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写真:区間優勝したモレマ
「人生でこれほど長い独走を試みたことはないよ!」(バウク・モレマ、ミックスゾーンインタビュー)
翌日のことなど考えなくてよかった。前方でも、後方でも、選手たちは全力でやり合った。28人の逃げ集団から抜け出すと、モレマは30kmの長い一人旅を成功させた。地元オーヴェルニャっ子のロメン・バルデは、ラスト45kmから、チーム全員で猛烈な攻撃に転じた。クリス・フルームはメカトラをチーム一丸となって乗り越え、大切なジャージをまた1日守り切った。上位4人が30秒以内に、6人が1分半以内というかつてないほどの僅差で、2017年ツールは大会2回目の休息日を迎える。
「ありがたいことに、また今夜も、マイヨ・ジョーヌで過ごすことができる。ほっとしている。チームメートのおかげだね」(フルーム、ミックスゾーンインタビューより)
大逃げ向きの地形に、多くの選手たちの胸は高鳴った。すでに2週間も走り続けてきたというのに、逃げ切りが決まったのは2回だけ。貴重な機会をモノにすべく、中央山塊のくねくね道を舞台に、スタートから激しい攻撃の波が巻き起こった。
第1波で10選手が飛び出した。山岳ジャージを身にまとうワレン・バルギルと、総合11分36秒遅れのダミアーノ・カルーゾが存在感を放った。28.5km地点にそびえる1級峠では、当然バルギルが1位通過をかっさらった。第2波はその直後にやってきた。さらに大量の選手が前方へと走り出し、60km地点で第1集団に合流を果たした。こうして出来上がったのは、28人の大きなエスケープ集団だった。
単に大きいだけではない。実力も野心も兼ね揃えていた。ツール区間勝利経験者が10人、さらにジロかブエルタで勝利の美酒を味わったことのある選手が6人。22チーム中16チームが前方へと揃い、チーム サンウェブは区間2連覇中の張本人、バルギルとマイケル・マシューズを送り込んだ。一方で前方の9チームが今大会初勝利を追い求め、中でもBMC レーシングチームは4選手、チーム カチューシャ・アルペシンは3選手と大量に潜り込んだ。おかげでチーム スカイが制御する後方メイン集団との差は、順調に開いていった。リードは最大で9分にまで広がった。
山岳ポイントはバルギルが収集し、中間ポイントはマシューズが当然のようにトップ通過する一方で、区間勝利への野心を真っ先にむき出しにしたのはトニー・マルティンだった。前日も最終盤で飛び出したタイムトライアル世界チャンピオンは、この日は65kmの単独走行を試みた。
残念ながら、ラスト約40km地点から上り始めた1級峠ペイラ・タイヤードは、マルティンには勾配が厳しすぎた。なにしろツール初登場の山道には、勾配10%超・最大14%の激坂ゾーンが2kmにも渡って続いたのだ!逃げ集団内のピエールリュック・ペリションが、ジグザグ走行を余儀なくされたほどの急勾配で、バルギルが赤玉ジャージにふさわしい山の脚を見せた。力づくで先頭へと躍り出ると、当然のように山頂で10点満点を勝ち取った。
山頂を通過した後、そのまま突っ走る代わりに、バルギルは逃げ仲間の合流をおとなしく待った。そのせいで……4つ目の山=4級峠の先頭通過を逃すことになる。というのも追いついてきた集団の中から、1級峠の下りを利用して、モレマが飛び出して行ったからだ。フィニッシュまでいまだ30kmを残していた。
「今日は1日中、脚の調子が良かった。いや、実は数日前から、すごく調子は良かったんだ。ツールにはコンタドールを助けるためにやってきて、自分のタイムを気にする必要はなかったし、全てのステージで全力を尽くす必要もなかった。だから、今日、最後まで頑張るエネルギーが残っていたのかも」(モレマ、ミックゾーンインタビューより)
「自転車人生で最も過酷だった30km」を駆け抜けた果てには、大きな歓喜が待っていた。ブエルタで区間勝利とポイント賞の経験はあるし、グランツールでは総合上位の常連ではあるけれど、本人曰く「世界で一番重要な自転車レース」での区間勝利は初めての体験だった。
「シャンパンでお祝いだよ!明日は休息日だから……ワインも飲めるかな」(モレマ、ミックゾーンインタビューより)
サンウェブは3日連続勝利こそ逃したものの、バルギルは比較的満足に1日を終えた。山岳ポイントを新たに22pt上乗せし、いまや2位以下に78ptものリードを有している。マシューズは中間ポイント20ptを手に入れただけにとどまった。フィニッシュラインに向けて必死にダッシュしたけれど……、区間16位で終了。ポイントがもらえる15位以内には、ぎりぎりで入れなかった。つまりポイント賞首位マルセル・キッテルとの差を20pt詰め、いまだ79pt差の2位につける。またカルーゾは他の総合勢から軒並み5分以上を奪い、14位から10位(6分05秒差)へとジャンプアップしている。
後方のメイン集団は、随分と長い間、スカイが規律正しく制御を行った。監督勢が「逃げ切りを希望する」と公言していた通り、無理に先頭集団を追いかけようとはしなかった。そんな淡々とした時間を、アージェードゥゼール・ラ・モンディアル(Ag2r)が一気に壊しにかかる。突如として集団前方で隊列を組み上げると、下り坂を利用して、猛烈な加速を始めたのだ!
写真:攻撃を仕掛けるバルデ
「あらかじめ作戦をたてていた。目的は、僕が道を知り尽くした今ステージで、ライバルたちを苦境に陥れること。でも、コースの地形は、大きな一撃を振り下ろすには向いていなかったね」(バルデ、フィニッシュ後インタビューより)
前夜、フィニッシュ地から60kmのブリウドで生まれ育ったバルデの口から、アシストたちに計画が伝えられた。インターネットの地図アプリを利用して、綿密に作戦も立てられた。そんな急襲にライバルたちは戸惑い、スカイの隊列は一瞬で散り散りになった。小さな分断が生まれ、マイヨ・ジョーヌ自らが、穴を埋めるために加速する場面さえ見られた。
しかも、予期せぬ不運が、フルームに襲い掛かる。
「はっきりは分からないんだけど、おそらく、後輪のスポークが折れてしまった。ホイールが真っすぐに回らなくなった。重大局面でのハプニングに、一瞬、パニックにさえ陥った。もしかしたら集団に追いつけないかもしれない、とも考えた」(フルーム、公式記者会見より)
道は極めて細く、チームカーははるか後ろを走っている。しかもAg2rは、攻撃の脚を緩めようとはしないだろう。不幸なディフェンディングチャンピオンにとって、幸運だったのは、頼もしいアシストたちに囲まれていたこと。ミカル・クヴィアトコウスキーは、咄嗟に自らの後輪を差し出した。ヴァシル・キリエンカとセルジオルイス・エナオモントーヤがリーダーが走り出しを助け、ミケル・ニエベが引っ張り上げた。
「特に(ミケル・)ランダには感謝している。メイン集団からわざわざ僕のところまで降りてきてくれて、集団へと復帰させてくれたんだから」(フルーム、公式記者会見より)
写真:新人賞リーダーをキープするイェーツ
実のところ、Ag2rの狙いは、堅固なチームに守られたフルームを突き放すことではなかった。むしろ表彰台の「直接的ライバル」であり、チーム力に不安のあるファビオ・アルやリゴベルト・ウランを振り払うことだった。ところが、この攻撃で、脱落していったのは目標とした2人ではない。過去3回のツール出場を、全て表彰台の上で終えてきたキンタナだった。
「気持ちは、たいてい、肉体が出来る以上の物事を成し遂げたいと願うもの。でも、肉体は、動きたくないわけではなくて、単純に、その願いに応えられないだけなんだ」(キンタナ、チーム公式リリースより)
コロンビアのヒルクライマーは、今季開幕時には、ジロ&ツールの同一年制覇を目論んでいた。ただし今ジロを総合2位で終えた後、ツールでも思ったような走りを実現できずにいた。それでも、総合で4分1秒の遅れを、2日前の攻撃的走りで、一旦は2分07秒まで縮めていたのだけれど……。この第15ステージの失速で、総合では6分16秒遅れへと一気に後退。ダブルツールどころか、ツール4度目の表彰台さえ絶望的になってきた。「総合ライダーの多くが、キンタナの後退を喜んだんじゃないかと思う」と公式記者会見で語ったフルームこそが、おそらく、一番ほっとしているのだろう。
あまりにたくさんのバトルが繰り広げられた。バルデは上りで単独アタックにも転じたし、新人賞ジャージをまとうサイモン・イェーツは、最終盤に独走を試みた。ただ結局のところ、総合勢の試みで実を結んだのは、ダニエル・マーティンの特攻だけだった。
「1級の上りはあまりにも厳しかった。誰もが全力だった。だから集団の中にちょっとしたためらいが感じられた。誰も前に行けないのだ、と察知した。みんな疲れていた。だったら、僕自身がトライしてみようじゃないか、と思ったんだ」(マーティン、フィニッシュ後インタビューより)
まさしくマーティンの読みは当たった。総合6位が飛び出しても、ライバルたちはきょろきょろと顔を見合わせるだけ。後を追って飛び出す勇者もいなければ、追走のイニシアチヴを取る選手もいない。ただランダだけが、総合5位として、いや、むしろフルームのアシストとして、追走作業に従事した。最終的に逃げ集団の残党と一緒にフィニッシュラインへと滑り込んだマーティンは、自らよりも総合上位の選手、つまり首位フルーム、2位アル、3位バルデ、4位ウランからそれぞれ14秒ずつを奪い取った。マイヨ・ジョーヌまで1分12秒差、表彰台まで43秒差に接近し、ランダを逆転して総合5位にも浮上した。
その上の4人の関係は、前日と一切変わらなかった。休息日1日と最終週の5ステージを残して、タイム差29秒以内にひしめき合ったままだ。
「今までのツール以上に、プレッシャーを感じている。かなりの僅差だからね。ただ今年のコースが発表された時点で、こういう状況になるだろうことは予測していた。タイムトライアル距離が短く、山頂フィニッシュも少ないから、大きなタイム差をつけられる機会がそもそも少ないんだ。でも、3週目にはアルプスの大山岳ステージと、個人タイムトライアルが待っている。今からタイム差をつけるチャンスがやって来る」(フルーム、公式記者会見より)
☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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