人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
【ジロ・デ・イタリア:レビュー(第4~9ステージ)】サイモン・イェーツが生まれて初めてピンク色のジャージを身にまとった!昨大会王者のトム・デュムランは総合3位で前半9日間終了
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかシチリア島の3日間はスリリングだった。序盤2日間は魅惑的な起伏に彩られ、まさしくパンチャーやクラシックハンター向き。第4ステージをティム・ウェレンスが、第5ステージをエンリコ・バッタリンが、坂道スプリントで勝ち取った。
このアップダウンコースはまた、総合候補や有力チームの現時点での調子さえも、浮き彫りにした。開幕タイムトライアルの試走中に落車した2人、クリス・フルームとミゲルアンヘル・ロペスは、4日目の最終坂で分断にはまった。翌日ロペスは再び落車。集団復帰できぬまま大きくタイムを失ってしまう。一方でミッチェルトン・スコットは、凄まじいチーム力を垣間見せた。2日間ともに最終盤を積極的に攻め立てると、トリッキーな道で集団を翻弄した。たしかに大きな成果には結びつかなかった。第4ステージでサイモン・イェーツが区間4位に入り、小さな分断を利用して総合ライバルたちから軒並み4秒以上をせしめたに過ぎない。しかし、これはまさしく、兆候だった。
大会2日目から総合首位に立ってきたローハン・デニスにとって、マリア・ローザに別れを告げる日がやってきた。シチリア3日目には、今大会初の山頂フィニッシュが用意されていた。しかもヨーロッパ最大の活火山エトナを、大会史上初めて、「最も厳しい」と謳われる西側から攻める。
その山場にたどり着くはるか前に、ミッチェルトン・スコットは見事な一手を打った。スタートから1時間ほども続いた飛び出し合戦の果てに、ようやく出来上がった28人の大きな集団に、まんまと2選手を送り出したのだ。しかもエース格のエステバン・チャベス本人が、どさくさに紛れて滑り込んだ!
エトナ山頂まで5km、勾配の厳しいゾーンを利用して、先頭のチャベスはついに独走を始める。後方ではちょうど同じ頃、今大会初の、大物たちによる直接対決が勃発していた。数キロに渡って力の誇示は続けられた。ところが残り2kmにさしかかったところで、ほんの一瞬だけ、動きが止まる。こうしてライバルたちが互いの出方をじっと探り合う姿を、背後から、サイモン・イェーツは冷静に観察した。それから虚を突くように、飛び出した。
飛び出しながら後ろを入念に確認するのも忘れなかった。誰1人として前に連れて行くつもりはなかったはずだ。そしてライバルたちが追ってこれないと知るや、猛スピードで先を行くチームメートのもとへと駆けつけた。もちろん1日中逃げ続けたチャベスに、区間勝利の栄光は快く譲った。代わりにイェーツ本人は、人生初めてのマリア・ローザをつかみ取った。
開幕前に優勝大本命に挙げられていたフルームとは別の「もう1人の英国人」が、大多数のライバルをペダルで26秒突き放した翌日は、アイルランド人サム・ベネットが待望のステージ初制覇を成し遂げた。イスラエルの平地2区間で圧倒的な強さを示したエリア・ヴィヴィアーニは、ライン手前で減速。それでもポイント賞マリア・チクラミーノ争いでは変わらず首位を突き進む。
ジロは今年もサディスティックなほどに過酷だ。この週はスプリンターにチャンスをわずか1日与えただけで、週末には再びプロトンを山へと投げ入れた。しかも第8、第9ステージは2日連続山頂フィニッシュであるのに加えて、2日連続で200kmを超える長距離ステージだった。
そのせいか2連戦の初日は、誰もが用心深くレースを運んだ。ステージ終盤に大粒の雨が降り出すと、ますます慎重になった。冷えた体で無駄に体力を消耗してしまわぬよう、濡れた路面に車輪を取られて落車してしまわぬよう……。そんな計算など、24歳の若者には似つかわしくなかった。新人賞マリア・ビアンカを着込むリチャル・カラパスは、残り2kmで力強く飛び出した。エトナ火山で有力勢たちと共にトップ集団で1日を終え、周囲を驚愕させた「無名の」エクアドル選手は、そのままエクアドルに史上初めてのグランツール区間勝利をもたらした。
現役ツール覇者のフルームだって、極めて注意しながら走っていたはずだ。ところが最終峠モンテヴェルジネの名物「18のつづら折り」の、まさにカーブのひとつをこなしている最中に、地面に滑り落ちてしまう。しかもエルサレムで痛めた右半身を、再びアスファルトに打ち付けた。ただ幸いだったのは、残り数百メートルまで、主要ライバルが動きを見せなかったこと。おかげでフルームは、この第8ステージに関しては、問題なく区間を走りきることができた。
しかし第9ステージは勝手が違った。ステージ距離は前日よりさらに長い225km。なによりグラン・サッソの「2つで1つ」の最終峠は、実質45kmに渡って登りが続く。1999年にマルコ・パンターニが制した山は、しかも最後の数キロで勾配が一気に跳ね上がり、最終的に標高は2035mに達する。
数々の難条件が揃う上に、ミッチェルトン・スコットが刻む早いテンポも加わった。恐るべきマラソンステージの終わりに、セレクションは、まずは後方からじわじわと進んでいった。残り3kmではファビオ・アルが千切れた。前日は最後まで耐えきったフルームも、この日は山頂まであと2kmというところで、たまらず後方へと脱落していった。
前方へと抜け出す争いは、残り1.5km、ティボ・ピノのアタックを皮切りに始まった。ポッツォヴィーヴォも意欲的に突進した。第6ステージのエトナでも積極的に攻め続けた2人は、この日は、他の大部分のライバルからわずかながら距離を開くことには成功した。しかし前夜の区間覇者カルパスと、なによりミッチェルトン・スコットの2人とを、どうしても引き剥がすことはできなかった。それどころか山頂スプリントでは、マリア・ローザに先行されてしまった!
3日前に生まれて初めてピンク色のジャージを身にまとったサイモン・イェーツがーー通常ならば順番が逆ではあるがーー、生まれて初めてのジロ区間勝利も手に入れた。当然ながらボーナスタイム10秒も収集し、文字通りあらゆる総合ライバルからタイム差を奪い取った。同タイム区間3位に入ったチャベスは、12秒遅れて山頂へたどり着いたトム・デュムランを逆転し、総合2位(32秒差)へと浮上。すなわちミッチェルトン・スコットの2人が、大会2回目の休息日前夜、総合争いの上位2位を独占してしまったことになる。
ディフェンディングチャンピオンのデュムランは、いわゆる可もなく不可もなく……総合3位38秒遅れで前半9日間を終えた。攻撃続けたピノとポッツォヴィーヴォは、総合ではそれぞれ45秒差と57秒差。さらには脅威のカラパスが6位1分20秒遅れと続く。フルームは第9ステージだけで1分07秒を失い、総合の遅れは2分27秒にまで開いた。同じく2度落車したロペスは、第9ステージは12秒遅れと好調で終え、どうやら復調しつつある。しかし総合の遅れは2分34秒と大きい。またアルは総合2分36秒遅れという大きなハンデを背負って、新たな週へと走り出す。
第10ステージから始まる6日間の、序盤2日間は、ようやく逃げスペシャリストたちにも活躍の場が与えられる。ちなみに大会初の逃げ切り勝利は、第6ステージのチャベスである。スプリンターたちも平等に、2日間の機会がもたらされる。もしも山越えに不安を抱いているなら、ここで絶対に勝たねばならない。なにしろ週末のドロミテ2連戦は、とてつもなく恐ろしい。第9ステージに築き上げられた総合ヒエラルキーなんぞ、土曜日のゾンコランで……登坂距離約10km、平均勾配約12%、最大勾配22%という自転車界屈指の激坂で、一気にひっくり返るかもしれないほどに。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!