高原をじっとりと覆いつくしていた。ただ一部の元気な選手たちにとっては、決して耐えられないほどの暑さではなかった。スタートと同時に、熾烈なアタック合戦に、猛然と突っ込んだ。数人が飛び出しては、集団が追いかける。改めて誰かが加速すると、後方もやはりスピードを上げる……。目が回るような追いかけっこは、いつまでも果てしなく繰り返された。特に真っ先に前線を盛り上げたのが、2010年大会に同フィニッシュ地を制したシルヴァン・シャヴァネルだった。序盤だけで3度、飛び出した。しかし1度目は4kmほど先で、2度目は18kmも粘った果てに、3度目は大急ぎでプロトンに飲み込まれた。
「今日はあらかじめ、1日中バトルを繰り広げることになるだろうと分かっていた。チームからはシルヴァン・シャヴァネルとトマ・ヴォクレール、そして僕が、前に飛び出す役目を課された」(カルメジャーヌ、優勝記者会見より)
逃げがあっさり許されなかった理由の1つが、中間スプリントの存在だ。なにしろ本格的な起伏が始まる前の、37km地点に、グリーンジャージ用ポイント収集場所が設置されていた!アンドレ・グライペルが狙い通りに、首位通過で満点の20ポイントを手に入れた。
さらにマイケル・マシューズ、ポイント賞首位マルセル・キッテル、ソンニ・コロブレッリ、アレクサンドル・クリストフ……と実力者たちが順番にラインを越えた。
ところで、あまりに大急ぎで中間ポイントに向かったものだから、スプリントをする前に脱落してしまったスプリンターも存在した。数日前から続く熱帯夜のせいで、体調を崩していたアルノー・デマールは、スタート直後からずるずると遅れ始めた。
「暑さのせいで疲れが取れず、栄養補給さえ上手くできなかった。ただ幸いにも、僕には、2人の守護聖人がついていてくれた。(イグナタス)コノヴァロヴァスと、ミカエル(ドラージュ)が、1日中、適度なリズムを刻んでくれた」(デマール、フィニッシュ後TVインタビューより)
沿道のファンも、地元メディアも、最後までフレンチトリコロールの進退を心配した。幸いにも45分59秒の制限時間まで、8分26秒を残して、デマールはフィニッシュ地にたどり着いた。全193出走選手中、最後尾で孤独な時間との戦いを続けた「サガン兄」ユライ・サガンもまた、大会初の本格的難関山岳ステージを無事に乗り切った。
逃げがすぐに決まらなかったもう1つの、そして最大の理由は、地形がどう見ても大逃げ向きだったから。逃げ立候補者があまりに多すぎた。中間ポイントを終え、序盤1時間を時速46.8kmで駆け抜けても、肝心の逃げ集団は一向に出来上がらなかった。しかも80km地点を過ぎると、50人近い選手が前方へ走り出していった。
どう考えても塊は大きすぎた。全員が一致団結できるはずもなくかった。つまり分母が193人から50人に変わっても、そこから飛び出したり、引きずりおろしたり、絞り込んでいったりする作業は相変わらず慌ただしく繰り返された。
走行距離が100kmを超え、3級峠の上りを利用してワレン・バルギルとセルジュ・パウエルスが逃避行に乗り出すも、いまだ決定機には程遠かった。30kmほど踏ん張ったけれど、「50人集団」から抜け出してきた数人に追いつかれた。その後もバルギルはさらに2回、パウエルスは1回、それぞれにアタックを企てるが、いつだって数人が追いついてきた。ついには「ちょっと攻撃的に走り回りすぎて、最後までもたなかった」(バルギル、フィニッシュ後TVインタビューより)と、最終1級峠の上りで力尽きた。
攻撃的に動き回ったのは、カルメジャーヌも同じだった。ステージ序盤でも、数人が飛び出すと、カルメジャーヌはブリッジを試みた。もしくはディレクトエネルジーが、チームぐるみで前方の逃げを潰しにかかった。ただ25歳バルギルが、本人曰く「ちょっとバカみたいに動きすぎたかも」と反省しきりなのに対して、24歳のプロ2年目は、慎重さと大胆さの配分調合を間違えなかった。
「逃げに乗る場合は、必ずチームメートが1人は同伴することになっていた。体力を温存するためだ。その先の計画は、逃げ集団の中で足の調子が最もいい選手をマークし、先頭へと単独で飛び出すこと。ただし自分には作戦遂行が果たして可能だろうか、と常に自問自答を繰り返した」(カルメジャーヌ、優勝記者会見より)
写真:ハイスピードで進行するステージでの新城幸也
バルギルの攻撃に続く離合集散の流れには、最初こそ乗り遅れるも、2級峠への上りでブリッジを成功させた。バルギルの残り2回のアタックでは、それぞれワンテンポ後れを取りつつ、自分のペースで必ず追いついた。2016年ブエルタでプロ1年目・グランツール初体験にして初めての区間勝利をモノにした山岳巧者にとって、この日最後の峠まできて、ようやく自らのカードを切るタイミングがやって来た。
実は昨ブエルタでは、いまだ「無名選手」だったネオプロのアタックに、誰も真剣に反応しようとはしなかった。慌てて追いかけた時には、もはや取り返しのつかないほど距離が開いていた。一方の今回は、今季ステージレース総合3勝の実力者を、誰もが警戒していた。しかしフィニッシュまで18km、つまりスタートしてから169.5km地点。カルメジャーヌが渾身の加速をお見舞いすると、全てが決まった。初めてのツール区間勝利へ向かって、もはや邪魔するモノなど何一つなかった。
目まぐるしく展開が変わり続けた今区間にふさわしく、最後にちょっぴり、サスペンスの時間も演出された。ラスト5km、若者のペダリングが突如、リズムを失ったのだ。ほんの数十秒ほど後方から、やはり昨秋のブエルタでプロ10年目・グランツール出場12回目にして初めての区間勝利を手に入れたロベルト・ヘーシンクが、がむしゃらに追いかけてきていたというのに!
「僕はめったに痙攣なんてしないのに、今日は両腿がいっぺんに攣ったんだ!腿の裏側だった。ただツール・ド・ランで、同じような経験があった。さもなければきっと、そのまま大ギアで回すことにこだわったと思うし、最悪の事態を招きかねなかった。いや、もしかしたら、足を止めていたかもしれない。でも、今回の僕は、こんな時は小さいギアに落として、リズムをゆっくり回すべきだと分かっていた。幸いにも上手く効果が出た。痛みも引いて、再び普通に走り出すことが出来た」(カルメジャーヌ、優勝記者会見より)
ヒヤリとしただけ、勝利の喜びも大きかった。最後は無邪気に腕をぐるぐる回しながら、満面の笑みでフィニッシュラインを越えた。初めての山岳賞と、今大会2度目の敢闘賞も一緒についてきた。地元フランスのファンたちは大騒ぎで、ヴォクレールの後継者=大逃げ巧者、いや、むしろベルナール・イノーの後継者=マイヨ・ジョーヌ候補か、と楽しげな議論が早速渦巻いている。
「僕は未来のイノーなんかじゃない。僕がむしろ見習いたいのは、トマ・ヴォクレール。彼は喜びを感じつつ、堂々たる走りを披露できる選手だ。今日の僕も、大いに喜びを感じたよ。たとえ、同時に、ものすごく苦しんだとしても」(カルメジャーヌ、優勝記者会見より)
37秒後にヘーシンクが区間2位で終え、50秒後には、38人のマイヨ・ジョーヌ集団がラインに滑り込んだ。クリス・フルームとゲラント・トーマスが下り中に道を外れるという事件もあったが、幸い共に、両者ともケガなく無事に乗り越えた。長時間続いた熾烈な飛び出し合戦を、上手く背後で制御しつつ、チームスカイは黄色で過ごす7日目のレースをつつがなく終えた。
写真:終盤、独走態勢を固めたカルメジャーヌ
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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