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写真:バルギルが手をあげたが、写真判定の結果ウランの勝利となった
激坂を登った後には、いつだって勾配の厳しい下りが待っている。しかも雷雨が通り過ぎたせいで、道は極めて滑りやすくなっていた。無数の落車が発生し、2人の総合表彰台候補が即時リタイアに追い込まれた。メカトラを乗り越えて、リゴベルト・ウランが区間を制した。メカトラで一時はひやりとさせられながらも、クリス・フルームがマイヨ・ジョーヌの座を守った。
昨年10月のコースプレゼンテーションで、大会開催委員会は、この「ツールでは前代未聞」の激坂ステージを実に誇らしげに紹介したものだ。たしかに、普段なら座り漕ぎアタックを炸裂させるフルームが、立ち漕ぎで加速を切るという珍しい場面さえ目撃された。しかもレースを実際に終えてみると、前評判以上に、現実は過酷だった。
「昨日の時点では、今日はGCライダーたちのタイム差が大きく割れるだろう、と予測していた。あらゆる意味で、それは現実となった。今日のステージは、本当に暴力的だった」(クリス・フルーム、公式記者会見より)
あらゆる意味で……。その1つが、落車だった。ステージ半ば、雨に濡れた超級コル・ド・ラ・ビッシュからの下りで、ゲラント・トーマスが地面に倒れ落ちた。大会最初のマイヨ・ジョーヌで、この日の朝まで12秒差の総合2位につけていたチームスカイ第2の男は、右鎖骨骨折で大会を去った。区間最後の超級、モン・デュ・シャからの下りでは、リッチー・ポートが犠牲となった。ダニエル・マーティンを巻き込みながら、激しく岩肌に激突した。鎖骨と骨盤を骨折し、そのままシャンベリーの救急病院に搬送された。この1日だけで5選手が途中リタイアを余儀なくされた。またラファル・マイカも激しい落車の犠牲となり、総合10位から43位へ一気に陥落した。
スタート直後からフィニッシュライン上まで、予想よりはるかに激しい真剣勝負が繰り広げられた。あらゆるタイプの選手が、それぞれの目標に向かって、1日中努力を惜しまなかった。真っ先に40人近くの選手が勇んで飛び出し、区間勝利や山岳ポイント収集に励んだ。なにしろ行く手に7つの山がそびえる今区間では、最大70ポイントを回収できるのだ。いわゆる総合リーダーのための前方待機要員も、やはり前方に配置された。全22チーム中19チームが選手を先頭に送り込み、総合系ではスカイだけが、全員でフルームの周りを固めた。
中間ポイント収集に挑んだ選手さえ存在した。ペーター・サガンのせいで、近頃はすっかり、凡庸な作戦であるかのように錯覚してしまうけれど……。スタートからいきなり上り始め、ステージ中盤に激坂×超級×2が待ち受けている難関山岳ステージでこの作戦を実行するとは!アルデンヌクラシック巧者で、多少の起伏には耐性を持つマイケル・マシューズが、大胆に逃げた張本人だった。共に飛び出したチームメート4人の助けを得つつ、まんまと中間首位通過で20ptを手に入れた。その後はあっさり努力を打ち切ると、静かにステージを走り終えた。首位から52pt差の、ポイント賞2位に浮上した。
ところで、順位が3位から1つ上がったのは、アルノー・デマールが大会を去ったから。前日ももがき苦しんだフランスチャンピオンは、39分58秒の制限タイム内でステージを終えることができなかった。他の6選手と共に――3人のアシストを巻き添いにして――、第1回目の休息日を前に、自転車を降りた。
「僕らみんなで一緒に勝って、みんなで一緒に勝った。4人で帰宅する羽目になったのだから、当然、ものすごくがっかりしている。ツールではわずかなミスも許されない。これがツールなのさ……」(デマール、フィニッシュ後TVインタビューより)
写真:終盤に独走したワレン・バルギル
山地ではマシューズを助け、平地では逆に助けられたのがワレン・バルギルだった。第8ステージの逃げで7ptを手に入れたフレンチクライマーは、2日連続で大逃げに乗り出した。
「前日に稼いだポイントを無駄にするのはもったいないと考えた。だから今日、再びトライした。地形は最高に僕向きだったしね!今日は賢く走った。昨日みたいに馬鹿な動きは繰り返さなかった。それに3級、4級の小さな峠では動かなかった。ただ大きな峠だけに、ひたすら集中したんだ」(バルギル、ミックスゾーンインタビューより)
こうして超級首位通過2回を合わせた53ptを積み重ねると、計60ptで堂々たる山岳賞首位に立った。「大会の終わりまで守っていく」との力強い宣言も飛び出した。
しかもバルギルは、エスケープを企てた大量40選手の中で、最後まで逃げ切った唯一の選手である。ラスト32km、超級モン・デュ・シャの上りで、独走態勢に突入した。残り12kmでロメン・バルデに一旦追い抜かれるも、フィニッシュでは5人の総合トップ集団とスプリントを争った。
メイン集団を5人にまで小さく絞り込んだのは、アージェードゥゼール・ラ・モンディアル(Ag2)の猛攻がきっかけだった。フィニッシュ地シャンベリーに本拠地を置く同チームは、今大会1つ目の超級峠、ビッシュからの下りをどうやら攻撃開始地点に定めていた。逃げに潜り込んでいたAg2rトリオが、下りでエスケープをバラバラに切り裂くと、後方でもやはり、バルデ親衛隊がすさまじい加速を畳みかけた。総合ライバルたちに強烈な圧力をかけ、落車を誘発し、なによりアルベルト・コンタドールを一旦後方へ置き去りにした。
グランツール総合7勝の偉大なるチャンピオンは、続く超級グラン・コロンビエの登坂口ですぐにメイン集団復帰を成功させる。しかし、最大勾配22%の恐ろしい山道を、おなじみのダンシングスタイルで上っている最中に……、なんと落車してしまう。左側から地面に倒れ込み、軽く膝を打ち付けた。この小さな事故が、最終峠で苦しみ、ライバルたちから4分19秒を失う原因となったのかもしれない。
超級2連続を終えると、30kmほど、集団は谷間の平地を猛スピードで駆け抜けた。かなり肌寒かったステージ序盤とは対照的に、最後の超級モン・デュ・シャにたどり着く頃には、気温は摂氏30度を超えていた。広告キャラバンカーが煙を吐き、レッカー車で運ばれていったほどの、そんな桁外れの激坂では、ファビオ・アルの行動が物議をかもした。というのもフルームが手を上げ、後方へ向かってメカトラブルの合図をしている最中に、イタリアチャンピオンは前方へと飛び出してしまったから!
「いや、ファビオのアタックには、まるで気が付かなかった。フィニッシュ地で記者たちから質問されて、初めてその件について知ったくらいなんだ。あの瞬間はチームカーを探すのに必死だった。自転車交換が必要だったから」(フルーム、公式記者会見より)
フルームに知られぬよう加速を切ったアルの後輪に、ナイロ・キンタナは反射的に飛び乗った。(落車前の)ポートもすぐさま後を追うも、こちらは「元リーダー」を援護するためだった。
「集団に戻った時に気が付いたのは、きっとリッチーが他の選手に話をつけてくれたに違いないということ。『メカトラ時に、レースの総合リーダーに対して攻撃すべきではない』と言ってくれたんだと思った。とにかくリッチーにお礼を言いたいし、あの瞬間を悪用しなかった集団のほかの全選手にも、感謝している」(フルーム、公式記者会見より)
写真:中盤のクリス・フルームとヤコブ・フグルサング
幸いにも騒ぎが大きくなる前に、アルはすぐに加速を停止した。アシスト3人に助けられて、フルームはライバルたちの待つ集団に合流を果たした。入れ替わるように、ヤコブ・フグルサングがカウンターアタックを仕掛けた。まさに1か月前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネと同じく、アスタナのダブルリーダーは、波状攻撃でライバルたちを揺さぶりにかかった。そして、まさしく、メイン集団がドーフィネ覇者を夢中で追走している間に、コンタドールの姿は後方へと消えていった。
キンタナが脱落したのは、アルがさらなる加速を試み、ポートが4回もカウンターをお見舞いし、フルームが珍しいダンシングアタックを繰り出した後だった。5月のジロで総合2位に収まったコロンビア人は、総合ライバルから1分15秒(+ボーナスタイム)を失うことになる。
モン・デュ・シャ、いわゆる猫山のてっぺんをバルギルが首位通過したわずか12秒後に、フルーム、アル、ポート、フグルサング、マーティン、バルデ、ウランと7人に絞り込まれたマイヨ・ジョーヌ集団が最後の下りへと突っ込んだ。上述の通り、テクニカルな下りの最中に、ポートは落車リタイアし、マーティンは後方退却を余儀なくされた。その余波で、しかも、ウランの自転車のギアが破損した。以降フィニッシュまで、後の区間勝者は、53/11か39/11かの2択のみで走る羽目になった。
あまりにもたくさんのことが起こりすぎた1日の終わりに、残り18km、バルデも果敢に単独アタックに打って出た。ライバル集団からするりと抜け出すと、前方を逃げていたバルギルと合流し、一旦は協力態勢を選んだ。
しかし後方ではフルームが積極的に先頭交代に加わり、昨大会総合2位にリードを与えようとはしなかった。わざわざ自分を待ってくれたバルギルを見捨て、バルデはさらに先を急いだが、ただ「大きな後悔と失望」(TVインタビューより)だけが残った。フィニッシュ手前2.2km、バルデは回収された。
一方のバルギルはフラストレーションを抱くことになる。スプリントでもがき、フィニッシュラインでは勝利のガッツポーズさえ突き上げた。……実際は、人生初めてのツール区間勝利に、わずかに届かなかった。フォトフィニッシュの判定により、酷な敗北を宣告された。
「本当にがっかりだ。フィニッシュは軽くカーブしていて、内側の方が走行ラインは短かった。そのせいで僕のライン通過はわずかに遅れた……」(バルギル、ミックスゾーンインタビューより)
ジロでは2度の区間勝利を経験しているウランにとっても、ツールでは初めての区間勝利だった。なにより、この日の荒れた展開の果てに、総合11位から4位へと一気に浮上した。今季はグランツール総合狙いはいったんお休み……のはずだったけれど、ジロ総合2位×2回の実力者は、今後は表彰台候補の一角としてみなされることとなりそうだ。
総合トップ10でトーマス、ポート、コンタドール、マイカが消えた穴に、ウランと並んで、フグルサング、ミケル・ランダが滑り込んだ。もちろんフルームの首位は揺るがず。むしろ区間3位に喰い込み、ボーナスタイムを4秒獲得し、総合2位アルに対するリードを14秒→18秒とわずかながら開いた。バルデは区間4位で終え、第1回目の休息日を前に、総合は7位から3位へとジャンプアップを実現させた。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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