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ツールの悔しさも、ブエルタ序盤の鬱憤も、パンデラの山頂で綺麗さっぱり吹き飛ばっした。ラスト10kmの果敢なる独走の果てに、ラファル・マイカが自らにふさわしい山の勝利をつかみとった。ほんのすぐ背後では、総合争いの強豪たちが、ありとあらゆる攻撃を試みた。しかし劇的な変化は起こせなかった。むしろマイヨ・ロホが、個人としてもチームとしても優位にあることを、改めて印象づけただけだった。
道の果てにそびえ立つ難峠へと向かって、20km地点でひとつの塊が飛び出した。メイン集団ではいつも通りにチームスカイが制御権を握った。極めて節度あるリズムを保ち続け、逃げの10人には8分近いリードを許した。
まずは青玉ジャージのダヴィデ・ヴィッレッラ&2012年ブエルタ山岳賞サイモン・クラークというキャノンデール・ドラパック組が、積極的に動いた。ステージ中盤の3級峠(3pt)、さらには終盤の2級峠(5pt)で、ヴィッレッラが先頭通過を成功させる。ただし2級峠の麓で、先頭集団の主導権を握ったのは、やはり2人で滑り込んでいたボーラ・ハンスグローエだ。ツール・ド・フランスで2度の山岳賞に輝いているマイカのために、パトリック・コンラートが大いなる牽引を引き受けた。
理由は単に、集団を絞り込むためだけではなかった。もっと深刻な理由があった。というのもステージの折り返し地点を過ぎた直後から、後方が騒がしくなってきたのだ。バーレン・メリダ、トレック・セガフレード、アスタナプロチームの3チームがアシストを集団前方へ配置すると、猛烈なる加速を始めた。
そのうちチームカチューシャもスピードアップに加わり、クイックステップフロアーズも前方に競り上がった。総合上位チームほぼ総出の働きで、確実にタイム差は縮まっていった。フィニッシュまで30km、いまだ2つの峠を残しているというのに、逃げ集団にはもはや3分の余裕しか残されていなかった。
コンラートの加速で、2級峠の山頂にたどり着く頃には、10人の集団は一気に半減していた。最終超級峠の全長12kmの山道に差し掛かると、オーストリア産ヒルクライマーはスピードをさらに上げた。導入部の激坂で、一気にヴィレッラも弾き飛ばされた。
「2つの上りで先頭通過できたから、この状況に満足しているよ。すでにこのジャージを勝ち取ったことのあるクラークが、助けてくれた。最後の上りは、静かにマイペースで上りながら、どうやって山岳賞を勝ち取るか2人で話しあった」(ヴィレッラ、大会公式リリースより)
背後のプロトンでは、アスタナがさらにリズムを上げていた。コンラートも負けじと努力を続け、残り10.5kmまで死力を尽くした。マイカ、ルイ・コスタ、バルト・デクレルクの3選手が先頭に残された。メイン集団は1分半にまで近づいていた。
「ここで理解したんだ。自らアタックしなければならない、と。これ以上待っていたら、そのうち吸収されることは明らかだった。ひとりで走るのはすごく辛いことだけれど、他の2人が苦しんでいるのを見て、自分のリズムで行くべきだと考えた。ラスト10kmはまさにタイムトライアルだった」(マイカ、フィニッシュ後インタビューより)
山頂まで10km、マイカはひとり飛び出した。「ファンタスティックな仕事」を成し遂げてくれたコンラートのためにも、絶対に勝利を持ち帰りたかった。なにより7月から続いたフラストレーションを、どうにか断ち切りたかった。初めて総合上位入りを目指して乗り込んだツール・ド・フランスは、落車負傷のせいで途中リタイアを余儀なくされたし、リベンジを喫して乗り込んだブエルタは、開幕直後に胃腸の問題に悩まされ、4日目に早くも総合上位入りを断念する羽目となって……。
「調子はすこぶるよかった。後ろから総合集団が追い上げてきているのは分かっていたけれど、今日の僕の脚は、最高に絶好調だったからね」(マイカ、フィニッシュ後インタビューより)
ツールでは3度の山頂フィニッシュを勝ち取り、2015年にはブエルタ総合3位に入っているヒルクライマーの脚は、伊達ではなかった。本来は自らの総合ライバルとなるはずだった強者たちの追い上げを、きっちり振り切った。区間2位に27秒のリードを保ったまま、南スペインの伝統峠で、嬉しいブエルタ初区間勝利をもぎ取った。
「まだレースは長い。僕には脚もモチベーションもある。だからまた最終週に、もう1つ勝利を取りに行く。山岳賞も狙う!」(マイカ、フィニッシュ後インタビューより)
ついに青玉獲り宣言が飛び出した。第8ステージですでに10pt収集済みで、今区間で18ptを積み上げたマイカは、首位ヴィッレッラから21pt差の2位に浮上した。果たしてヴィッレッラのこつこつ収集作戦が功を奏するか、マイカの超級狙いが有利か。しばらくは山岳ポイントを巡る戦いが加熱することは間違いなさそうだ。
アスタナは最終峠でも高速牽引を続けた。なにしろ「ボス」アレクサンドル・ヴィノクロフにとっては、思い入れの強い上りだった。2006年大会でチームメートのアンドレイ・カシェチキンとワンツーフィニッシュを飾り、総合優勝をほぼ確実にしたのが、ここパンデラだったから。しかしマイカを捉えられなかった。残り6km、ライバルチームの奮闘を2列目眺めてきたスカイが、満を持して最前列を取り戻した。
マイカ同様にブエルタ総合争いから早い段階で脱落したロメン・バルデが、思い切ってアタックを試みた。マイヨ・ロホ護衛隊は大して気に求めずにリズムを刻んだが、ツール総合3位の攻撃が、この日のアタック合戦の引き金を引いた。
残り4km、バルデに続くように、エステバン・チャベスが前に出た。総合3位につけてはいたものの、タイムで見れば2分13秒も遅れているコロンビア人を、スカイは特に潰しには走らなかった。すぐさま3分13秒差のアルベルト・コンタドールが飛び出した。やはりクリス・フルームは動かない。59秒差のヴィンチェンツォ・ニーバリが続けて加速を切っても、やっぱりマイヨ・ロホはリズムを崩さなかった。
「ニーバリ、コンタドール、チャベスが飛び出していった時、僕らは上手くコントロールできたと思う。頂上までまだしばらく距離があったし、10分間の努力が待っていることは分かっていた。だから力を制御したんだ」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
ニーバリとコンタドールが2人でさらなる攻撃に転じた後も、忠実なる山岳アシスト、ワウテル・ポエルスの後輪でフルームはじっと我慢した。
現役でただ2人だけの全3大ツール総合優勝経験者は、山肌に吹き付ける強風の中で、必死に前進を続けた。とりわけ「全てを試みた」と断言するニーバリは、幾度となく加速を図った。しかし、試みは、あえなく打ち切られた。残り2.5km、フルームがライバルの回収を決意し、ペダルの高速回転に切り替えた。数百メートル走ったところで、2人の偉大なるチャンピオンにあっさり追いついた。
ミゲル・アンヘル・ロペスモレーノのカウンターアタックに乗って、もう1度、ニーバリとコンタドールは前進にトライした。前夜総合4位に浮上したウィルコ・ケルデルマンのアタックにも、コンタドールは張り付いた。しかし、もはや、フルームは昔なじみのライバルを逃そうとはしなかった。その隙に、ただロペスモレーノだけが先に行くことを許された。新人総合首位の証=赤ゼッケンをつけた23歳が出ていってしまうと、ポエルスがすかさず戻ってきて、全員に秩序あるテンポを強いた。
むしろラスト1kmのアーチの手前でフルームが急激にスピードアップし、その後も加速を畳み掛けたせいで、コンタドールが小さな分断にはまった。一方のニーバリはきっちり対応し、ロペスモレーノのフィニッシュ直後に3位で区間を終えた。ボーナスタイム4秒を手に入れた。フルーム、イルヌール・ザカリン、ケルデルマンはニーバリと同集団で1日を締めくくった一方で、コンタドールはほんの6秒ながら新たにタイムを失った。
「自分たちの走りに満足している。危険な1日だった。でも終わってみれば、いい1日になった。ニーバリから4秒失ったのは大した問題じゃない。むしろ明日のむずかしいステージに向けて、エネルギーを温存できたことに満足だ。明日のステージは短く、花火のようにアタックが巻き起こるだろうからね」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
フルームは12日連続のマイヨ・ロホ表彰式に臨み、総合2位ニーバリは55秒差につける。ケルデルマンは首位とのタイム差こそ変わらぬものの、生まれて初めての「総合表彰台圏内」に入った。ザカリンは2つ順位を上げて4位に、代わりに攻撃しながらも最後に崩れたチャベスが5位へと後退した。コンタドールはまたひとつ順位を上げ総合8位に、奮闘したロペスは10位で変わらなかった。ただ新人賞2位とのタイム差を2分28秒から5分08秒に開き、今大会の目標であった新人賞ーー残念ながらブエルタに新人賞ジャージはなく、白いジャージは複合賞のものーーへと向かって、さらに大きく前進した。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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