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サイクル ロードレース コラム 2017年8月24日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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最終峠は3.4kmと極めて短く、極めて烈しかった。逃げのライバルを全て振り払ったアレクセイ・ルツェンコが、海の見える高台へ単独でよじ登ると、生まれて初めてのグランツール区間を手に入れた。総合勢の多くが激坂に苦しんだ一方で、2日前に体調不良でタイムを失ったアルベルト・コンタドールは、自分がいまだ終わってなどいないことを祖国のファンの目の前で証明してみせた。チームメイトたちの凄まじい献身に支えられたクリス・フルームは、また1日、着実にマイヨ・ロホを守った。

2017年のスペイン一周がようやく、100%スペイン国内の戦いを迎えた。多くの選手にとっては、待ちに待った、大会初めての逃げ切りのチャンスでもあった。スタート直後から、数人ずつの小さな塊が、次々と飛び出していった。ついには17人の大きな逃げ集団を作り上げた。

行く手には5つの山が待ち構えていたから、当然ながら、集まったのはかなりの脚自慢ばかり。中でも第3ステージで逃げ、いち早く山岳ジャージをまとっていたダヴィデ・ヴィッレッラが、この日も熱心に山岳ポイント収集に励んだ。4つ目の峠まで全て先頭で駆け抜けて、通算18ptを懐に入れた。ルイス・ギリェルモ・マスが毎回のように戦いを挑んできたけれど、昨秋のジャパンカップ勝者が脅かされることはちっともなかった。

しかし本人が「もしかしたら山岳ポイント収集にエネルギーを集中しすぎて、最終盤に輝けなかったのかも」(チーム公式リリースより)と振り返るように、青玉ジャージはしっかり着込んだけれど、区間争いには絡めなかった。なにしろヴィレッラは、4つ目の上りで、あまりにも寛大すぎた。

チームスカイが制御するメイン集団が、いつまでたっても3分半ほどしかリードを許してくれなかったのに、業を煮やしたのかもしれない。ヴィレッラは自ら進んで逃げの先頭に立つと、山頂まで5km以上にも渡って集団を牽引した。おかげで後方プロトンとの差は一気に5分ほどにまで開き、ついにはスカイも吸収を諦めた。さすがのマスもこの時ばかりは敬意を払い、山岳ポイントを争いには行かなかったほど。

下りに転じると同時に、逃げ集団から、マルコ・ハラーが猛烈な加速を切った。さらに2013年のU23世界チャンピオンであるマテイ・モホリッチがアクロバチックなダウンヒルテクニックを駆使して前に飛び出すと、その前年2012年のU23世界チャンピオンであるルツェンコもすかさず反応した。残り30kmで3人は合流し、さらに先頭はハラーとルツェンコの2人に絞り込まれた。

後方に取り残されたライバルたちだって、長いダウンヒルで執拗に追走を試みた。しかし上り巧者ヴィレッラが脱落し、いつしか激坂ハンターのジュリアン・アラフィリップも力なく後退して行った。メルハバ・クドゥスだけが最後まで執念深く追走を続けたけれど、エリトリアのヒルクライマーは、残念ながら祖国に史上初めてのグランツール区間勝利をもたらすことはできなかった。

最終峠に入った瞬間、ルツェンコはハラーを振り払い、独走態勢に持ち込んだ。平均勾配こそ4.2%と低めながら、終盤に20%近い難勾配ゾーンが待ち受ける激坂でも、ひたすらシッティングで突き進んだ。ただ歯を食いしばって、耐え続けた。幸いにも山頂では、生まれて初めてのグランツール区間勝利が待っていた。祖国のカザフスタンにとっては、チームの「ボス」アレクサンドル・ヴィノクロフの2010年ツールでの区間勝利以来となる、7年ぶりの栄光だった!


「キャリアで最も素晴らしい勝利が手に入った。すごく嬉しい。ブエルタはファンタスティックな大会だし、今日のコースも美しかった。ツールでひどい落車を経験したけれど、ブエルタに向けてしっかり準備を積めた。おかげで最高の調子で、大会に乗り込むことが出来たんだ」(ルツェンコ、公式記者会見より)

逃げの吸収を諦めて、……すなわちラスト15.7km地点の中間ポイントでのボーナスタイム収集が不可能になると、スカイはしばらく静かにペダルを回すことにした。タイム差は7分半ほどまであっさり広がり、おかげで前区間終了時点で総合4分56秒遅れのイェツ・ボルが、暫定マリア・ロホに浮上したことさえあった。さらに最終峠の接近と共に、あらゆる総合チームが前線を侵略し、こぞって隊列を走らせた。スカイを乱暴に押しのけ、登坂口へと詰めかけた。

しかしスカイはスカイだった。ラスト2kmに差し掛かるころには、前方を4人でしっかり固め直した。さらに第3ステージでも驚異的な仕事をやってのけたグランツール新人ジャンニ・モスコンが、この日も恐るべきポテンシャルを披露した。爆発的な速度で激坂を駆け上がり、集団をずたずたに切り裂いた。フィニッシュ手前600mまで文字通り全力を尽くし、赤いジャージ姿のエースを前方へと解き放った。

恐るべき若者の無茶引き、さらに続いて襲い掛かったフルームの高速回転にしがみついて行けたのは、コンタドール、エステバン・チャベス、ティージェイ・ヴァンガーデレン、そしてマイケル・ウッズの4人しか存在しなかった。


ただコンタドールに関しては、ついていくだけでは満足しなかった。人生最後のグランツールかどうかなんて関係ない。そもそもコンタドールの辞書に、「諦める」とか、「守りに入る」なんていう文字なんて書かれていないに違いない。第3ステージに軽い胃腸炎を患い、大きくタイムを落とした。総合ではすでに3分10秒もの遅れを喫していた。ライバルたちから1秒でも多くタイム差をむしり取り、総合争いに返り咲くためには、あらゆる機会で動くしかない。山頂間際で、コンタドールは、おなじみのダンシングスタイルで加速に転じた!

「今日の走りには満足してる。おかげで今の自分の調子が把握できたし、この先どんな作戦で、どんな目標に向かって走るべきなのかを判断することもできる。ただ……総合優勝を狙うのは難しいだろう。たった1日、短い登りで、好パフォーマンスができたくらいで、気持ちだけ先走ってしまってはならない」(コンタドール、フィニッシュ後インタビューより)

ルツェンコの区間勝利から4分31秒後。コンタドールに連なるようにして、フルーム、ウッズ、チャベスが同タイムでフィニッシュラインを越えた。ヴァンガーデレンは最後に力尽き8秒を失った。ファビオ・アルを含む小集団は11秒後に滑り込んだ。2日前には巧妙に区間勝利をさらったヴィンチェンツォ・ニーバリは、この日はフルーム集団から26秒も遅れて山頂にたどり着いた。生まれて初めての「ツール以外」のグランツールに挑むロメン・バルデは、ついに完全なる国外に飛び出したこの日――というのはアンドラ公国の共同君主はフランス大統領なのだ――、なんと一気に49秒も落としてしまった。

「たった3kmの上りで、総合争いがはっきりと形を帯びてきた。ライバルたちの調子についても、僕はしっかり確認することが出来たよ。チャベスはどうやら今大会ベストクライマーのひとりだ。コンタドールも素晴らしい区間を実現させた。ヴァンガーデレンはいまだに上位に踏みとどまっているし、しかもニコラス・ロッシュも残っているから、ビーエムシー レーシングチームはつまり2つのオプションを有していることになる。ニーバリとアルがタイムを落としたのはびっくりしたし、バルデについても同じ。でもまだ大会は長い。本格的な山に入ったら、状況はまた違ってくるだろう」(フルーム、公式記者会見より)

つまりマイヨ・ロホのフルームが名前を上げた中では、ヴァンガーデレンが10秒遅れで総合2位につける。3位・11秒差でチャベスが、4位・13秒差でロッシュが追い、ニーバリは36秒差の6位、アルは49秒差の7位。バルデは1分37秒差の14位に大きく後退し、コンタドールは総合首位からの遅れこそ3分10秒と変わらないものの、総合トップ10との差は2分22秒→1分57秒と縮めた。

ちなみに名前は上げてもらえなかったけれど、総合5位には23秒差でダヴィド・デラクルスが、8位と9位にはイェーツ兄弟がつけている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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