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昨季、ウルフドッグス名古屋で主将を務めた高梨健太
「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」が閉幕して早1ヵ月、すでに各チームは新シーズンの体制を発表し、きたる戦いへ準備を進めている。
そこでは移籍した選手たちの姿もあり、男子の日本製鉄堺ブレイザーズでは、ウルフドッグス名古屋から加入した高梨健太がバレーボール教室でさっそく、新天地でのユニフォーム姿を披露した。
WD名古屋での在籍は6シーズン。入団2季目から本格的にレギュラーに定着すると、エースとして攻守の要を務め、2022-23シーズンにはリーグ優勝に貢献した高梨。そのチームの一員として臨む最後の活動は、5月9日にホームタウンの一宮市で行われたシーズン報告会だった。ファンを前に挨拶し終わった高梨は、素直な胸の内をこう明かした。
円陣を組むWD名古屋
「本当にこれが最後なんだ、と実感しました。というのも、セミファイナルで負けたときから『もうこのチームでできないのか』という思いで過ごしていて…」
そのおよそ2週間前、チームはチャンピオンシップのセミファイナルでサントリーサンバーズ大阪に敗れて、2024-25シーズンを終えている。その瞬間、高梨は別れを惜しんでいた。
「試合に負けたんですけど、次の週からまたみんなで練習して、ミーティングするのかな…そう思えるくらい、今シーズンはとても濃かったと感じます。みんないい選手で素晴らしい指導者でしたから。終わりたくない気持ちでいっぱいでしたね」
WD名古屋で過ごした期間を振り返ってもらうと「リーグ優勝もそうですし、(2021-22シーズンに)自分がベスト6になれたことが一番の思い出です」と高梨。
けれども「それに匹敵するぐらい、今シーズンはとても価値がありました」とも言う。自身にとって『濃くて』『価値があった』2024-25シーズン、それは思いもしてなかった苦悩と向き合い続けた戦いでもあった。
今シーズンはキャプテンをやってほしい――。チームから打診があったのは、リーグ戦開幕を1ヵ月後に控えた9月中旬だ。高梨なりに熟考し、月末には引き受ける旨の返答をした。このチームで勝ちたい、このチームを勝たせたい。そのためにも重責を担うことにした。
そうしてリーグ戦を迎えたわけだが、いざ開幕するとシーズン序盤はスタメンで起用されたものの、やがてベンチに控える時間帯が続いた。とどのつまり、パフォーマンスが上がらないのである。
「プレシーズンマッチからそんな感触は持っていたのですが、『開幕したら違ってくるだろう』と思っていた部分は正直ありました。思えば、それがダメだったのかも…わからないですけれど」
シーズン序盤は苦しんだ高梨健太
東京グレートベアーズとの開幕戦ではフル出場を果たしたが、翌日のGAME2では第1セット限りでベンチに退いた。アタック決定率12.5%(8本中)、サーブレシーブ成功率20%(5本中)。確かに数字の上では決して満足はいくまい。それ以上に、低パフォーマンスに終わった現実が高梨に迷いを生んだ。
「自分にミスもあったけれど、『今のは周りがこうだったから』とか。『今のミスに対して、本当はこうアプローチしたいけれど、それは自分のスタイルじゃないな』みたいな言い訳を自分にしていたんです」。
「そこからミスした時にも、自分のパフォーマンスの見直し方が分からなくなってしまって。そうするうちに(水町)泰杜や、(山崎)彰都、ティネ(・ウルナウト)も調子がよくなってきて、それじゃ出られないよね、と思いました」
さらにはキャプテンという役目が、プレーの不調に輪をかけた。「自分の調子が悪くても、キャプテンである以上は態度に出してはいけない」
そう心するとはいえ、どうしても「なぜ自分が試合に出られないんだ」という思いが上回る。すると、高梨は心の中でふと口にしてしまうのだ。「キャプテンを自分から『やる』とは言ってないし」と。
「めちゃくちゃ葛藤していましたね。もし自分から『やりたい』と言っていたら、また違ったかもしれません。ですが、そのときは『なんで俺、キャプテンになったんだろう』がまず1つ」。
「そのうえで『それでもキャプテンだから、たとえ試合に出られなくても、みんなを鼓舞したり、いろんなことをやらなければ』と次に改めるんです。でも、やっぱり『自分がスタートから試合に出て、パフォーマンスを発揮したい』という願望が湧いてくる。大きく3つの感情が自分の中でぐるぐると巡っていました」
キャプテンとしてプレーを続けた高梨健太
そんな思いを告白したのは昨年12月上旬だ。ホームに東京GBを迎えた第8節、高梨は4試合ぶりのフル出場を果たすと2桁得点をマーク。チームもフルセット勝ちを収めた。「たまたま自分は調子がよかっただけです」と謙遜するも、それは偽らざる本音だろう。
「どうやったら抜けられるか、正直分からなくなっていましたから。たまたま今日はよかったので、これが続くように、自分の中で正解を探していきたいです。かなり悩んだので…もういいでしょう(笑)と言いたいぐらいです」
高梨自身はその実績とは裏腹に、決して自信家ではない。失敗やうまくいかなかったことを引きずってしまうタイプだ。それはある種、高梨に宿る弱さと言え、そこではヴァレリオ・バルドヴィン監督からも「ミスを気にするんじゃない」「どんどんミスして、そのぶん改善していこう」といったアドバイスを受けながら自分を奮い立たせてきた。
ただ、この2024-25シーズンに向き合った、己の弱さへのハマり具合は本人が振り返るに「小学生以来のこと」だった。
「バレーボールを始めたとき…それぐらいまでさかのぼりましたからね。『元々、俺はスタメンで出るような選手じゃないもんな』なんて。小学6年生から始めて、そのときはチームも7人しかいなかったので自分も出るしかなかったんです」
「でも、中学に進んで1、2年生のときは試合に出られなかった。チーム(金井中学校/山形)は東北大会や全国大会に行くようなレベルでもなかったですし、自分は中心選手でもありませんでしたから。『それが本来の俺なんだ』って」
こんなはずじゃない。自身の置かれた立場への失望や苛立ち、1人のアスリートとして当然とも言えるエゴ…様々な葛藤を抱えつつも、高梨は「やってやるぞ」と自身を鼓舞し続けた。
ただ、そんななかでもブレなかったことがある。自分のプレーが奮わずベンチに下がったとしても、チームの勝利を願う気持ちだけは決して揺るがなかった。
「自分がコートからいなくなったことに対して、焦りはなかったです。ダメだったから下がっただけのこと。そこは仲間を信じていましたから。自分とは異なる持ち味のメンバーがいて、それがその場面では求められたということでしたから」
チーム自体は大型連勝も含めて、レギュラーラウンドでは上位をキープし続けた。そこに関して高梨は、「チームが勝つぶんにはいいんです」と微笑みつつ、「だけど、やっぱり自分が出て勝ちたい思いは心の奥底にありますからね」と抵抗してみせた。
最終的に、苦悩が晴れたかどうかは本人にしか分かりえないだろう。けれども、チャンピオンシップのクォーターファイナルで負傷離脱した水町に代わって気を吐く姿、そしてセミファイナルのGAME3でリリーフサーバーとして叩き出したサービスエース。闘志をみなぎらせて好プレーを繰り出す姿は、あれほどまでに悩み続けた高梨が報われているかのように映った。
「終わりたくない」と思えるほどのWD名古屋でのラストシーズンを終えた今、高梨はこう話した。
「キャプテンだからといって何かをやらなければと思うことはないんだ、って。それはいざ、やってみて分かったことです。やる前は『色々話したり、行動で示したりしなきゃ』と考えていました」
「もちろん、みんなを動かすためにはどうすればいいかは常に考えていましたが、本当に大事なのは、チームのみんながどのような共通認識を持って、どのように動くか。そっちのほうが大事なのだと今シーズン、キャプテンをやって学びましたね」
そう語って、浮かべる表情に思う。キャプテンであろうとなかろうと、そして自身がどうであろうと、高梨はチームを勝たせる一心で戦っていた。その気持ちが強かったぶん、苦しみも比例していたのだと。
さて、次にWD名古屋の前に姿を現す時は、対戦相手として、である。最後に聞いてみた。どんな気持ちでプレーしていると想像しますか?
来季は新天地でプレーする高梨健太
「どんな気持ちだろう…。でも、やっぱり勝ちたいので!!WD名古屋にだけは(笑)。なので、戦う時は勝ちにいきますよ」
きたる2025-26シーズン。WD名古屋にとっては手強い相手が、日鉄堺BZのコートに立っている。
文:坂口功将/写真:WOLFDOGS NAGOYA
坂口 功将
スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。
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