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サイクル ロードレース コラム 2017年8月26日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第7ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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必殺技が炸裂した。名物の「宙吊りの家」をゆっくり眺めている間なんて、きっとなかった。独特なスタイルで坂道を駆け下りると、マテイ・モホリッチが初めての栄誉に浴した。後方のプロトン内では、途中でちょっとばかり不穏な動きも見られたけれど、いずれも長くは続かなかった。スカイが規則正しくリズムを刻んだのは、結局のところ、全ての総合系選手にとって幸いだった。

開幕からちょうど1週間が過ぎ、疲れが抜けにくくなってきた脚に、2017年ブエルタ最長ステージが襲い掛かった。しかも前日はクレイジーな速度で突っ走った上に、アルベルト・コンタドールの奇襲のせいでまるでカオスだった。もちろん、2日連続のカオスを、選手たちは望んでなどいなかったはずだ。だからスタートから10kmほど走っただけで、メイン集団は比較的あっさり14選手の逃げを見送った。

グランツール屈指の大逃げ常連、トーマス・デヘントやアレッサンドロ・デマルキが率いる先頭集団は、すぐに8分ほどのリードを許された。スプリントに強いホセ・ホアキン・ロハスに、独走力が自慢のアレクシー・グジャールに、さらには下り得意のマテイ・モホリッチ……とあらゆるタイプが潜り込んでいたけれど、脚質の差を乗り越えて、全員がしっかり協力体制を組み上げたからでもあった。

実は誰もがラ・マンチャの高原地帯に吹き荒れる強風を恐れていた。ドン・キホーテと風車で有名な地方だからこそ、メイン集団がいつ何時、とてつもない分断作戦に転じるかもしれない。前方は出来る限り大量のリードを開く必要に迫られ、神経質に先頭交代を繰り返した。後方ではスカイが全員隊列で制御に繰り出した。マイヨ・ロホのクリス・フルームを安全な位置に留め置くために、特に体の大きなアシストたちが、身を挺して風よけを務めた。


「今日はイアン・スタナードとクリスティアン・クネースに、特別にお礼を言わなきゃならないね。彼らが前線に立ってあらゆる仕事を成し遂げてくれた。間違いなく彼らのおかげで、僕はこうしていまだに赤ジャージを着続けられている」(フルーム、公式記者会見より)

残り50km地点前後で、ついに恐れていたことが起こった。突如として、バーレーン・メリダやクイックステップフロアーズが、集団前方に駆け上がった。スピードは一気に増し、緊張感は跳ね上がり、集団後方では2つの小さな亀裂が生まれた。ただしスカイボーイズが、すぐに事態の収拾に動いた。前線の定位置を取り戻し、集団のざわつきを鎮め、千切れた選手たちの再合流を許した。全ては杞憂に終わった。結局のところ、これが、たった1度きりの分断の試みとなった。

「昨日のステージは全力で戦ったから、きっとみんな疲れていたんだと思う。かくいう僕らチームも、途中であまり力を使いすぎないよう気を付けた。最終盤で何か起こった場合に備えて、アシストの枚数を残しておきたかったから」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)

不穏な空気が消え去ると、一旦は7分にまで縮まったタイム差も、再び広がり始めた。フィニッシュまで23kmを残して、14人のリードは8分半。もはやメイン集団が追いかけてくることはないのだ。こう悟った逃げ集団は、途端にこれまでの協力体制をかなぐり捨てた。デヘントの加速が、合図となった。

すかさず反応したのはグジャールだったが、最も積極的だったのはモホリッチだった。自らのイニシアチヴで3度の加速を切り、3度目で上手く飛び出した。あらゆる加速に脊髄反射を続けたグジャールだけが、やはり背中に張り付いてきたけれど、クエンカの旧市街へと向かう道すがら振り払った。代わりに石畳の激坂で、ロハスとデヘント、そして昨日大逃げの末に区間2位に泣いたパヴェル・ポランスキーが追いついてきた。

「最終盤の地形は自分向きだと分かっていた。だって僕はむしろダウンヒルが得意な方だから。最後の下りで飛び出せば、自分にチャンスがあると分かっていた」(モホリッチ、公式記者会見より)

ラスト11km。道が下りに転じた瞬間に、モホリッチは猛スピードで加速を切った。2012年のジュニア世界チャンピオンは、2013年の世界選手権で自らをアルカンシェルへと導いてくれた得意技――トップチューブに腰を落としつつ、ペダルを高速で回す――を駆使して、3人との差を一気に開きにかかった。クフィアトコフスキーやフルームも切り札として使う、例の下りポジションだ!


「ジュニア時代からこのダウンヒル技は使っていたよ。ただ最近はあまりやらなくなった。だって危険だからね。単独で下っている時にしかやらない。でも体力を最大限に温存するためには、かなり有効なポジションだと思っている。今日は限界まで力を出したから、少し体力を回復するために、出来る限りエアロダイナミクスな姿勢を取ったんだ」(モホリッチ、フィニッシュ後インタビューより)

専門家たちの間ではその有効性を疑われているようだが、ダウンヒルで攻め続けたモホリッチは、もはや2度とライバルたちに追いつかれることはなかった。カテゴリーをまたいでの世界選手権連覇の翌年に、早熟なプロデビューを果たした22歳は、プロ入り4年目にして、ついに初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。

「信じられない。ずいぶんと久しぶりの大きな勝利だよ。僕はいつだって懸命に走ってきたし、自分自身のベストを尽くしてきた。今こうして再び勝利を手に入れることができて、素晴らしい気分だよ」(モホリッチ、公式記者会見より)

16秒遅れでフィニッシュラインに飛び込んだポランスキーは、2日連続の2位に泣き、4位デヘントは「3大ツール全てで区間勝利を手にした史上101人目の選手」になれなかった。

フルームを含むスカイの4人に先導されて、あらゆる総合上位勢は、8分38秒遅れで静かに1日を終えた。石畳の激坂が接近するにつれ再び緊迫感が増し、幾度か小さな動きがみられたものの、やはりスカイが全てを丸く収めた。ほんの数分前にモホリッチの素晴らしいアタックの舞台となった下りでは、ただ淡々とした時間が流れた。「プロトンは粉々になるだろう」とフルームが宣言する翌第8ステージ備えて、もはや誰ひとり、無駄に体力を消耗しようとはしなかった。

☐ ブエルタ・ア・エスパーニャ2017
ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 8月19日(土)~9月10日(日)
全21ステージ独占生中継!

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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