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第72回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ) レビュー | 連覇を狙った筑波大学を退けて東海大が優勝
バスケットボールレポート by 片岡秀一第72回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)
第72回全日本大学バスケットボール選手権大会の男子の部は、優勝候補であり第1シードの東海大学と、連覇を狙う第3シードの筑波大学とが決勝戦の舞台で対戦した。序盤、両チームの堅いDFで得点が伸びない時間が続く中、MVPとアシスト王を獲得した大倉颯太を起点に東海大学が得点を積み上げ、また、チーム全員の守備が光り、リードを拡げて勝利を掴んだ。
大会を通じて印象に残ったのは、東海大学の遂行能力と対応力だ。どのチームからもマークされる立場にあって、対戦チームDFの陣形を冷静に見極め、的確な判断を積み重ねたからこそ、相手チームに優位に立てたと感じた。東海大学は、高校時代の実績や、下級生時からの活躍から「タレント軍団」と称される事も多い。しかし、身体能力や、屈強なフィジカルコンタクトよりも、バスケットボールの理解や判断力において相手よりも卓越していたチームであったというのが筆者の意見である。また、それは生まれ持った才能ではなく、日々の練習や、試合の中で培われた賜物なのだろう。トーナメントに参加したチームの中で、思考の量と質とが最も優れていたからこそ、優勝という栄冠を勝ち取ったのではないだろうか。
決勝戦でも、ピック&ロールに対してスイッチを駆使して守ろうとする筑波大学に対し、状況に応じて冷静に攻め手を見極めて得点をした場面が目立った。ある時は、大倉颯太や河村勇輝が筑波大学の井上宗一郎に対して果敢に攻め込む。井上は、筑波大のインサイドを支え、かつ、アウトサイドのDFでも意欲を見せ、素晴らしいパフォーマンスとポテンシャルを感じさせたが、決勝戦では両者が上手だった。ある時は、筑波大学のアウトサイド選手にマークされた八村阿蓮に対し、的確なパス回しからインサイドで的確に加点をした。また、筑波大学のDFの連係ミスを的確に突いた場面も見逃せない。第3ピリオド、西田優大が見せたゴール下へのレイアップは一瞬のスキを見逃さない見事な得点であった。
また、準決勝、及び決勝戦でも、ゾーンディフェンスを仕掛けて困惑させようとする相手チームの術中には嵌らず、冷静に、戦況を捉え、的確なプレーを続けた姿が印象的だ。勿論、東海大学の代名詞でもあるDFの強度や連携の素晴らしさは健在であった事は言うまでもない。オフェンス同様、DFでも高い判断力が光り、持ち前の激しいボールプレッシャーと重なり、相手チームのチャンスを限りなく少なくし続けた。
準優勝に輝いた筑波大学は、専修大学戦、大東文化戦と延長戦にもつれ込む熱戦を見事に制し、2年連続で決勝戦の舞台へ辿り着いた。雌雄を決する場面での得点力が光った山口颯斗は、トーナメント全体でも得点王を獲得し、敢闘賞に輝いた。コートを駆け、相手ゴールへと迫る姿は躍動感に溢れ、何度もチームを奮い立たせ、幾度となくチームを救った。怪我で準決勝、決勝戦と戦列を離れた菅原暉と共に最上級としてチームを牽引した。
下級生の主力選手も多いチームだけに、今大会での接戦を勝ち抜いた経験は来季以降のチームを突き動かす貴重な糧になったと推察できる。決勝戦の舞台に辿り着いた喜び、相手チームの歓喜の瞬間を眼前にした悔しさ。本人たちにしか分からない経験を胸に、東海大学の牙城を崩しに挑む筑波大学に注目したい。
3位入賞を果たしたのは白鴎大学だ。決勝進出まであと一歩まで迫った大東文化大学に競り勝ち、2016年以来の入賞を成し遂げる。フルコートでのマンツーマンDFや、運動量の多いゾーンDFが特徴で、激しいボールプレッシャーや鋭い予測で相手チームを幾度となく苦しめた。オフェンスでも、選手の特性を上手く生かした多彩なオフェンスで相手チームを翻弄。また、オフェンス、ディフェンス共に、学生らしい躍動感に溢れながらも、相手の意図を見抜き、出し抜くような老獪さも光った。
さて、今大会は東海大学が前年度の悔しさを乗り越え見事な優勝を成し遂げた大会として多くのファンの印象に残るであろう。「強い東海大学を取り戻す」と新チーム発足と同時に宣言し、チームを牽引した津屋一球の素晴らしいリーダーシップは語り継がれるべき物語だ。事実、既に多くの媒体でも報じられている。
広く全国的に報道されるのは上位チームに限られるかもしれない。しかし、誰にとっても未曽有の事態の中、今シーズンを戦い抜いた各チームの軌跡は、それぞれのチームの中で語り継がれ、未来への礎になるのではないか。
今シーズンは、各チームで競技活動への制限が余儀なくされた。チームで集まり、コート上で練習をする時間、または練習試合等で日頃の鍛錬の成果を発揮する場、公式戦で披露する時間は圧倒的に少なかった。例年よりも多いのは、各選手が、悩みや不安の中でも前を向き、一人で積み重ねた自主練習と、オンラインを使ったコミュニケーション量だけかもしれない。
それでも、今大会では、下位回戦より数多くの素晴らしい試合が披露された。対外試合が再開されるのかどうかの見通しも立たない中、バスケットボールとの関わり方、チームの在り方について考え、着実な準備を重ねた各チームの選手、コーチ、チームスタッフの奮闘があったからだ。
大会前、一般社団法人全日本大学バスケットボール連盟のサイトには、東海大学で学生コーチを務める半杭隆治氏のエピソードが掲載された。そこには、中学校時代の東海大学バスケ部の戦いに魅了され、憧れの気持ちと共に過ごした瑞々しい記憶と現在の取り組みへの想いと決意が綴られている。
大会を終え筆者は、今大会も、不安の中でバスケットボールに励む多くの若い選手に勇気を与えた大会となったはずだという想いを強くした。
それぞれの立場や役割で奮闘した各チームの方々に拍手を送ると共に、来シーズンのさらなる発展を、そして、卒業する選手にとっては各々の次のステージでの活躍を祈りたい。
文:片岡秀一
片岡秀一
埼玉県草加市出身。1982年生まれ。 ゴールドスタンダード・ラボの編集員としてクリニックレポート、記事の企画・編集や、クリニックなどの企画運営をし、EURO Basketball Academy運営も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。
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