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写真:5勝目をアピールしながらゴールするキッテル
地図だけを見れば、極めて平凡な平坦路だった。マルセル・キッテルが楽々と大会5勝目をもぎ取り、マイヨ・ヴェール争いをまた一歩リードした。実際は落車の多い危険な1日だった。アスタナのダブルエースの1人ヤコブ・フグルサング、フランス期待の星ロメン・バルデ、そして現役最多のグランツール総合優勝数を誇るアルベルト・コンタドールが、ピレネー突入前夜に、次々と地面に投げ出された。
逃げは一瞬で決まった。スタートフラッグが振り下ろされると同時に、フレデリック・バカールト、マルコ・マルカート、マチェイ・ボドナールが飛び出した。少し肌寒い昼下がり、またしても集団は淡々とペダルを回すほう方を選んだ。憂鬱な灰色の雲が広がり、黄色に輝くヒマワリだけが、夏の愉しさを思い出させてくれた。
動きのないレースではあったけれど、決して平和な1日でもなかった。自転車乗りの安全を守ってくれるはずのノートル・ダム・デ・シクリスト教会の側を、通過した直後のことだった。舗装状態のよくない田舎道で、小さな集団落車が起こった。ここまで幾度となくビッグネームを狙い撃ちしてきた落車が、またしてもリーダーたちに、牙をむいた。
補給地点を過ぎ、フィニッシュまで残り95kmを切った地点で、第1の落車が発生する。中でも6月にクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合を制し、総合2位ファビオ・アルと頼もしいタッグを組む総合5位フグルサングが、左手舟状骨を痛めた。同じアスタナの実力派アシスト、ダリオ・カタルドもやはり左手首を痛め、救急車で大会を去った。ジョン・デゲンコルブも、地面に滑り落ちた1人だった。
中間スプリントで少し活気付いた後(アレクサンドル・クリストフが集団先頭通過)、4級峠に差し掛かったところで、今度は総合3位のバルデが犠牲となった。自転車を交換し、アシスト2人の協力を得て、難なくメイン集団への復帰は果たした。ただピレネー入りを翌日に控えて、軽く打ち付けた膝と手首の状態が心配される。ポイント賞2位のマイケル・マシューズや、アルノー・デマールの抜けたエフデジを支えるアルテュール・ヴィショもまた、カオスを逃れられなかった。さらにはバーレーン・メリダのスプリントエース、ソンニ・コロブレッリも……転んだ!
「どこのチームも前方に偵察車を走らせているので、残り90kmで横風が吹いてくることは、みんな分かっていたんです。さらに4級峠の頂上を越えた後に、横気味の風が吹いていたことも。だから、ペースがぐっと上がる前に、どうにか前方に位置取りしなきゃ……という感じでした。しかも逃げ集団との距離が近すぎて、ちょっとでもペースを上げると、差は1分以内に縮まってしまう。でも、そんなにすぐには、捕まえたくない。それで変にごちゃごちゃしちゃったんでしょう」(新城幸也、フィニッシュ後インタビューより)
レース速報では、新城の名前も、落車組のひとりに上げられた。実際は幸いなことに、落車はなく、急ブレーキをかけて変に筋肉を傷めることもなかったとのこと。
「ただソンニに後輪を渡したので、チームカーが来るのを待っていただけです。それからソンニと一緒に、チームカーの後ろで集団復帰を図ったので……きっと罰金食らいますよ!」(新城幸也、フィニッシュ後インタビューより)
予言通り、長すぎる風除けのせいで、コロブレッリと新城の2人にはそれぞれ罰金50スイスフランと総合タイムのペナルティ20秒が課されている。
写真:落車に巻き込まれたコンタドール(左)
ラスト22km地点には、もう1つ不幸な落車が待っていた。アルベルト・コンタドールとアシスト役ミヒャエル・ゴーグルが、共にアスファルトへと投げ出されたのだ。グランツール7勝の大チャンピオンにとっては、第9ステージの2度の落車に続く、3度目の不幸だった。臀部を強打し、「今ツールは僕を精神的に限界まで追いつめてくる」(コンタドール、チーム公式リリースより)と改めて実感した。幸いにもモチベーションはいまだ衰えず。ピレネーを無事に乗り切って、アルプスで仕掛けたい……と不屈の王者は誓う。
メイン集団が加速と落車を繰り返したのだとしたら、逃げ集団のボドナールは、残り28km地点で大きな賭けに出た。他の2選手の背後から、突如として弾丸のように飛び出して行ったのだ!!
「ラスト20kmはまるで長くて難しい『スプリント』だった」(ボドナール、ミックスゾーンインタビューより)
ちょうど1年前の、まさに第11ステージでは、リーダーのペーター・サガンを連れて強風の中を飛び出した。あの日はマイヨ・ジョーヌが一騎打ちスプリントを挑み、マイヨ・ヴェールがあっさり蹴散らした。しかし今年、スロバキアの怪人は、第4ステージで大会失格となった。幸か不幸か、おかげでボドナールは逃げに乗る自由を得たし、思う存分得意のルーラー力を発揮するチャンスも与えられた。
「ラスト2kmで後ろを振り返った時、もしかしたら行けるかもしれない、と考えた。でも最後の500mは向かい風に阻まれた。プロトンはとてつもないスピードで追いかけてきた。あと200m短かったら……。200kmも前方を走ったのに、栄光まで、たったの200m足りなかった」(ボドナール、ミックスゾーンインタビューより)
写真:エスケープした3人の選手
敢闘賞モノの逃走が飲み込まれると同時に、集団はそのままスプリントへと雪崩れ込んだ。やはり第4ステージを最後に大会を離れたスプリントリーダー「カヴ」の代わりに、平坦ステージを任されることになったエドヴァルド・ボアッソンハーゲンが、真っ先にもがき始めた。マシューズやディラン・フルーネウェーヘンも、ここぞとばかりに加速を切った。
しかし、今大会いわゆる「重役出勤」を繰り返しているキッテルが……、つまり例年よりスプリント距離を短くして、フィニッシュラインぎりぎりで突如として先頭へと躍り出る作戦を採用してきたドイツ人スプリンターが、またしても余裕たっぷりに一等賞をさらい取った。
「今大会は『後ろの方から飛び出す』という作戦が上手くいっている。ただし、どんな作戦でも、リスクは伴うもの。僕の場合は、前に出るタイミングが遅すぎる恐れもあるし、後方に封じ込められてしまう可能性もある。今のところは毎回上手くいっている。スプリンターには作戦も必要だけど、なにより、脚がなければダメなんだ」(キッテル、公式記者会見より)
緑色のジャージを誇らしげに身にまとい、2017年大会6度目のスプリントフィニッシュで、実に5度目の勝利を手にいれた。キャリア通算ではツール14勝目。あとわずか1勝で、ツール区間勝利数トップ10入りを果たす。
……ただおそらく、次の休養日明けまでは、キッテルの勝利数カウンターが回ることはないだろう。その代わりに、ピレネーの2連戦で、総合争いが本格的に勃発する。マイヨ・ジョーヌ着用日数51日目=史上単独3位のクリス・フルームを、18秒差ファビオ・アル、51秒差ロメン・バルデ、55秒差リゴベルト・ウランが追い落としにかかる。
☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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