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【ジロ・デ・イタリア:レビュー(第1~3ステージ)】昨大会覇者デュムランか?それとも歴史的偉業に挑むクリス・フルームか?「第3の男」たちからも目が離せない
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかイスラエルの3日間を最も成功させたのは、もちろん区間2勝のエリア・ヴィヴィアーニと、全ての総合ライバルたちからタイムを奪うことに成功したトム・デュムランに違いない。昨季までのフラストレーションを綺麗さっぱり解消したイタリア人スプリンターは、念願のマリア・チクラミーノで母国イタリアへと乗り込む。初日に羽織ったマリア・ローザは惜しげもなく手放したが、直接的ライバルからタイムは1秒たりとも失うつもりはない、とディフェンディングチャンピオンは強く誓う。
史上初めてヨーロッパを飛び出したジロ・デ・イタリアが、エルサレムで開幕を祝った。事前に最も関心を集めたのが、昨大会覇者デュムランと、ツール・ド・フランス総合4勝にして、なにより2017年ツール→2017年ブエルタ→2018年ジロという「グランツール3大会連続総合優勝」という歴史的偉業に挑むクリス・フルームとの、初めての直接対決だろう。もちろん2人は過去幾度も同じレースを走り、特に世界選手権や夏季五輪の個人タイムトライアルではしのぎを削ってきた。しかしグランツールの総合リーダージャージを引っ張り合うのは、正真正銘、この第101回ジロが初めてだ。
その第1ラウンドは、第1ステージとなるはずだった。ところが個人タイムトライアルのコース試走中にフルームが転倒。「実際のレーススピード、つまり時速20kmから30kmで」右コーナーに突入する、まさにその最中に地面に滑り落ちた。膝を打ち付け、右半身を大きく擦りむいた。たしかに開幕前の公式記者会見で「タイムトライアルだけに頼って今大会を勝ち取ろうとは考えていない」と語っていたフルームだが、思わぬハンデを背負ってしまった。
結局は最終走者のデュムランが、アルカンシェル=世界チャンピオンにふさわしい走りを披露し、全てを凌駕した。エルサレムの市街地コースを最速で駆け抜け、早くもマリア・ローザを身にまとった。対するフルームは本来の走りが出せず、わずか9.7kmの行程で、37秒もの遅れを喫した。
もちろん他の強豪たちも、両者だけに話題を独占させておくつもりはないはずだ。総合表彰台、さらには総合優勝の座さえも虎視眈々と狙う「第3の男」たちの間では、サイモン・イエーツが首位から20秒遅れで最上位につけた。さらにドメニコ・ポッツォヴィーボが27秒差、ティボ・ピノが33秒差、エステバン・チャベスが46秒差、ファビオ・アルが50秒差、そしてフルームと同じく試走中に落車したミゲルアンヘル・ロペスが57秒差と続く。
デュムランがフィニッシュラインを越えた瞬間に、小さく肩を落としたのが、ローハン・デニスだった。なにしろ42番という極めて早い出走順で、暫定トップタイムを記録した後、およそ2時間15分も表彰台裏のホットシートに座っていたのだ。しかし、たったの1秒35及ばず、長い長い待ち時間をふいにしてしまった。
ただし全力疾走の努力を、水の泡にするつもりはなかった。ピンクを着たデュムランが「何がなんでもジャージを守ろうとは考えていない」と公言したのも好都合だった。「可能性はそれほど多くはないかもしれない」とも考えたが、デニスはチャレンジした。あと1年も待つつもりはなかった。
平坦で平凡なスプリンター向けステージは、おかげでひどく活気づいた。グランツール最初のエスケープというのは、たいていスタートフラッグが振り下ろされた瞬間に出来上がるもの。ところが第2ステージは、BMCが慎重に逃げメンバーを吟味したせいで、しばらく時間を要した。ようやく逃げ出した3人の「唯一の目標」さえも、BMCは無情に握りつぶした。突如として猛烈な追走を始めると、大会初の山岳ポイント直前で、先頭集団を10秒差にまで追い詰めたのだ。おかげでプロトン内から元気よく飛び出したエンリコ・バルビンが、大会最初の山岳ジャージを横取りし、逃げの3人は手ぶらのまま吸収された。
逃げを飲み込んでも、BMC隊列の威力は衰えなかった。ハイスピードの行軍は、第2中間ポイントまで続いた。ポイントが欲しいヴィヴィアーニも、一応はスプリントの構えを見せたが、発射台の後輪から飛び出したデニスがまんまと先頭通過に成功する。目論見通りにボーナスタイム3秒を手に入れると、1秒リードで総合首位の座を射止めた。2015年ツール、2017年ブエルタでそれぞれ1日ずつリーダージャージを経験してきたデニスが、この日のステージ後には、3大ツール全リーダージャージコレクションを完成させた。
ステージを締めくくるスプリントは、本職のヴィヴィアーニがきっちり勝ちを手にした。スカイで過ごした3年間は、思い通りのスプリントが切れなかった。グランツールの総合争いに総力を注ぐ英国チームでは、十分な列車要員を持つことも、好きなグランツールに出ることも許されなかった。だからこそリオ五輪オムニアム金メダリストは新天地を求め、そして正しい選択を下した。3年ぶり2度目のジロ区間勝利を手に入れたヴィヴィアーニは、今季加入したクイックステップを「スプリントに関しては世界最高のチーム」と讃えた。さらには「今までの僕と今の僕との違いは、チームの違いが全て」とも語る。
伝統のシクラメン色のジャージをまとい、大会3日目もヴィヴィアーニが制した。229kmの長距離ステージは、第2ステージとは対象的に、ほとんど動きが見られなかった。0km地点で飛び出した3選手は、フィニッシュ手前6kmまで泳がされた。その最終6kmから始まるロータリー9連発を、またしてもクイックステップが見事なまでに攻略した。
しかもヴィヴィアーニには、気持ちの余裕があった。第2ステージは重いプレッシャーを感じ、第3ステージ序盤は逆に重圧から開放された反動で調子が上がらなかったそうだが、ラスト350mの最終コーナーの場面では、横入りしてきたライバルたちに「ちょっとスペースを与えて、彼らが果たしてどう動くつもりなのか」を観察する冷静さがあった。目の前を行くサム・ベネットの斜行にも、堂々たる対応を見せた。イスラエルで区間2勝目を上げ、ヴィヴィアーニは意気揚々と母国イタリアへと飛び立った。
ただし休息日を明けると、それほどスプリントの機会はない。火曜日から始まるシチリア島巡り3日間は、起伏にあふれている。特に第6ステージではエトナ火山で大会初の山頂フィニッシュを迎える。さらには週末には、イタリア半島を縦に貫くアッペンニーノ山脈を舞台に、山岳2連戦が繰り広げられる。「できるだけ長くマリア・ローザを守りたい」と誓うデニスは、果たして、わずかなタイム差をどこまで死守できるだろうか。開幕TTでデュムランに差をつけられたヒルクライマーたちが、おそらく、あらゆる手を使ってタイム差を埋めにかかってくるはずだ。なにより強固なチームに守られたフルームが、本格的な反撃機会を待っている。2018年ジロの本格的な戦いは、これから始まるのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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