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アンドラの山からのダウンヒルは、スリルとサスペンスでいっぱいだった。プロトン屈指の名ダウンヒラー、ヴィンチェンツォ・ニーバリが区間勝利をさらい取り、開幕わずか3日目でクリス・フルームがマイヨ・ロホを身にまとった。スペイン一周に大量に押し掛けた総合上位候補の中から、あっというまに、今大会のメインキャストの姿が浮かび上がってきた。
「今大会の優勝候補が、先頭集団に残った9人に絞り込まれたと決めつけてしまうには、まだ早すぎる。この先は長いし、難しいステージはたくさん残っている。とにかく、間違いなく、面白いブエルタになるだろうね!」(ニーバリ、フィニッシュ後インタビューより)
頭上には焼け付くような太陽、足元には険しいピレネーの道。出走直後から1級ペルシュ峠目掛けて上り始めると、すかさず8選手が逃げ出した。中でも7月のツールで通算1000kmを超える逃げを打ちながらも、山岳賞もスーパー敢闘賞も貰えず手ぶらでベルギーに帰ったデヘントが、大急ぎで2017年ブエルタの記念すべき最初のエスケープ集団を作り上げた。ちなみに今大会の目標は「3大ツールの全てで区間勝利を取った史上100人目の選手になること」らしいが、残念ながらこの日の目標達成はお預けとなる。
なにしろマイヨ・ロホ擁するクイックステップフロアーズが、集団をきっちり制御し、5分以上のタイム差を許そうとはしなかった。さらに長い谷間に入ると、スカイが主導権をむしり取り、いつものように厳しく正確なテンポを刻み始めた。アンドラ公国への訪問を控えて、8人を容赦なく追い詰めていった。ピレネーの小国にいよいよ足を踏み入れ、1級ラバッサ峠の終盤で、UAEチームエミレーツが突如として攻撃に転じたのが決定打となった。逃げの中で最後まで抵抗を続けたアレクサンドル・ジェニエとダヴィデ・ヴィッレッラも、残り27km地点で、後方へと引きずりおろされた。
ラバッサ峠の上りでは、メイン集団の大清掃も行われた。赤いジャージ姿のイヴ・ランパルトが後退していっただけでなく、チーム内で総合首位の座を引き継ぐ位置につけていたはずのジュリアン・アラフィリップも、力なく脱落していった。プロトンは50人ほどにまで小さくなり、下りに入ってもなお、UAEが高速ダウンヒルを敢行し続けた。
下り切った直後、つまり最終2級コメリャ峠の直前には、中間ポイントが設定されていた。当然ながら先頭集団にスプリンターなど残っているはずもなく、緑ジャージ用のポイント収集に興味を持つ選手もいなかった。ただし、ライン通過直前に、突如としてスプリントを切った選手がいた。……フルームだ!
「僕はすでに13秒差でブエルタを失った経験がある。だから、うん、ほんの数秒でも奪いに行くつもりで走っているんだ」(フルーム、公式記者会見より)
あれはフルームが初めて総合強者として頭角を現した、2011年大会のことだった。その13秒を詰めるために、中間ポイントでボーナスタイムを収集しようと画策した。ただし意気込みすぎて、全然関係のない横断幕の下でスプリントを切ったのは……今では笑い話である。あれから4度のツール総合優勝を手にした大チャンピオンは、この日はスプリント箇所を間違えることなく、きっちり3秒のボーナスタイムを懐に入れた。2番手にアシストのワウテル・ポエルスがつけ、ライバルが2秒を稼ぐ機会を潰すのも忘れなかった。
さらには、スプリントの勢いのまま、スカイが最終コメリャ峠の山道へ突っ込んだ。特に生まれて初めてのグランツールを戦うジャンニ・モズコンが、先頭に立つと、文字通りの全力疾走を披露した。あまりの急激な加速に、集団は軽いパニック状態に陥った。一気にばらばらに砕け散った。
さらにはミケル・ニエベが、7月のツールでも見せたように、高速テンポで牽引を引き継いだ。人生最後の栄光を追い求めるアルベルト・コンタドールが真っ先に脱落し、ラファル・マイカやイルヌール・ザカリンも振り落とされた。
山頂まで約1km。ついにフルーム本人が加速を切った。例の高速ペダル回転がさく裂し、ただエステバン・チャベスだけがすかさず後輪に飛び乗った。186㎝の長身が幾度も加速を畳みかける背後で、164㎝の小柄なヒルクライマーはまるで影のように、ひたすら張り付いた。フィニッシュまで誘う7.1kmのダウンヒルへも、同時に飛び込んでいった。
一方で「脚の調子は良かったのに、(フルームの加速時に)ポジション取りが悪くて、すぐに反応できなかった」(フィニッシュ後TVインタビューより)というロメン・バルデが、山頂間際で追走に乗り出した。ファビオ・アルも同調した。7月のツールでフルームを大いに揺さぶった2人は、連続ヘアピンカーブの先にちらちらと垣間見えるライバルを捕らえようと、下りを大胆に攻めた。まんまとラスト4kmで合流を成功させる。
4人に絞り込まれた先頭集団は、高速でラスト1kmのアーチを潜り抜けた。区間勝者はこの中から出るに違いない。きっと誰もがそう信じた。そのせいで、ほんの少しだけ、互いに顔を見合わせる時間ができてしまった。
「区間をどうしても勝ちたかったのに……、突然びっくりした。まさか後ろから追いついてくるなんて!」(バルデ、フィニッシュ後TVインタビューより)
上りで少し遅れを取った強豪たちは、下りで勢いを取り戻していた。なんとかチーム内にマイヨ・ロホを留めおこうとダヴィド・デラクルスが奮闘し、やはりリーダージャージに手が届きそうなビーエムシー レーシングチームのニコラス・ロッシュとティージェイ・ヴァンガーデレンが全力を振り絞り、バルデとダブルリーダーを組むドメニコ・ポッツォヴィーボと、なによりニーバリが本腰を入れて下った。
「追いつくために大いに力を使った。ただ僕に残された唯一の勝機は、スプリントを打つことだと分かっていた。だけど、どうやって体力を回復して、どうやってスプリントに持ち込んだのか、自分でもさっぱり分からない。スプリントを仕掛けたあと、少し速く飛び出しすぎたかな、ともちょっとだけ考えた。でも、とにかく、幸いなことに、僕は勝てたんだ」(ニーバリ、公式記者会見より)
こう後に振り返ったニーバリは、追いついただけでなく、直後に矢のように飛び出した。そのまま猛スピードでフィニッシュラインを先頭で駆け抜けると、2010年第20ステージ以来2度目のブエルタ区間勝利を手に入れた。ただし、あくまでも記録の上であり(実際に区間を制したエセキエル・モスケラの成績が後に削除された)、区間勝者としてブエルタの表彰台に上ったのは、実は人生で初めての経験となる。3大ツールの全てで総合優勝を果たした史上6人目の王者が、ついにジロ区間7勝、ツール区間5勝と合わせて、本当の意味で「3大ツールの全てで区間勝利を取った」選手となった。
「なによりボーナスタイムが欲しかった」と語るニーバリが望み通りボーナスタイム10秒を手に入れた背後では、デラクルスが2位=6秒、フルームが3位=4秒をそれぞれ上乗せした。その結果フルームが、ダクルス、ロッシュ、ヴァンガーデレンをわずか2秒差で退けて、総合首位に浮上した。まさしく中間ポイントでのボーナスタイム3秒を収集の成果だった。
「まさかマイヨ・ロホがこんなに早く取れるとは思ってもいなかった。嬉しい驚きだし、非常に誇りに思う。最後まで守れるかどうかは分からない。なにしろ激しい戦いが今後も繰り返されるはずだ。間違いなく、この先は出来る限りのボーナスタイムを、取っていかなきゃならないだろう」(フルーム、公式記者会見より)
フルームは2011年大会の第10ステージ後に、赤いジャージをわずか1日だけ着用したことがある。その後2度とマイヨ・ロホを取り戻すことなく、上述の通り13秒差で優勝を逃した。また2015年ツールでは、大会3日目にリーダージャージを獲得するも、やはりわずか1日で手放している。この時は第7ステージ後に、改めてマイヨ・ジョーヌを手に入れると、パリまでもう2度と脱ぐことはなかった。果たして今回のブエルタでは、どんな運命がフルームを待ち受けているのだろうか。
わずか2秒という僅差で3人が続き、31秒遅れで初日を終えたニーバリは、この2日間で10秒差の総合5位にまで順位を上げてきた。絶不調だったツールとは違い、絶好調のチャベスも6位11秒差につけている。またアルが7位38秒差、ポッツォヴィーヴォが9位43秒差、バルデが10位48秒差と続く。先頭集団には食い込めなかったものの、イェーツ兄弟もアダムが8位39秒差、サイモンが11位48秒差とまだまだ上位に留まっている。一方のコンタドールは早くも総合3分10秒の遅れを喫した。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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