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2日前にはチームメートの勝利をお膳立てしたマッテオ・トレンティンが、今回は自らがスプリント勝利を収めた。アンドラ公国で総合首位に立ったクリス・フルームは、大会の本国スペインに堂々と赤ジャージ姿で入場した。6年前はわずか1日でマイヨ・ロホを手放してしまったけれど、平坦ステージ特有のナーバスな最終盤も危なげなく乗り切って、今大会2枚目の赤いジャージを受け取った。
ピレネー山脈で繰り広げられたとんでもない激戦の翌日には、灼熱地獄が襲い掛かった。気温は摂氏40度近くまで上昇し、強烈な日差しがプロトンの肌をちりちりと焦がした。ただ幸いにも、コース自体は、それほど厳しくはなかった。地中海岸のビーチリゾートへと続く道は、全体的にほぼ平坦で、中盤に3級峠がひとつ待ち構えているだけ。だからこそ酷い暑さにも負けず、スタートから6kmほど先で、ヨアン・ルボン、ステファヌ・ロセット、ディエゴ・ルビオ、ニコラス・シュルツ、ファン・フェリペ・オソリオの5人が元気よく飛び出していった。
マイヨ・ロホを護衛するために、ステージ前半は、チームスカイがきっちりと制御を行った。逃げ集団内で最も総合上位につけるロセットが、フルームからちょうど10分遅れだったため、最大8分までリードを許すことにした。それ以上のタイム差を与えたくなかったのは、スプリンターチームだって同じだった。数少ない区間勝利のチャンスを、みすみす逃すつもりなどなかった。ステージも半ばに差し掛かると、スカイから主導権をむしり取った
中でも存在感を放ったのが、クイックステップフロアーズの面々だ。ベルギーの常勝軍団は、第2ステージの区間勝利&マイヨ・ロホ獲得だけでは、どうやら満足し切れなかったようだ。新たな成功を手に入れるため、集団前方でせっせと作業に励み、逃げとの距離を着実に縮めていった。
じわじわと追い詰められ、いよいよ苦しくなってきた前方から、ロセットとルビオがさらなる加速を仕掛けた。しかし、3級の上りを利用して飛び出したはいいが、フィニッシュまで少々遠すぎた。なにしろ、いまだ、70kmも残っていた!結局はいいように泳がされた挙句、7.5kmを残して、スピードの塊となったプロトンに飲み込まれていった。
ちなみに2人が必死で逃げている最中に、中間ポイントを通過している。前夜に「取れるボーナスタイムは全部取っていく」的な発言をしていたフルームだったけれど、メイン集団で3位通過=ボーナスタイム1秒を取りに行ったのは、同じスカイのワウテル・ポエルスだった。2016年ツールではフルームの右腕として素晴らしい自己犠牲精神を披露したが、今ブエルタでは、実は、自分の総合成績も狙っているのだという。つまり前日に1分39秒も失ってしまったオランダ人にとっては、フルームのライバル(特に2秒差につける3人)にボーナスタイムをさらわれてしまう事態を防ぎつつ、自分のタイムもほんのちょっと回復できる絶好のチャンスだったのかもしれない。
いわば一触即発の、ぎりぎりの緊張感に包まれていたメインプロトンは、逃げの吸収と同時に一気に爆発した。軽い登りでマンザナ・ポストボン チームがアタックを試みたかと思えば、軽い下りではボーラ・ハンスグローエが隊列を組んで猛烈に攻め続けた。今季ジロの初日ステージで、後方でちょっと顔を見合わせているうちに、ボーラの奇襲を許してしまった……そんな苦い経験を繰り返さぬよう、他のチームも負けないくらい必死に列車を走らせた。
最終5kmにカーブやロータリーが連続して登場したのも、集団の混沌を増幅した原因だった。分断や落車の危険をどうにか避けようと、総合勢の選手たちはこぞって前線へと競り上がった。誰もがあまりに必死だった。そしてタイム差救済措置が発動されるラスト3kmに突入する、ほんのわずか手前で、ついに集団落車が起こった。
地面に転がり落ちた不幸な選手たちの中に、前区間終了時で総合9位(43秒差)につけていたドメニコ・ポッツォヴィーヴォと、総合14位(1分20秒差)のダニエル・モレノの姿があった。落車よりも痛かったのは、それぞれに3分25秒と1分38秒を失ってしまったこと。アレハンドロ・バルベルデもナイロ・キンタナもいないモヴィスターチームを支えるスペイン人は27位まで順位を落とし、ロメン・バルデのチームメートは、一気に総合33位へと陥落してしまった。
カオスの波を見事にかいくぐって、ラスト1.5kmで、クイックステップが最前列の位置を取り戻した。なにより2日前にトレンティンに「お前が飛び出せ!」と背中を押してもらったイヴ・ランパルトが、恩返しとばかり、発射台の役目を買って出た。自慢のルーラーの脚を惜しみなく発揮すると、トレンティンを好位置で解き放った。
「2日前は、僕らチームは、完璧に作戦を遂行した。まさに傑作だった。そして今日は、予定によると、僕が勝ちに行く番だった。チームのみんなが、僕のために、責任を持って仕事を行ってくれた。みんなに完璧な場所まで連れて行ってもらえたから、あとは作品を完成させるだけでよかった。完璧だったんだ!」(トレンティン、フィニッシュ後インタビューより)
完璧、という言葉を何度も繰り返したトレンティンには、フィニッシュラインを越えながら、喜びを噛みしめる余裕さえあった。ジロ区間1勝(2016年)、ツール区間2勝(2013・2014年)に続く、ブエルタでは初めての区間勝利だった。つまりトーマス・デヘントが狙っていたはずの、「3つのグランツール全てで区間勝利を手にした史上100人目の選手」となった!
「自分のキャリアの中に、この記録は、永遠に刻み付けられることになるだろう。そんな凄い快挙を、クイックステップのジャージ姿で樹立できたことを、すごく誇りに思っている。だってジロの区間も、ツールの区間も、そして今回のブエルタの区間も、全てこのチームと共に勝ち取ってきたんだから」(トレンティン、公式記者会見より)
なによりプロ入り以来6年半過ごしてきたチームに、2017年グランツールの区間12勝目をもたらした。ほんの2日前に、同一年グランツールでの最多区間勝利数を更新(これまでは2013年の10勝が最多記録)したばかりのクイックステップにとっては、素晴らしい置き土産となったに違いない。トレンティンは来季から、オリカ・スコットの一員として走る。
また落車でタイムを失った前述の2選手以外は、総合上位勢は揃って先頭集団で1日を終えた。フルームは2秒という僅差を守り切り、赤いジャージを再び身にまとった。
「フィニッシュライン間際での分断を、心底恐れていた。だって最終盤には危険な罠があちこちに潜んでいたからね。前方に留まるために、必死にしがみついた甲斐があったというものさ。だから今はただ、マイヨ・ロホを再び着られたことを、心から楽しみたい」(フルーム、公式記者会見より)
ところで、明日のことは明日考える、とフルームは語っているけれど……、その明日にあたる第5ステージには、2秒差どころか10秒差くらいならあっさりひっくり返りそうな、とっても楽しい登坂フィニッシュが待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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