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サイクル ロードレース コラム 2017年9月4日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第15ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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前日の後悔を繰り返すまいと、早め早めに攻撃を仕掛けたミゲル・アンヘル・ロペスモレーノが、2つ目の山頂フィニッシュで栄光を味わった。実質「初めて」のグランツールを戦っている23歳は、一気に表彰台さえ射程圏内に入れた。アルベルト・コンタドールは自らの哲学を貫き通し、ヴィンチェンツォ・ニーバリも誇り高く攻撃に転じたが、チームスカイの堅固な守りを打ち崩すことはできなかった。クリス・フルームは赤いジャージ姿で2度目の休息日を、そして大会3週目を迎える。

短距離+難関山岳のコラボレーション、これぞ近年グランツールの開催委員会がこぞって好む手法である。例えば昨大会の第15ステージも118kmと短かった。コンタドールとナイロ・キンタナがスタート直後に飛び出して、ライバルのフルームから大量2分半を奪ったものだ。この日は130km弱のコースに難峠が3つ詰め込まれていた。3つ……と言っても最後の2つはほぼ連続していたから、つまり30km登りっぱなし。

スタート直後から、当然のように、めまぐるしいアタック合戦が巻き起こった。飛び出しては吸収し、カウンターを打っては引きずり降ろされ、バーレーン・メリダやトレック・セガフレードがトライしてはスカイも監視役を送り込み……、と寄せては返す波のように攻撃は繰り返された。前方へ向かって全力疾走する一団の中には、青玉ジャージや緑ジャージの姿もしばし見られた。

時速60km超の攻撃合戦が、ふと一瞬、凪の状態に入った。そこから、するり、とコフィディスタンデムが飛び出した。数選手が後を追った。スタートから38km、ようやく8人の逃げ集団が出来上がった。

苦労して逃げだしたはいいけれど、見返りはそれほど大きくはなかった。なにしろメイン集団からは、最大3分しか余裕は与えられなかった。前日も黙々と働きながら、あまりにタイム差を許しすぎて、ロペスモレーノを2位にしか送り込めなかったアスタナプロチームが、せっせと制御に努めたからだ。

ポイント賞首位のマッテオ・トレンティンは、たしかに45km地点の中間ポイントでは、望み通りに先頭通過を果たした。しかし先頭に与えられるポイントはたったの4ptで、最大25pt稼げるフィニッシュ地では大切な緑色のジャージを脱ぐはめになった。第12ステージの大逃げでは、後から飛び出してきたコンタドールを見事に補佐したエドワード・トインズも、この日はステージ半ばの1級峠があまりに厳しすぎたものだから、アシストする前に脱落していった。勾配20%を超える激坂ゾーンが点在する同峠で、先頭はサンダー・アルメただ1人となった。

この1級峠で、2つ目の逃げが生まれる。残り63km、アダム・イエーツとロメン・バルデが飛び出した。少し遅れてスティーヴン・クライスヴァイクも、追走へと乗り出した。

総合表彰台を目指してスペインに乗り込んできたものの、早い段階で望みを失ってしまった3人のグランツールライダーは、名誉回復=区間勝利のために難峠を大急ぎで駆け上がった。下りがちょっぴり苦手なアルメを、猛烈なダウンヒルで追い詰めると、2つ目の1級峠の登坂口で捕らえた。さらに「勾配がきつすぎたから、自分のテンポで上りたかった」と語る敢闘賞ベルギー人をその場に打ち捨てて、3人は先を急いだ。

しかし、プロトン屈指の強豪3人も、バルデ曰く「最強の男に窒息させられる」(フィニッシュ後TVインタビューより)ことになる。フィニッシュまで26.5km。前方3人との差は50秒。1級の上りで、メイン集団から、3つ目の逃げが誕生した。コンタドールが飛び出した。背中にはぴたりと、ロペスモレーノが張り付いていた。

「コンタドールと僕は、一緒に飛び出すことに決めた。でも不安もあった。長い上りだったから」(ロペスモレーノ、フィニッシュ後インタビューより)

後方の動きを察知してか、残り25kmで、アダム・イエーツは孤独な奮闘へと漕ぎ出した。クライスヴァイクとバルデは先頭からは脱落しつつ、それぞれにコンタドールとロペスと合流した。もしも、に備えてバルデは山岳ポイントを積極的に取りに行くことも忘れなかった。

コンタドールとロペスの飛び出しを、総合首位フルームはあっさり見送った。本人によれば「あれは本当に危険な瞬間だった」(フィニッシュ後インタビューより)そうだが、急いで潰すよりも、アシスト4人を使って絶妙なタイム差制御を続けるほうを選んだ。1級から続く最終超級峠に突入すると、メイン集団とアダム・イェーツとの差は2分半以上、コンタドール集団との差は1分半近くにまで広がった。……つまりコンタドールは、暫定総合3位へ浮上したことになる。それでもスカイ隊列は慌てず急がず、一定テンポを乱すことなく、先を続けた。

むしろ総合2位の座が危うくなってきたニーバリが、残り13kmで単独アタックを企てた。ここでもスカイは一切乱れなかった。ライバルのほんのすぐ後方で、淡々と集団を牽引した。3kmほど先であっさりニーバリをを回収した。

「本当にチームメートたちには感謝の言葉しかない。彼らの仕事はファンタスティックだった。決してパニックに陷ることなく、常にレースをコントロールし続けた。とてつもないプレッシャーの中で、全力を尽くしてくれた」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)

フルーム自らの加速で、大急ぎでライバルを潰しに走らなかったのには、理由があった。上りが極めて長く、フィニッシュまでいまだ先が長いこと。なによりラスト9kmから、2000mを超える標高との戦いが待っていたこと。

「こういった条件下では、チームメートの存在こそが、生死を分ける。今日、チームメートが最後まで僕の側にいてくれたことが、僕の成功の鍵となった」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)

まさしく標高が2000mを超えた頃から、タイム差は目に見えて縮まっていった。先頭で孤軍奮闘を続けるアダム・イェーツと、背後から追い上げるコンタドール、ロペス、バルデ、クライスヴァイクの差も。豪華4人組と、ミケル・ニエベが牽引するマイヨ・ロホ集団の差も。

アンデス山脈の高地で生まれ育ったヒルクライマーにとっては、標高2000m以上こそが狩場だった。フィニッシュまで6km。アダムを46秒差にまで追い詰めたところで、ロペスが加速を切った。コンタドール等々はまとめて一気に置き去りにした。2kmほど先でアダム・イエーツを楽々捕らえ、すぐに振り払った。自身2つ目の勝利に向かって、スーパーマンは飛び立った!


「最高の1日だ。チームメートは素晴らしい仕事をしてくれて、僕はその仕事を完成させるだけでよかった。最後の上りは長く辛かったけれど、先のことを考えず全力を尽くした。僕にとっては『初めて』のグランツールだから、成績のプレッシャーを感じず、1日1日を思いっきり走っているんだ」(ロペスモレーノ、フィニッシュ後インタビューより)

1年前のブエルタをわずか6日目で落車リタイアした23歳は、途中で2つの山頂フィニッシュをさらいつつ、人生で初めて2週間目まで無事に走り終えた。おかげでチームのアスタナは今大会3勝目を祝い、チーム総合首位の座も順調に守った。本人の希望である総合新人賞はもちろんぶっちぎりの首位をキープしているが、2つ目の山頂フィニッシュ勝利で、山岳賞にも8pt差へと、大またで近づいた。

生粋の山男の驚異的な飛翔の背後では、スカイのコントロールが最後まで続けられた。仕事を終えたニエベに代わって、ワウテル・ポエルスが驚異的な牽引を引き受けた。クライスヴァイクにコンタドール、バルデ、さらにはアダム・イエーツをきっちり回収してまわった。ラスト1.3kmでイルヌール・ザカリンがアタックに転じ、ウィルコ・ケルデルマンも飛び出したけれど、表彰台の3番目の争いなど好きにやらせておいた。

むしろフルームが「最も危険なライバル」と呼ぶ2人を、フィニッシュ直前で振り落とした。3kmほどの攻撃で少し疲れたニーバリからは6秒を、22kmも前方で逃げ続けたコンタドールからは40秒を新たに稼ぎとった。

山の上では赤、緑、白の3色ジャージを独占し、2度目の休息日を前に、……いや、むしろ「スペシャリスト」と呼べるほど得意の個人タイムトライアル40.2kmを前に、総合2位ニーバリとの差を1分1秒に広げることに成功した。最後のダッシュが功を奏して総合3位に浮上したザカリンは2分8秒差、4位ケルデルマンは2分11秒差、5位エステバン・チャベスは2分39秒差、そして10位から一気に6位にジャンプアップしたロペスモレーノが2分51秒差につける。

「これからはロペスモレーノも危険人物?うーん、たしかに彼は、山ではものすごく強い。3週目にはたくさんの山が待っている。でも、まずは、休息日明けの個人タイムトライアルの結果を見てから考えたい。とにかく総合争いはまだ終わってはいない。3週目も激しいバトルが繰り広げられるだろう」(フルーム、フィニッシュ後TVインタビューより)

またしても勇敢な走りを見せ、誰よりも大きな声援を受け、そして敗れたコンタドールは、総合9位・3分59秒差に追いやられた。休息日を終えたら、いよいよキャリア最後の6日間が待っている。

「危険な賭けだった。でも僕は、アタックすることに決めた。後悔はしていない。だってこれが僕の走り方だから。総合表彰台を狙うのは難しくなったけれど、最後の最後まで、自分の走り方を変えることなんてしない」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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