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最終日に似つかわしくないほどほど、ひどく緊迫したスプリントで、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャの幕は閉じた。マッテオ・トレンティンが先頭で両手を天に突き上げ、その背後ではマイヨ・ロホが必死にフィニッシュラインへ向かってペダルを回した。イタリア人は区間4勝目をさらいとり、赤、白と並んで緑のポイント賞ジャージもクリス・フルームが持ち帰った。秋の匂いが漂い始めたマドリードで、アルベルト・コンタドールは、人生最後のレースを走り終えた。
フランスのニームから走り出したブエルタ一行が、スペインの首都へとたどり着いた。前夜のアングリルの山頂で総合争いはすべて終了していた。生まれて初めてのブエルタ制覇を成し遂げたクリス・フルームは、誇らしげにマイヨ・ロホをまとい、最後のステージをのんびりと楽しんだ。3週間に渡って働きづくしだった8人のアシストたちも、いつもの水色の代わりに赤いラインを入れたジャージに着替えて、この日ばかりはビールかけではしゃぐことを許された。
3週間前には198人だったプロトンは、過酷な山越えや熾烈な戦いを繰り返すうちに、158人にまで小さくなっていた。ただの1人も欠けることなく完走を果たしたチームは、スカイ以外に、カハルラル・セグロスエレヘアー、マンサナ・ポストボン、そしてキャノンデール・ドラパックプロサイクリングチームだけ。ちなみにスペイン一周中に存続の危機に襲われたアメリカチームだったが、嬉しいことに、前日に正式なスポンサーが発表された。ダヴィデ・ヴィレッラの山岳賞もすでに確定し、心からの笑顔で最終日を過ごすことが出来た。
背番号「1」をつけて、澄み渡る青い空の下、故郷への帰還を満喫したのはアルベルト・コンタドールだった。24時間前まではライバルだったフルームから、粋なプレゼントも贈られた。グランツール最終日の、最終周回コースに先頭で入場するのは、総合覇者を擁するチームと相場は決まっている。しかしトレック・セガフレードのアシストたちの直談判に、スカイのエースは快く首を縦に振った。コンタドールはひとり前方へと走り出ると、首都に詰めかけたファンたちに、ゆっくりとサヨナラの挨拶をすることができた。
「ご褒美のような1日だった。チームのみんなとマドリードにたどり着くことができたし、沿道のファンたちからたくさんの愛情を受け取った。なんだか夢みたいな気分だ。いつかキャリアの終わりが来ることは分かっていたけれど、こんなに幸せな終わりが迎えられるとは、想像さえしていなかった。この美しい思い出を、このブエルタのことを、いつまでも忘れないだろう」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)
英雄の引退ランの背後では、マイヨ・ロホチームの9人が横一列に並び、全部で9回フィニッシュラインを越えるうちの1回目を先頭で越えた。……と同時に、スカイから、数選手が全速力で飛び出した!
びっくりしたのがクイックステップフロアーズだ。なにしろトレンティンが26pt差を逆転し、緑ジャージを奪還するための大前提は、「首位フルームに中間ポイントを取られないこと」だったから。慌ててベルギーチームは事態の収拾に走った。それでも繰り返し突撃を繰り返す総合首位チームに、トレンティンは思い切って聞いてみたらしい。
「もしかして、緑ジャージを守りに行くつもり?って尋ねたら、『守るよ!』って答えが返ってきた。彼は総合優勝だけじゃ満足せず、スプリントさえ勝ちに行ったのさ。僕は山でフルームの邪魔をしたことないのに(笑)」(トレンティン、フィニッシュ後TVインタビューより)
クイックステップは正々堂々と挑戦を受け入れた。3回目のライン通過時に設定された中間スプリントは、トレンティンを先頭で通過させつつ、フルームの上位3位通過をきっちり阻んだ(4位)。その直後にニコラス・シュルツ、アレッサンドロ・デマルキ、ルイ・コスタが大会最後の逃げに走り出ると、集団前方で厳しい集団制御を行った。予想外に早くからスピードが上がったせいで、後方では多くの選手が次々とプロトンから振り落とされていった。
最後の1周を示す鐘が鳴り響く中、フィニッシュまで5.6kmで、逃げはすべて吸収された。そこからはバーレーン・メリダやキャノンデール、さらにはトレック・セガフレードやアージェードゥゼール・ラ・モンディアルが集団前方に競り上がったが、クイックステップボーイズの頑丈なスプリント列車が決して脱線することはなかった。
T字型の周回コースの最後のU字カーブを抜けても、クイックステップのエースにはいまだ2人の発射台がついていた。ラスト1kmのアーチを抜けた直後に、マイヨ・ロホが集団前方に必死で駆け上がってくる姿が見えたけれど……、とにかくトレンティンには勝利以外の選択肢はないのだ。ラスト400mのロータリーを抜けた直後に、勢い良く飛び出した。
「こんな美しい街で、美しい勝利を上げることが出来たなんて。すごく嬉しい。チームのみんなに感謝してるよ。このブエルタには世界選手権の調整を兼ねて乗り込んできたんだけど、とてつもない成績を残すことが出来た。おかげで体はボロボロだけど、優勝で締めくくれたおかげで、気持ちは上向きさ。それに4勝も上げたおかげで、勝負の瞬間に、すごく静かな精神で臨めるようになった」(トレンティン、フィニッシュ後TVインタビューより)
第2ステージではイヴ・ランパルトの区間&マイヨ・ロホ獲りをお膳立てし、第8ステージではジュリアン・アラフィリップを勝利につながる逃げ集団へと導き、自らは第4、10、13、21ステージと4つの区間勝利ーーうち1つは1級山岳を越えてからの大逃げ勝利だったーーを手にする八面六臂の大活躍ながらも、トレンティンには2pt足りなかった。緑色のジャージを奪い返すことは出来なかった。フルームが区間11位に滑り込んだせいでもあり、ブエルタ特有の妙なポイントシステムのせいでもある(中間ポイント配分が極端に少ない+平地も山岳もフィニッシュポイントは同じ)。
「今日は人生でおそらく唯一、僕がグランツールでポイント賞を狙いにいけるチャンスだった。だから全力を尽くしたし、ポイントも稼ぐことが出来た……」(フルーム、大会公式リリースより)
念願のポイント賞ジャージを手に入れ、なにより愛息ケラン君のために「クレメント」のぬいぐるみを持ち帰ったフルームは、夕暮れ前の薄赤い空気に染まったマドリードで、ついに赤いジャージを授与された。
2011年に初めてスペイン一周に挑み、初めて総合2位の表彰台に上がってから、頂点獲りには実に6年もの年月を要した。ツール・ド・フランスではすでに4度の総合優勝を飾っているフルームにとっては、フランス「以外」で手に入れれた初めてのグランツールの栄光だった。また史上3人目のツールとブエルタの同一年制覇を成し遂げた快挙を讃えられ、開催委員会の粋なはからいで、ダブルツールの盾を贈られた。
「去年ツールを勝った後に、ブエルタで総合2位に入った。これでダブルツールが可能だと悟ったし、大いにやる気を掻き立てられた。今年はいつもとは違うシーズン計画を立てた。シーズン序盤はレースをほとんど走らなかった。ツールに乗り込んだ時は肉体的には元気だったけれど、脚には十分な実践を積んでいない状態だった。でも、おかげで、ブエルタの3週間を力強く乗り切ることができたんだ。すごいことだよ。自分がこんな肩書を得る日を夢見てきた。歴史を書き換える選手、ブエルタを初めて勝ち取った英国人、史上初めてツール後にブエルタを勝ち取った選手……」(フルーム、第20ステージ後記者会見より)
フルームの両脇では、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(総合2位)とイルヌール・ザカリン(3位)が長い戦いの終わりを共に称え合った。チーム総合首位はアスタナが守り抜いた。初めて3週間を走りきったミゲル・アンヘル・ロペスモレーノが新人賞に輝き、アダム・ハンセンは19回大会連続でグランツールを走りきった。そしてコンタドールが、3週間支えてくれたチームメートと共にスーパー敢闘賞の表彰台に上がった。
「キャリアのどんな段階であれ、この賞をもらえたら純粋に嬉しいさ。でも今の僕にとって、この賞は、特別な意味を持つ。だってファンたちが僕に与えてくれた賞だ。これこそ僕がキャリアを通して行ってきた、あらゆる努力に対するご褒美だよね。素晴らしい時も、そうでない時もあった。だけど、今はただ、こう思う。自分は幸運な男だった、と」(コンタドール、第20ステージ記者会見より)
実はツール前に、すでに今季限りの引退をチーム側に告げていたという34歳に、もはや心残りはなかった。前夜に人生最後のステージ優勝を手に入れた。この日はフィニッシュ後に、最後にもう1度だけ、スペイン国旗と共にパレードランをする特権を与えられた。チームメートたちからは「あと1年~」なんて歌声も聞こえてきたけれど、グランツール7勝の偉大なるチャンピオンは、泣き笑いしながら「それは不可能だよ」と答えた。「チームが僕を心から理解し、僕を100%支援してくれる。そんな満たされた幸せな気分の今こそ、キャリアを終えるべきだと思った」と開幕前に語った決意は変わらなかった。コンタドールは「幸運な男」として、15年過ごした戦いの場からから立ち去っていく。
「僕は選手として常に全力を尽くしてきた。これからは育成チームのために、スペイン自転車界の未来のために、全力を尽くす」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)
エル・ピストレロは拳銃を永遠にしまい込み、フルームは来夏のツール5勝倶楽部入り目指して再び走り出す(その前に、黄色いジャージの再お披露目に、さいたまクリテリウムにやってくる!)。2017年のグランツールは大団円で幕を閉じ、1月に幕を開けた自転車シーズンも、落ち葉の季節を迎える。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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