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開幕3日目に果たせなかった望みを、閉幕3日前に叶えた。プロトン屈指の大逃げスペシャリスト、トーマス・デヘントが、3つのグランツール全てで区間を制した「史上101人目の男」となった。3つのグランツール全てで総合優勝を果たした「史上5人目の男」アルベルト・コンタドールはまたしても派手な花火をぶち上げ、クリス・フルームは「史上3人目のツール&ブエルタ同年総合優勝」の偉業にまた一歩近づいた。
「今日が最後のチャンスだった。これを逃したら、また来年まで待たなきゃならないことは分かっていた」(デヘント、フィニッシュ後インタビューより)
そう、アングリル登坂を翌日に、さらにはマドリード到着を翌々日に控えて、大逃げ勝利を志す者たちにとっては文字通り最後の機会だった。ブエルタを手ぶらで去りたくない者たちは、3週間の疲れを跳ね飛ばし、スタート直後から勇ましく飛び出していった。すぐに19選手がひとつのグループを作り上げた。さらには、どうしても諦め切れない8人が、追走に乗り出した。50kmにも渡る追いかけっこを経て、ついに27人の大きなエスケープ集団が出来上がった。
いつもと同じように、メイン集団の前線にはスカイ隊列がしっかりと陣取った。いつも以上に、テンポを落とし、逃げ集団にはなんと最大18分ものリードを与えた!
「明日のために出来る限りエネルギーを保っておきたかったし、問題なく今日を終えたかったから」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
問題となりそうなのは、前方集団に滑り込んだトレック・セガフレード2選手とバーレン・メリダ1選手の存在だった。つまり総合5位コンタドールと2位ヴィンチェンツォ・ニーバリが、アシストとの合流を図って、飛び出していく危険があった。だから物理的にも合流が不可能なほどの距離を開き、問題を排除する必要があった。
赤いジャージにしか興味のないフルームにとって、ダヴィデ・ヴィッレッラとマッテオ・トレンティンの存在など問題ではなかった。
おかげで大会3日目から青玉ジャージをまとい続けてきたヴィッレッラは、全部で4つ待ち構えていた峠のうち、序盤2つで楽々と先頭通過を成功させた(13pt収集)。山岳賞2位以下との差を20ptに開き、なんとかあと1日を耐え切るだけとなった。アングリルにたどり着く第20ステージでは、最大で35pt収集可能だから、数字の上ではミゲル・アンヘル・ロペスモレーノとホセ・ホアキン・ロハスが逆転首位の可能性を有している。
また2日連続で緑ジャージ用ポイント収集に勤しんだトレンティンは、中間首位4pt、フィニッシュ14位2ptの合計6ptを新たに積み上げた。首位フルームとの差は10pt。いまだマドリードで逆転首位の望みを捨ててはいない。
約27分遅れの総合17位ニコラス・ロッシュの存在さえ、マイヨ・ロホには問題とはならなかった。むしろモヴィスターが2人滑り込んでいたことが、アスタナを恐れさせた。チーム総合首位に立つカザフスタンチームと、3位スペインチームの差は30分35秒。
同ランキングは各区間上位3人のタイム合計で争われるから、つまり18分✕2=36分をやすやすと与えてしまうわけにはいかない。こうしてラスト50kmに入ると、アスタナがメイン集団の牽引に乗り出した。
幸いにも、前方集団には、もはや吸収される心配はなかった。少しくらいアスタナが加速しようが、区間勝利の争いには一切影響はなかった。だからフィニッシュまでいまだ70kmを残しながら、3つ目の上りで、早くも集団は割れ始めた。下りではロメン・バルデとロッシュが、強烈に揺さぶりをかけた。谷間の平地では、デヘントが集団を引きちぎりにかかった。さらに残り35㎞地点から、イバン・ガルシアは大胆にも独走を仕掛けた。
「故郷へと向かうステージで、いい走りが見せたかった。家族や友達がみんな応援に駆けつけていてくれたからね。興奮に背中を押されて、僕は飛び立った」(ガルシア、フィニッシュ後TVインタビューより)
まさしくフィニッシュ地のヒホンで生まれ育ったガルシアは、最後の峠には、1分差をつけて飛び込んだ。ブエルタ開幕以来、3週間もスペイン人優勝を待ち続けてきた観客たちは、地元アストゥリアスっ子の果敢なる独走に熱狂した。今大会で3番目に若い21歳は、フィニッシュ手前15kmにそびえる3級山頂も、ひとり先頭で駆け抜けた。
「下りはよく知っていたから、自分のカードを切れると思った」そうだが、上り最終盤で追走に乗り出したバルデに、下り序盤で追いつかれた。「2人の勝負ならまだ勝てるぞ」とネオプロは考え直すも、残り9kmでルイ・コスタとロッシュも合流してきた。ツール総合3位、元世界チャンピオン、ブエルタ区間2勝の強豪3人を相手にしても、「4人なら僕は速いからイケる」と決して自信を失わなかった。しかしラスト3kmでさらに5人が追いついてきて……。
最後に前集団をとらえた5人の中に、デヘントの姿もあった。ベルギーの大逃げ王もまた、大いに自信があった。2012年ジロではステルヴィオ山頂フィニッシュを独走で勝ち取り、2016年ツールではモン・ヴァントゥを一騎打ちを制した30歳は、実はスプリントに持ち込むよう画策していたという。
「追いつけると確信していた。だってバルデが飛び出してからは、せいぜい15秒くらいしか離されなかったから。予想通り穴は埋められた。スプリントも心配していなかった。脚の調子は良かったし、自分のトップスピードにも自信があったから。あとは絶対に誰も飛び出させぬよう、ひたすら警戒するだけだった。それにチームはすでに今大会区間3勝していたし、僕も人生でたくさんの素敵なレースを勝ち取ってきたからね。まだ勝ってないチーム、まだ勝ちを知らない選手とは違って、プレッシャーもなかったよ」(デヘント、フィニッシュ後インタビューより)
ラスト2kmでロッシュがアタックし、やはり地元生まれのダニエル・ナバーロが追いかけた時は、ぴたりと後輪に張り付いた。2人に散々力を使わせておいて、自らは一切の先頭交代を拒否した。目論見通りに800mで集団は再びまとまった。9人が団子状態のままで、フィニッシュラインへと雪崩込んだ。ロッシュがロングスプリントに挑み、ガルシアが早めに仕掛け、そして自信通りにデヘントが見事なスプリントの脚を披露した。グッ、と小さなガッツポーズを握り、ついにジロ、ツールに続きブエルタでも待望の区間勝利を手に入れた。
「本当はブエルタでも山頂フィニッシュを勝てたら最高だったけど……明日のアングリルで勝つには、僕はちょっと太り過ぎてる(笑)。でも、今日の勝利のおかげで、僕は晴れやかな気分でキャリアを退くことができそうだよ」(デヘント、フィニッシュ後TVインタビューより)
実際に3日後にキャリアを退くコンタドールは、いまだに、さらなる高みを追い求めていた。アスタナの必死の牽引により、メイン集団の遅れがようやく14分に縮まった頃だった。静かに4つ目の上りに差し掛かったプロトンの中から、突如として、攻撃に転じた。ピーター・ステティナの猛烈な加速に導かれて、大チャンピオンは飽くなき戦いへと打って出た!
「最後まで逃げ切るのは難しいと分かっていた。でもチームメートが2人前にいたから、2人のうち1人は、僕に手を貸すために待ってくれているかもしれないと思った」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)
ハリンソン・パンタノはすでに区間争いに向けて全力で奮闘していたけれど(最終的に区間2位)、エドワード・トインズはたしかに待っていた。第12ステージでも前方待機し、下りと平地で牽引を行い、チームのエースが総合首位との差を42秒縮めるのに一役買ったベルギー人が、この日も素晴らしい献身を尽くした。スカイがすぐには追走を仕掛けなかったおかげで、メイン集団には一時1分ものリードをつけた。
しかし総合で1分17秒しか離れていない3位ウィルコ・ケルデルマンが、ただ指をくわえて見ているはずもなかった。数少ないアシストを総動員して、集団のスピードを上げた。
「後ろのリアクションは予想通りだよ。風も強かったし、しかも向かい風だった。だから吸収されるのは時間の問題だって分かってた」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)
フィニッシュ手前2.5km、コンタドールの挑戦は無情にも打ち切られた。最後はスカイのアシスト5人が手堅くコントロールする中で、総合上位勢は揃ってフィニッシュラインを越えた。
大会最後の金曜日、実に最終週に入って初めて、総合トップ10に一切の変動はなかった。つまり総合首位フルームと2位ヴィンチェンツォ・ニーバリの差は1分37秒のまま。総合3位ケルデルマンと4位イルヌール・ザカリンの差は12秒で、総合5位コンタドールの表彰台までの距離は1分17秒残っている。
「今日が無事に終わって満足しているし、おかげで明日に向けて集中することが出来る。アングリルは過酷な試練となるだろう。短く爆発的なステージだから、スタートと同時に花火が打ち上げられるはずだ」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)
気になる天気予報は、コンタドールの望み通り……雨。2002年のアングリルも雨だった。最大23.5%の激坂を、川のように、雨水が流れたものだ。ただでさえ厳しい魔の山で、2017年ブエルタ最後の、文字通り「死闘」が繰り広げられる。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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