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アルプスの、いや、ツール・ド・フランスでも屈指の威厳を放つガリビエから、プリモシュ・ログリッチェがとてつもなく大きなジャンプを決めた。マイヨ・ジョーヌを巡る争いもまた、ツール創始者アンリ・デグランジュの愛した巨大峠で本格的に勃発した。総合上位4人のタイム差は、29秒から53秒へとほんの少し広がった。
行く先には難峠が4つ聳え立っていた。アルプス特有の長い山道の終わりには、今大会最標高の2642m地点も待ち構えていた。来るべき戦いが、ひどい苦行になることは、誰の目から見ても明らかだった。しかし決して恐れることなく、新城幸也を含む多くの選手がアタックに挑んだ。ついには大きな33人の塊が、前線へと走り出していった。
少々後味が悪いことに、逃げグループが遠ざかっていくのとほぼ同時にスタートから20km、プロトン内で落車が発生した。マルセル・キッテルが地面に転がり落ちた。同時に落車した山岳賞首位ワレン・バルギルは、幸いにもすぐに走り出すことが出来たが、ポイント賞首位を走るキッテルは右半身を痛めた。なんとか超級クロワ・ド・フェールまでペダルを回し続けるも、ほうき車に回収されるのは、もはや時間の問題だった。
2017年大会で区間5勝をもぎ取った平地最速スプリンターは、アルプスの山奥で、自転車を降りた。キッテル本人がツイッターでつぶやいたように、「今ツールを嬉し涙で始めて、失意の涙で終えた」。
キッテルが残していった緑色のジャージは、マイケル・マシューズが受け継いだ。前夜の猛攻で29pt差にまで追い詰めたばかりだというのに、この日またしてもいわゆるオールラウンダーは33人の逃げに滑り込んでいた。
というのもスタート序盤の2級峠の後、47.5km地点に、中間ポイントが待ち受けていたから。ここで当然のように先頭通過を果たし、20ptを計上した。その後に一報が飛び込んできた。つまり残る9pt差を詰める必要は、もはやなくなってしまった。
「この20ポイントを取るために、今日も活発に動き回らなきゃならないことは、あらかじめ分かっていた。たとえこのポイントをとっても、まだ先は読めないだろうということも。それにしても、あんな風にレースを立ち去る場面は、見たくないものだね。素晴らしいバトルを経てきたからこそ、ここまでポイントを積み重ねることができた。キッテルのケガが軽いことを願ってるよ」(マシューズ、チーム公式リリースより)
マシューズは中間ポイントだけでなく、最初の2級峠さえ先頭を獲りに行った。なにしろ大きな逃げ集団には、山岳賞2位ログリッチェと、同点3位のトーマス・デヘントが紛れ込んでいた。だからチームメートであり、ツール中のルームメートでもあるバルギルのために、山岳ポイントを潰しに動いた。そのままデヘントと2人、先頭で先を急いだりもして……。
しかし、5分以上も後方のメイン集団で、新たな動きが生まれた。超級クロワ・ド・フェールの上りに差し掛かったところで、アルベルト・コンタドールが大胆に飛び出しを仕掛けたのだ!!
大きな33人の逃げには、22チーム中19チームが滑り込んでいた。不在3チームはつまりチーム スカイ、アスタナ プロチーム、クイックステップフロアーズで、一方でコンタドール属するトレック・セガフレードは、ミヒャエル・ゴーグル、ハリンソン・パンタノ、バウク・モレマの3人を送り込んでいた。
だから当然のように、グランツール総合7勝の偉大なるチャンピオン加速の知らせを受けると、ゴーグルはあえて減速し、リーダーの合流を待った。全長11.9kmのテレグラフ峠の山道では、麓から山頂まで、2日前の区間勝者モレマが力強い引きを披露した。メカトラに襲われたリーダーが、一時後方に下がっていたことさえすぐには気が付かないほど、一心不乱に。
1ダースにまで小さくなった先頭集団から、ガリビエ突入と共に真っ先に仕掛けたのは、しかし、コンタドールではなかった。ログリッチェだった。たしかにコンタドールも、セルジュ・パウエルスと共にすぐさま反応は見せた。ただし、34歳の元王者には、これが限界だった。さらに数人が追いついてくると、フィニッシュまで34.5km、改めてログリッチェが加速を切った。
若き日には、下りで助走をつけて遠くへ飛び出していた元スキージャンパーが、この日は、17.7kmの長い上り坂を踏み台に、見事な大ジャンプを成功させた。コンタドールが今大会2度目の敢闘賞で、小さな慰めと辱めを覚えた一方で、プロ2年目の27歳は、生まれて初めてのツール区間勝利へとただひたすらに突っ走った。後方から猛スピードで追い上げてくるメイン集団を、1分13秒差で振り払った。
「こんなに早く段階を飛び越えて、ツールの区間を取れるなんて、想像もしていなかった。夢を見て良かった。だって、この夢を叶えるために、スキージャンプから自転車へと転向したんだから」(ログリッチェ、ミックスゾーンインタビューより)
ジュニア時代にスキージャンプで世界選手権団体金メダルを獲得したスーパーアスリートは、実は昨年のジロで個人タイムトライアルを制した後、今年のツールでは初日のTTで大胆にも「マイヨ・ジョーヌを夢見た」。
その夢こそ叶わなかったけれど、真っ平らな14kmの全力疾走の代わりに、2017年大会の最難関ステージの果てに両腕を突き上げた。しかもスロベニア人としては、史上初めて、ツールのステージ勝利を勝ち取った。山岳賞争いでも上手くやった。この日だけで42ptをかき集め、首位に49ptまで迫った。ちなみに翌日のイゾーアル山頂フィニッシュステージでは、最大52ptの収集が可能となる。
後方のメイン集団は、いつも通りに、スカイが完璧なまでに制御を続けた。前夜の段階で総合7分10秒遅れのコンタドールの飛び出しには、まるで慌てなかった。累計標高が増えるとともに、総合ライバルたちが次々とアシストを失っていく一方で、ガリビエの麓でもクリス・フルームはいまだ3人のアシストを有していた。
そんな不均衡な状態を打ち壊すべく、数人の勇敢な者が加速を切った。中でも総合3位ロメン・バルデは、幾たびものアタックに打って出た。総合首位フルームと4位リゴベルト・ウランは、いつだってぴたりと後輪にはりついた。
一方で総合2位のファビオ・アルは、加速のたびに距離を開けられ、その後はライバルに追いつくための暴力的な努力を要した。しかしガリビエ山頂間際で、コンタドールを回収しつつ、フランスの星が4度目の一撃をお見舞いすると……ついにアルは完全に脱落した。
「アルが遅れていったのは、大きな驚きだった。むしろアタックを仕掛けてくるだろうと予想していたから。だけどグランツールの3週目というのは、全ての選手にとって、試練なんだ。もしも最終週に空白の1日が訪れてしまった場合、もはや隠し立てすることなんて不可能だ」(フルーム、公式記者会見より)
フルーム、バルデ、ウラン、さらには赤玉ジャージを身にまとうバルギルが一緒に山頂を超えると、フィニッシュまで続く28kmの長いダウンヒルへと突入した。3枠しかない表彰台から、邪魔な4人目を突き落とすために、ここから先は誰もが協力し合って先を急いだ。第13ステージ優勝時に「今後はフランス人としてバルデの総合争いに協力したい」と語っていたバルギルも、フランス共和国大統領マニュエル・マクロンがツール応援に訪れたこの日、同胞のために先頭交代を厭わなかった。
なによりガリビエの上りでも延々とサポートし続けてきたスーパーアシスト、ミケル・ランダが、下りでも追いついてきて、状況制御に動いてくれたことは、マイヨ・ジョーヌにとって大いなる安心材料だった。2012年は自らもスーパーアシストとして、ブラッドレー・ウィギンスの総合優勝を全力で助けながらも、いまだに「サー」とはしこりの残る関係にあるフルームは、この日もアシストへの感謝の言葉を忘れなかった。
「今日の彼はすごく強かったし、ガリビエで大いに力を尽くしてくれた。ランダが何らかの形で表彰台に上がれたら、すごくファンタスティックだろうな」(フルーム、公式記者会見より)
フィニッシュではボーナスタイムを巡って、ヒルクライマーたちが夢中でスプリントを切った。区間2位のウランが6秒を、3位のフルームが4秒をそれぞれ手に入れた。アルはコンタドールらと共に、マイヨ・ジョーヌ集団から31秒後にラインを横切った。
総合上位4人の29秒差は、たしかに53秒差へと広がった。それでも、いまだに、とてつもない僅差の戦いであることには変わりない。2位だったアルが4番目に後退し、代わりにウランが27秒差の2位へと浮上した。同じ27秒差でバルデは総合3位へつけている。
ランダは総合5位と変わらず、バルギルは総合10位へとジャンプアップを果たした。一方で奮闘するも成果を出せなかったコンタドールは、総合11位から9位へと浮上するも、タイム差は7分10秒から7分45秒遅れに後退した。ガリビエの上りでメイン集団から脱落したナイロ・キンタナは、とうとうトップ10圏外へと陥落してしまった。
☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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