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3度目の正直で、サンダー・アルメが逃げ切り勝利を手に入れた。プロ入り8年目にしてつかみとった初めての勝利だった。前日は不調でタイムを失ったマイヨ・ロホのクリス・フルームは、この日はライバルたちの無数の攻撃を巧みに捌いた。総合2位以下とのリードを開くことさえ成功した。
伝説の大逃げの地が、舞台だった。2012年ブエルタ第17ステージ、前日まで28秒差の総合2位につけていたアルベルト・コンタドールが、50kmものロングアタックを企て、そして逆転総合首位に立った。2017年第18ステージの、ラスト50kmは、まさにあの日の道を走った。ただし大きく違ったのは、5年前は、この日よりもさらに20km上った先の「フエンテ・デ」にフィニッシュラインが引かれていたこと。
それでも、多くの選手たちが、インスピレーションを得た。猛スピードでアタック合戦に挑みかかった。激しいバトルは約60kmも続き、選ばれし20人が前方へと遠ざかっていった。
途端にメイン集団は大きく減速した。なにしろフエンテ・デを教訓とするならば、まずは逃げ集団にブリッジをかけられぬよう、手筈を整えるべきだったから。こうしてスカイ隊列が緩やかにリズムを刻み、前方に最大13分半ものリードを許した。
おかげで、のこぎりの歯のように並ぶ最終盤の4峠で、逃げ集団は思いっきり攻撃合戦を繰り広げることが出来た。上りでは山岳巧者が加速し、下りでは「非」山岳巧者がスピードを上げた。たとえば序盤2つの上りでは、アルメが猛烈なテンポを刻み、ライバルたちの体力を奪いにかかった。一方でマッテオ・トレンティンは、しっかり前線に食らいつくと、2つ目の山頂から猛ダッシュで下りへと突っ込んだ。
ちなみにトレンティンが急いだのは、下った先で、中間ポイントをさらいとるため。満点4ptを手にし、後にフィニッシュでも7位9ptを積み上げた。おかげでポイント賞2位に再浮上。翌第19ステージは首位フルームの代わりに緑ジャージで走る権利を得た。しかも3ステージを残して16pt差に被害を食いとどめているから、逆転首位の望みはいまだ消えてはいない。
3つ目のオス峠に入ると、「ノルマンディーのトラクター」ことアレクシー・グジャールがとてつもない馬力で、一気に逃げ集団を蹴散らした。英語風に言えば「アーミー」というひどく勇ましい名を持つアルメは、この時はぴたりと後輪に張り付き、むしろ体力温存に努めた。
一旦2人に絞り込まれた先頭集団は、下りでまたしても8人にまで膨れ上がる。これをアルメが、またしても、2人にまで絞り込んでいく。道が緩やかに上り始めた途端に、3度続けて加速を畳み掛けた。最後まで反応できたのは、この9月7日がまさに25歳の誕生日というアレクセイ・ルツェンコだった。たしかに、ジュリアン・アラフィリップも、すぐに追いかけてはきたけれど……。
「でもアラフィリップは後輪に張り付いているだけだった。足の調子が悪い、とか言って先頭交代に加わろうとはしなかった。でも、そんなの、本当かどうか分からないし、とにかく彼はスプリントに強い。だから絶対に引き離さなきゃならないと思ったんだ」(アルメ、フィニッシュ後インタビューより)
本当かどうかは分からない。前日にも逃げに乗ったアラフィリップ自身は、体がきつかった、とチームリリースで述べているけれど。とにかく、アルメは、危険人物をラスト4kmの加速で振り払った。まんまとルツェンコとの一騎打ちに持ち込んだ。
今大会すでに2回、山岳ステージで逃げを打っていた。第11ステージは、上りでは圧倒的な強さを見せながらも、雨の下りで脱落してしまった。第15ステージでは、後方から飛び出してきたコンタドール等々に抜き去られ、敢闘賞で満足するしかなかった。……でも、もはや、好走だけで終わりたくなかった。2度あることは3度ある、なんてことは絶対に避けたかった。
「絶対にスプリントはしたくなかった。これまで、長く待ちすぎて、後悔することが多かった。だから今日は駆け引きなどせず、早めに自分から仕掛けて、全力で突っ走ろうと決めていた。自ら攻めたら、もしまた負けても、きっと後悔しないはずだと思ったから」(アルメ、TVインタビューより)
ラスト850m、急勾配ゾーンに入った瞬間だった。ツール・ド・ロマンディで2年連続山岳賞を持ち帰った自慢の脚で、力強くダンシングを始めた。ラインまで加速を続ける覚悟は決めていた。100m先でルツェンコとの距離が少し離れた。残り500mで、「彼は落ちた、落ちたぞ!」というチームからの無線が聞こえてきた。ライン手前200mで勝利を確信したけれど、1秒でも早くラインにたどり着きたかった。だからギリギリ50m手前までダンシングを続けると、ようやく、勝利の感激を味わった。
「プロ初勝利だから、当然、僕にとって最も大きな勝利さ!最高だね。今日のようなフィニッシュ地形なら、逃げに乗れば、僕にも勝機があると分かっていた。そして今日、実際にレースを勝つ能力があることを、証明することが出来た。本当に幸せだ」(アルメ、フィニッシュ後インタビューより)
ロット・ソウダルが今大会3勝目を手にし、アスタナが4勝目を逃したはるか後方では、総合上位勢たちが、2つ目の上りでついに戦闘を開始した。イルヌール・ザカリンの表彰台乗りを企むチーム カチューシャ・アルペシンが、6人で隊列を組み上げると、そのまま全員で飛び出した。これが合図だった。
意表を突く攻撃に、スカイ隊列は一瞬動きかけるも、約2分半差の総合4位を「あえて」追わなかった。慌てて総合2位バーレーン・メリダが回収に向かった。妙な騒ぎに乗じて、数選手が前に走り出した。ファビオ・アルも加速し、弾かれたようにコンタドールも飛び出した。約3分半差の総合5位を、今度はスカイ自らが潰しにかかった。フエンテ・デの再現を食い止めるべく、グランツール総合7勝の大チャンピオンを引きずり落とした。ただアルだけが、魔の手を逃れて、先へと抜け出した。
「飛び出そうとは考えてなかった。でも数人が動きを見せて、やる気になった。アルの動きに反応したけれど、でも、彼が再度加速した時に、思ったんだ。2人で逃げてもどうにもならないだろう、って」(コンタドール、大会公式リリースより)
アルが選んだのは、フィニッシュまで約45kmにも渡る、孤独な闘争だった。憧れの選手はコンタドールで、師匠はパオロ・ティラロンゴーーフエンテ・デではチームの枠を超えてコンタドールをアシストし、彼もまた、今季限りで自転車を下りるーーというアルが、イタリアチャンピオンの誇りを示した。目標だったジロは怪我で出場できず、ツールはチームメイトたちが次々と負傷し孤軍奮闘を強いられ(5位)、今ブエルタでは後輩ミゲル・アンヘル・ロペスモレーノの影に隠れ、6分45秒遅れの9位に甘んじていた。だから少しでも何かを成し遂げようと、必死に努力を続けた。一時はマイヨ・ロホ集団に1分半ものリードを奪い、暫定7位にも上がった。
「残念ながら、最終的には大して秒数を稼げなかった。でも、今日の動きは、気持ちの上で非常に大切だった」(アル、チームリリースより)
3つ目の上りで、……つまり5年前に飛び出しを成功させた思い出の山で、改めてコンタドールがアタックに転じた。待ってましたとばかりに、ロペスモレーノも後輪に飛び乗った。5人いたアシストを3人に減らす勢いで、スカイは潰しにかかった。4日後にキャリアを終えるコンタドールは、執拗に攻撃を試みた。スカイのアシストが後方に下がっている隙に、急加速を切ってみたりもした。しかし、総合10位ダヴィデ・デラクルスの抜け出しは見逃しても、フルーム親衛隊は決して、コンタドールの先行を許さなかった。
「他の選手たちの調子を見たいと思ったんだ。特に昨日フルームはタイムを大きく失っていたから、彼の脚を試したかった。捕らえられた後は、静かに最終盤を待った。もしかしたらそれ以外のライバルから、数秒を稼げるかもしれないと考えた」(コンタドール、フィニッシュ後インタビューより)
残り27kmでコンタドールが何度目かの加速を終えると、一旦集団には秩序が戻った。スカイが適度なリズムを刻み、ラスト2kmまでは、アルの1分15秒後方を静かに走っていた。
またしてもコンタドールが、戦いに火をつけた。ハリンソン・パンタノに引かれて、一気にスピードを上げた。今度はスカイも、ただ守備的に走るだけではなかった。ジャンニ・モスコンが爆発的な加速を切り、ワウテル・ポエルスもまるでスプリント発射台のようにもがいた。そしてクリス・フルームを前方へと送り出した。前日の不調がまるで嘘のように、いつもの高速ペダル回転が炸裂した。
「ライバルたちが次々とアタックを仕掛けたあとだったから、最後の上りで、チームメートたちにこう告げたんだ。『よし、リズムを上げて、なにが起こるか見てみようじゃないか!』って」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
マイヨ・ロホの突然の猛攻に、しっかりとついていけたのは、ただコンタドールとマイケル・ウッズだけだった。その他のライバルたちは後方に滑り落ちていき、前方のアルはどんどん追い詰められていった。孤独な戦いのたった12秒後に、フルーム、コンタドール、ウッズの3人組が仲良くラインに滑り込んだ。その4秒後には総合3位ウィルコ・ケルデルマン&4位ザカリンが区間を締めくくった。つまり5位コンタドールは表彰台のライバルからそれぞれ4秒を詰めた。総合2位ニーバリが山頂にたどり着いたのはトリオの21秒後だった。前夜フルームが失ったのが42秒だから、半分を取り戻したことになる。
「ニーバリに対するリードを開けたのは、非常に大切なこと。特に昨日、難しい1日を過ごした後だけに、本当に気分を楽にしてくれた。それに21秒は決して小さくない数字だ。土曜日に向けて、僕には、どんな小さな秒差でも必要だから」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
まだブエルタは終わりじゃない。総合争いの誰もが同じセリフを口にする。たとえフルームとニーバリのタイム差が1分37秒に開いても、土曜日には、恐ろしいアングリルの激坂が待っている。人生最後の表彰台まで1分17秒に迫ったコンタドールにとっても、まだ戦いは終わってはいない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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