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赤ジャージを巡るクレイジーな日々の合間に、緑ジャージが改めて強さを誇示した。1日中責任を持って集団制御を行ったクイックステップフロアーズが、トリッキーな最終盤を見事なチームワークで攻略し、そしてマッテオ・トレンティンが仕事を締めくくった。選手個人はジロ1勝、ツール2勝、そしてブエルタ3勝と数字をきれいに並べ、ベルギーのチャンピオン集団は、ついに2017年のグランツールの全てで区間5勝目ずつを手に入れた。小さな分断も発生したが、マイヨ・ロホに影響はなかった。
スタート直後に5選手が飛び出した。そのうちダヴィデ・ヴィッレッラだけは、単純なる山岳ポイント狙いに過ぎなかった。第3ステージ終了後から青玉ジャージを着続けるイタリアンクライマーは、スタートから27km地点に待ち構える3級峠で、3ptを付け加えた。これにて任務完了。残り171kmにもはや等級のつく峠は存在しないから、これ以上努力しても無意味なのだ。自主的にプロトンへと後退していった。
ちなみに2015年と2016年に青玉ジャージを素敵に着こなしたオマール・フライレが、残念ながら、大会自体から去っていった。前ステージは大逃げで区間2位に滑り込み、元気な姿を見せたばかりだったというのに、この日は少しの起伏でさえ耐えられなかった。メイン集団から何度も滑り落ち、最後はついに自転車を降りた。ディメンションデータにとっては今大会6人目のリタイアで、残された3人でマドリードを目指す。
こうして先頭集団には、アレッサンドロ・デマルキ、トーマス・デヘント、アレクシ―・グジャール、アルノー・クーテルの4人が残された。「デマルキとグジャールの存在のおかげで、ほんの、ほんのちょっぴりだけれど、逃げ切りの可能性を信じた」とデヘントがフィニッシュ後に語った通り、グランツールで大逃げ勝利の経験を持つ実力者3人が揃った。クーテル(正式な読みはクールテイユ)に関しては、数日前に所属チームから契約打ち切りを告げられ、どうやら就職活動に励む必要があったらしい。容赦なく照りつけるアンダルシアの太陽の下で、4選手は逃げ切りという共通の目標に向かって、懸命にペダルを回し続けた。
ただし、メイン集団は、最大でも5分ほどしかリードを与えてはくれなかった。なにしろ2017年のグランツールであらゆる平坦ステージを制圧してきたクイックステップが、集団前方で隊列を組んでいた。チーム ロットNL・ユンボとキャノンデール・ドラパックプロサイクリングチームからも、1人ずつタイム差制御に加勢した。おかげで少しずつ、着実に、逃げ切りの可能性を削っていった。残り100kmで3分半、残り50kmで1分半……。
じわじわと遠まわしに痛めつけられる状況に、とうとう我慢できなくなったのか、残り23kmでグジャールとクーテルが勝負から降りた。デヘントの脚は残り15kmで限界に達した。
その直後に訪れた中間ポイントを、ひとり奮闘を続けるデマルキは、30秒リードで駆け抜けた。メインプロトン内からは、もしもの場合に備えて、チームスカイのアシスト(クリスティアン・クネース)が2位通過=ボーナスタイム2秒を潰しに走った。杞憂に過ぎなかった。ただ大きな塊のまま、黙々と集団は前進を続け、残り7.5kmで最後の1人も飲み込んだ。
幅の広い直線道路を快適に突き進んできた集団は、残り4kmで、複雑な道へと追い込まれた。ロータリーやカーブが連続し、しかもラスト3kmからは、微妙な上りと下りが繰り返しやってくる。これまで190km以上に渡ってコントロールに努めてきたクイックステップが、真価を発揮するときがやって来た。
「マッテオ(トレンティン)ならきっと勝ってくれるに違いない、という確信がチーム全体にあった。この確信があるからこそ、僕らも100%を尽くせる。彼なら絶対に僕らの仕事を勝利で締めくくってくれるはずだ、と心の底から信じた」(テルプストラ、フィニッシュ後インタビューより)
上り口でのマキシム・モンフォールの加速は、2014年パリ~ルーベ覇者ニキ・テルプストラがきっちり回収した。続いて上りで2、3選手が相次いで揺さぶりをかけるも、この春のジロで2年連続の新人賞を手にしたボブ・ユンゲルスがテンポを上げた。
残り1kmのアーチをくぐり抜けるまで、もはやユンゲルスは誰にも先頭を明け渡さなかった。ラスト900mでペイオ・ビルバオが猛ダッシュを仕掛けると、次はジュリアン・アラフィリップが動く番だった。第8ステージに生まれて初めての区間勝利を手にしたパンチャーは、あの日自分を逃げに滑り込ませてくれた恩人のために、得意の爆発力を遺憾なく発揮した。すぐさま先頭を取り戻すと、この日最後のロータリーまで、夢中で前を引いた。
あまりの急加速に集団後方はズタズタに切り裂かれたけれど、肝心のトレンティンは問題なく前線にとどまった。そしてチームメートが引き継いできたバトンを、残り350mで受け取ると、勾配2%の上り坂で力強くスプリントを切った。
「正直言うと、最終盤は、本当の意味では僕向きの地形ではなかったね。地図だともっと簡単そうに見えたけど、実際はすごく難しかった。でもチームのみんなが100%の仕事をしてくれた。だから僕は勝たなきゃならなかった。こんなチームに支えられたら、絶対に仕事を締めくくらなきゃならないんだ」(トレンティン、フィニッシュ後インタビューより)
後方で気の早いアラフィリップがガッツポーズを突き上げ、その直後に、トレンティンが両手を天に向かって悠々と広げた。今大会3勝目を懐に収め、ついに2017年クイックステップをジロ5勝(フェルナンド・ガビリア4勝、ユンゲルス1勝)、ツール5勝(マルセル・キッテル)、ブエルタ5勝(イヴ・ランパルト1勝、アラフィリップ1勝)の偉業達成に導いた。
「すごいことだよね。ブエルタには自信を持って乗り込んできたけれど、こんな素晴らしい結果が出せるなんて想像さえしていなかった。まだブエルタは終わってない。チームがこの先もっとすごい結果を出せるように頑張りたい」(トレンティン、フィニッシュ後インタビューより)
緑ジャージ用のフィニッシュポイントも25pt積み重ね、ポイント賞2位クリス・フルームとの差を19ptに開いた。ただし翌第14ステージから再び道は険しくなる。しかもツールと違い中間ポイントの位置も点数配分(最大4pt)も、スプリンターには決して優しくはない。緑を最後まで守るのは、どうやら難しそうだ。
むしろ虹色ジャージ争奪戦に向けて、素晴らしいアピールとなった。ブエルタ閉幕から2週間後に行われる世界選手権に向けて、イタリア代表のエースはジャンニ・モスコンが最有力か……とメディア内では噂されていた。おそらくトレンティンの好調さを目の当たりにして、代表監督は大いに頭を悩ませているに違いない。
そのモスコンは、スプリントで区間2位に滑り込だ。ここまでの2週間は堅実にマイヨ・ロホのアシストに徹し、この日もフィニッシュ直前までフルームを守りきった才能高き23歳は、最後に即興で飛び出した。もちろんフルームも、15人にまで小さくなった先頭集団で、スプリントに混ざることが出来た。
「モスコンが僕のために素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。もはや危険はないと判断した時に、『ステージを取りに行ってみろ』って声をかけた。もし僕のために力を尽くしていなかったら、彼が勝つチャンスもあったはずだ」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
マイヨ・ロホと同じように、ほとんどの総合トップ10選手たちも先頭集団で危険を回避した。皮肉にもクイックステップのダヴィド・デラクルズは分断にはまったせいで7秒を失い、総合順位を4位から5位へとひとつさげた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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