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【ジロ・デ・イタリア:レビュー(第10~15ステージ)】サイモン・イェーツが圧巻のステージ3勝目!総合2位トム・デュムランの差は、2分11秒
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか大会2度目の休息日を、サイモン・イェーツは38秒リードで過ごした。激しかった2018年ジロ・デ・イタリア2週目が終わる頃には、総合2位トム・デュムランの差は、2分11秒にまで広がっていた。
週明けは決して簡単ではなかった。大会最長244kmの第10ステージでエステバン・チャベスが罠にはまった。スタート直後から上り始めた2級峠で、あっさり遅れ始めてしまったのだ。総合2位の異変をライバルたちは見逃さなかった。あらゆる総合系チームが共闘体制を組み、猛烈なスピードで千切りにかかった。もちろんチャベスは距離を埋めようと必死の奮闘を続け、やはり後方に取り残されたエリア・ヴィヴィアーニとクイックステップも追走に大いに手を貸したが……150kmもの努力の果てに全てを諦めた。そこからようやく飛び出しを許されたマテイ・モホリッチが、ステージ勝利をさらいとった。
チャベスの脱落で、ミッチェルトン・スコットのダブルリーダー制は崩壊した。突然たった1人で責任ある立場を担うこととなったイェーツは、翌日、早くもエースとしての大きな器を見せつける。第11ステージ最終盤に待ち受ける「壁」を利用し、ライバルをまとめて蹴散らしたのだ。マリア・ローザ姿で区間2勝目を仕留めると共に、ステージ2位デュムランとの総合タイム差を47秒へと開いた。
しかし本音を言うなら「もっとタイムを稼ぎたかった」。なにしろ第16ステージには個人タイムトライアルが待ち受ける。同種目の現役世界チャンピオンから、タイムを大幅に損失することは間違いない。「デュムランに対して最低でも2分はリードが欲しい」とフィニッシュ後に語ったイェーツは、この後も決して守りには入らなかった。
たとえスプリンター向けステージだろうが、ジロではいつだって何かが起こる。第12ステージ終盤、激しい通り雨が集団を分断すると、とんでもないカオスがプロトンを覆い包んだ。特に区間2勝のエリア・ヴィヴィアーニが大きく脱落してしまったものだから、スプリンターチームの制御力が効かなくなった。イモラ・サーキットの小さな裏山ではめくるめくアタック合戦が勃発し、濡れた下りではハラハラするような高速チェイスが繰り広げられた。ただし最後に勝利を決めたのは、スプリンターのサム・ベネットだった。ぎりぎりまで逃げ続けた2選手を、ラスト350mからの強烈な加速一発で抜き去った。
第7ステージでそのベネットにライン間際で抜き去られ、今週に入ってから2度も失態を晒したヴィヴィアーニは、翌第13ステージでリベンジを成功させた。メディアやファンからの批判に3つ目の勝利で応えると共に、マリア・チクラミーノ争いのリードを改めて広げた。
クリス・フルームもまた苦しんできた。そもそも昨年末から薬物問題の渦中にある。自転車内外からはレース活動続行を連日のように批判されてきた。さらにはジロ開幕当日の落車以来、すっかり調子を落としていた。第14ステージの朝、総合の遅れはすでに3分20秒。ツール→ブエルタ→ジロのグランツール3大会連続総合優勝を狙うどころか、表彰台さえも危うい状況だ。しかしフルームもまた、大きな勝利で、自らの強さを再証明する。
ヨーロッパ屈指の難峠モンテ・ゾンコランの、山頂まで残り約4.5kmで、フルームはアタックに転じた。3度目の加速で全てを振り払い、独走へと持ち込んだ。それでも平均勾配10%を超える恐ろしき坂道では、劇的な差をつけることなど不可能だった。振り返ればすぐそこに敵が見える。そんな緊迫感みなぎる状態は延々と続いた。
しかもラスト3kmで、サイモン・イェーツが単身追走を始めたものだから、ますますスリリングさは増した。常に10秒前後でギリギリの均衡が保たれた。残り1.5kmのほんの少し勾配が緩むゾーンで、マリア・ローザがペダルを強く踏み込むと、距離はさらに縮まった。
それでもフルームが、山頂へと先頭で飛び込んだ。ツール総合4勝の大チャンピオンは両手を無心で天に投げ出し、生まれて初めてジロ・デ・イタリアのシャンパンシャワーを楽しんだ。英国王室ヘンリー王子の結婚式の当日に、英国の先輩から6秒後にフィニッシュラインを越えたイェーツは、もちろんこの日もピンク色の紙吹雪を全身に浴びた。なにより総合2位デュムランとのタイム差を1分24秒まで拡大した。「明日もまたチャンスがあれば、デュムランを揺さぶる」と宣言するのも忘れなかった。
まさに有言実行。翌第16ステージのイェーツは、もはや誰にも有無を言わせぬほどの、凄まじい強さを見せた。
ドロミティ山地の、しかし「中程度の山」ばかりが使用されたステージは、幕開けからひどくクレイジーだった。延々70kmものアタック合戦が巻き起こった。しかし大量24人の逃げ集団はあっという間に解体された。すでに5分半近く総合で遅れていたファビオ・アルが完全に総合前線から脱落し……、前夜ゾンコランを制したフルームさえも、最終盤の2級峠からのダウンヒルで千切れた。
ラスト20km、そのフルームを除く総合上位6人が、最前線で顔を突き合わせた。マリア・ローザのサイモン・イェーツ、総合2位トム・デュムラン、3位ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、4位ティボ・ピノー、6位ミゲルアンヘル・ロペス、7位リチャル・カラパス。これほど豪華な総合候補たちを、またしてもイェーツがあっさり一蹴する。なにしろイェーツにはのんびり競り合っている暇などなかった。少しでもタイムを稼ぐために……大急ぎで先へと飛び出していった。フィニッシュまでいまだ17kmも残っていた。
残された5人は、マリア・ローザのアタックに反応できなかったどころか、協力しあうことすらしなかった。なにしろポッツォヴィーヴォとピノーは、表彰台の3番目をわずか9秒差で争っている。ロペスとカラパスは新人賞争いに忙しかった。イェーツから最もタイムを失いたくないデュムランには、もはや高速で牽引し続けるだけの十分な体力が残っていなかった。それどころか幾度も脱落したほどに疲弊していた。
まるでスピードの上がらない後続を尻目に、イェーツはフィニッシュラインまで全力で走り続けた。ライバル集団に41秒差をつけ、3つ目のステージ勝利をつかみ取った。つまり区間3位に滑り込んだデュムランとの差は、2分11秒に開いた。第11ステージ後に語っていた「デュムランに対して最低でも2分はリードが欲しい」の目標を、大会3回目の休息日前夜に見事に達成した。
この2分11秒は、第16ステージの全長34.2kmの個人タイムトライアルで、間違いなく変動するだろう。ただ果たしてサイモン・イェーツが総合首位の座を守りきるのか、それとも個人TT世界王者トム・デュムランが第1ステージ以来のマリア・ローザを身にまとうのかは、終わってみるまで誰にも分からない。また総合首位からはすでに4分52秒遅れているクリス・フルームの、表彰台までの差は2分24秒。やはりTT巧者のフルームがどこまでタイムを戻してくるか。
たとえタイムトライアルの結果がどうあろうとも、イェーツや他のクライマーたちにはタイムを取り戻すチャンスがある。最終週には西アルプスが舞台の、山頂フィニッシュ3連戦が待ち受ける。ローマ到着の前夜まで、ジロ・デ・イタリアのマリア・ローザの行方は分からないのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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