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サイクル ロードレース コラム 2017年7月19日

ツール・ド・フランス2017 第16ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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写真:この大会2勝目をあげたマシューズ

チームサンウェブがとてつもない力比べを挑んだ。マイヨ・ヴェールを蹴落とし、逃げを飲み込み、横風の分断にも上手く乗り、フォトフィニッシュの果てに区間も制した。マイケル・マシューズが自身にとって2つ目の、チームにとっては3つ目の区間勝利をもたらした。イタリアからピンク色を持ち帰ったドイツチームは、7枚目の赤玉を回収し、緑にも29pt差に近づいた。黄色の争いは上位4人の僅差に変わりはなかったが、数人の総合上位が横風に吹き飛ばされた。

小雨のデュッセルドルフから走り出した198人のプロトンは、174人で猛暑のフランス南部にたどり着いた。2回目の休息日を終えて、2017年ツールも残り6日間。難関山岳2日、個人タイムトライアル1日、パリでの最終大スプリント1日……と考えると、集団の大部分の選手にとって、本気で区間勝利を狙えるのは実質2日しかない。ステージ前半は大逃げ向きであり、後半はスプリンター向けでもあった。だからこそスタート直後から、あまたのアタックが巻き起こった。大逃げ職人のシルヴァン・シャヴァネルやトーマス・デヘントが飛び出しては吸収され、吸収されては飛び出しを試みた。

真っ青な空には雲ひとつなく、ただ風がひどく強かった。新城幸也によれば「右から吹いてくる風が、山肌にぶつかって、左から吹き返してくるような」、そんなクレイジーな風だった。一時は5人の逃げが出来上がり、最大1分ほどのリードを得た。しかし、スタートから20.5km地点に待ち受ける小さな3級峠が、とてつもない曲者だった。

大きな逃げに紛れてマシューズが飛び出しを試み、ポイント賞2位のマシューズの逃げを潰すためにポイント賞首位マルセル・キッテルの同僚ダニエル・マーティンが加速し、総合4位のマーティンの逃げを潰すためにマイヨ・ジョーヌ擁するチーム スカイが隊列を組み……。そんな加速の繰り返しに疲れ、強風に煽られて、肝心のマイヨ・ヴェールがじわじわと集団からずり落ちていったのだ!

絶好機をサンウェブは見逃さなかった。メイン集団前方へ全員で競り上がると、毅然として、高速牽引へと着手した。前方で逃げる5人を非情にも追い上げると、最後まで無駄な抵抗を続けたシャヴァネルも飲み込み、そのまま恐るべき行軍を続けた。

2013年大会第7ステージで、ペーター・サガンと当時所属のキャノンデールが、同様の作戦を敢行したことがある。あの時は100km以上も高速列車を走らせ、すぐさま逃げを飲み込むと、区間勝利とポイント収集を成功させた。また新城に言わせると、2016年大会の第11ステージに似ているという。フィニッシュ手前90kmからやはりサガンwithティンコフが猛然とスピードアップし、残り60kmで逃げを回収し、強風の中でクリス・フルームとのスプリント一騎打ちを制したあの日のことだ。ただし、2017年大会は、さらに上を行くものだった。なにしろサンウェブは、約145kmもの「チームタイムトライアル」に挑んだのだから!

「キッテルは平地で最速の選手だ。平地ステージでは、おそらく僕には勝ち目がない。つまり、僕が勝とうと思ったら、キッテルがフィニッシュで勝利を争えないだろうステージで、先手を打って攻撃するしかない。だからプロトンに分断ができたとの情報を耳にして、途端に士気があがった。さらにリードを開こうと意気込んだ。まるでフィニッシュまで続く8人のチームタイムトライアルだった」(マシューズ、公式記者会見より)


写真:後方集団に取り残されたキッテル

平坦ではほぼ無敵を誇り、区間5勝をもぎ取ってきたキッテルも、3人のアシストと共に必死の追走を続けた。下りでは自らが先頭に立ち、高速ダウンヒルを試みた。しかし、サンウェブの9人全員攻撃には、とてもではないが歯が立たなかった。確実にタイム差は開いていき……、ついには追走を放棄した。最終的には先頭集団から16分19秒遅れで、波乱に満ちた1日を締めくくっている。

中間ポイントで当然のようにマシューズは先頭通過を果たした。マイヨ・ヴェール用ポイントを20ptを積み重ね、キッテルとの差を79pt→59ptへと縮めた。その後もまったく勢いを落とさず、起伏が徐々に穏やかになっていく道を、サンウェブの仲間たちと突き進んだ。

風はまるで穏やかにはならなかった。コース脇では横断幕が千切れるほどにたなびき、畑のひまわりも激しく波打っていた。フィニッシュまで20km、ファビオ・アル擁するアスタナ プロチームがサンウェブから先頭を奪い取ると、勢い良くスピードアップを断行した。これが合図だった。すぐにスカイも反応し、前線で加速に乗り出した。ラスト15km、ついに、集団に切れ目が生まれた。

「かなりクレイジーなステージだった。なにしろ最初の峠から、早くもふるい分けが行われたからね。だから総合ライダーたちは、みな慎重に集団前方に詰めていた。おかげで大部分の総合上位選手は、分断の罠から逃れられた」(フルーム、公式記者会見より)

マイヨ・ジョーヌの語った通り、たしかに大部分の総合上位選手はきっちり先頭集団に留まった。緑を除く3色ジャージも前方で地力を証明した。中でも29秒差にひしめく4選手、1位フルーム、2位アル、3位ロメン・バルデ、4位リゴベルト・ウランはチームメートにしっかり守られ、さらには区間勝利を狙うルーラー・スプリンター集団と共に先頭交代に励みさえした。



写真:横風の中、斜め隊列で走るチームサンウェブ

ただし、ほんの数人は、フルームの言葉を借りると「前の選手の後輪から離されてしまった」。中でも休息日前日まで総合5位だったマーティンが罠にはまり、総合8位のルイ・メインチェス、さらに総合9位のアルベルト・コンタドールも後方へと置き去りにされた。

「マーティンは残念だった。複数のチームメートが、キッテルに付き添っていた影響かもしれないね」(フルーム、公式記者会見より)

そもそも、この朝はフィリップ・ジルベールが未出走で、クイックステップフロアーズは7人に人数を減らしていた。しかもキッテルを含む4選手が、はるか後方にいたわけで……、序盤にキッテルのために動いたマーティンの側には、わずか2人のアシストしか残っていなかった。第15ステージ最終盤に見事な早掛けを成功させ、総合上位4選手から14秒を奪い取ったばかりだというのに、この第16ステージでは大量51秒を失った。順位も5位から、2分03秒差の7位へと後退した。

フィニッシュが近づくと、再びサンウェブが制御権を取り戻した。残り2.5kmでかつての偉大なるスプリンター、36歳ダニエーレ・ベンナーティがアタックを試みるも、フラムルージュを潜り抜けた直後に、やはり白と黒のジャージがきっちり回収を行った。

「そして9人目の僕は、ラスト500mで、仕事を完成するだけでよかったのさ」(マシューズ、公式記者会見より)

総合エースのリッチー・ポートを失ったBMC レーシングチームのフレフ・ヴァンアーヴェルマートが先行逃げ切りを図り、ジョン・デゲンコルプがダッシュを切った。スプリントリーダーのマーク・カヴェンディッシュの抜けたディメンションデータからは、エドヴァルト・ボアッソンハーゲンが矢のように突進を仕掛けた。マシューズはフィニッシュライン目掛けてハンドルを投げ、そして、審判の時を待った――。

混雑したフィニッシュエリアに、歓喜の声が上がった。フォトフィニッシュの結果、ボアッソンハーゲンを僅差で交わして……、デゲンコルプからは斜行があったと不満の声が上がったけれど……、マシューズが2つめの区間勝利を競り落とした!マイヨ・ヴェール用ポイントも新たに30ptを手に入れ、首位キッテルに59pt→29ptへとまたさらに接近した。少々残念だったのは、1勝目の第14ステージと同じく、「起伏コース」のフィニッシュは満点でも30点しかもらえないこと。「ド平坦」なら、満点は50点なのに。

「マルセルと僕のポイント収集作戦は、まるで違う。明日もまた山の後に中間ポイントが設置されているから、状況次第では、また僕は飛び出すかもしれない。一方のマルセルは、平地でのスプリントフィニッシュにかけてくるはず。どちらの作戦が上手くいくのかは、パリでのお楽しみ!」(マシューズ、公式記者会見より)

マイヨ・ヴェールを巡るサンウェブの戦いがパリまで続く可能性があるのだとしたら、マイヨ・ア・ポワを守る戦いは、4つの難峠が待ち受ける第17ステージが本番だ。もちろん上位4人が29秒差でひしめくマイヨ・ジョーヌの争いも、来るアルプスの2大山岳ステージで、大きく動くに違いない。

☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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