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スキー コラム 2019年3月29日

世界選手権の憂鬱とW杯個人総合優勝

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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ひとりの新鋭コーチ

「やあ、久しぶり」
ジャンプ台のサッツ下付近で、すれ違いざま、にこりと笑顔で語りかけられた。
てっきりオーストリアチームのセカンドコーチだと思っていた彼はトップコーチで、傍らに大柄な元選手リーデルをアシストコーチとして従えていた。
クラフトが札幌W杯で勝利を挙げてさらに連勝しようとしていたとき、大倉山のステップ上部で声をかけたことがあった。
「クラフトは立体的なシルエットにしたね、なんでだろう?」
「そうだね、ジャンプに改良はつきものだよ」
「以前はスキーと並行に寝させていたのにさ」
「キミは目がいいね」
と褒められたのかどうかはわからないが、ウインクをひとつ返してくれた。

これで、すべて明白になった。

小林陵侑(土屋ホーム)の空中シルエットはもはやすべて分析されて、4連勝で完全優勝したジャンプ週間直後に、そのもの器用なクラフトのボディにすべて伝授されていた。
名門オーストリアチーム恐るべしだ。

いやはや、まずいことになった。

金メダルを期待されたクラフト

金メダルを期待されたクラフト

地元のゼーフェルド世界選手権で金メダル3つ独占かクラフトは、と思いきや。
だが、心優しいクラフトは、強力なまでの地元の重圧に漫然と包み込まれてはらはらと失速していった。
見るからに独特な雰囲気にあふれた世界選手権において、しかも普段から飛び慣れているインスブルックの台であり、金メダルは楽勝だよとの予想があったのだが…。
そして、いつもなら緊張すらしない小林でさえ、落ち着きがなくなり、やや挙動不審に陥り、おや、これではまずいぞ、であった。

そうこうしているうちに、素早く小林の脳波トレーニングの情報を入手していたメンタルトレーニングの先鋭ドイツチームは、すぐさまメンタルコーチを呼び寄せた。
充分にその効果を理解している名将シュスターコーチが、ぴったりと世界選手権に標準を合わせてきたのだから、脱帽だった。
前半戦でベリンガーを外し、勢いあるアイゼンビヒラーを主軸にメダルラッシュとなったドイツの背景にはこれがあった。
惜しまれるのは、脳波トレーニングを施しているとの国内メディアへのお披露目が早すぎたことだ。
世界選手権で勝つという一大目標の下であれば、戦略的なものとしてせめて3月頭の世界選手権終了直後まで、そのお披露目を待つことはできなかったであろうか。
栄えあるメダルを確実にしてから、実はこれがあってという塩梅でまったく問題なかった。なにも、早ければよいというものではない。
その頃あれこれと攻めあぐんでいたドイツに塩を送った格好になったのは言うにおよばず。それは、あのシュミットやハンナバルドの時代に女性メンタルセラピストによるメンタルトレーナーの導入とその帯同において、輝かしい実績を打ち立てた強豪ドイツチームならではの繊細かつ迅速な対応であった。さらにそれはドーピングに抵触しそうなものはあくまで避けての、主に、対話によるメンタルコントロールの成功であった。
世界選手権の団体戦に完勝したシュスターコーチの、してやったりの、にやりとした表情はいまだに忘れられない。

俊敏なジャンプを見せた佐藤幸椰

俊敏なジャンプを見せた佐藤幸椰

とはいえ我が日本チームは、小林潤志郎(雪印メグミルク)と佐藤幸椰(雪印メグミルク)による大和魂、意地の一発により3位銅メダルを獲得した。
そこで持ち前のコーチング手腕が発揮された宮平秀治ヘッドコーチだ。
いつも1本目が終わるとコーチボックスの近くの木陰で、たばこを一服して様々なストレスを取り除きさらに2本目に向けて精神統一させてからチームキャビンに返る姿があった。
もちろんそこでは、あれこれ聞いたりはしないで、状況としてほんの少し、たわいない立ち話をするのが私自身、試合中のささやかな楽しみであったりもした。

初年度のシーズンながら、若手選手たちとのコミュニケーションを上手にとり、チーム全体をうまく束ねていく宮平ヘッドの手腕が光っていた。
しかも戦々恐々としたコーチボックスでは、他国コーチからの強烈な重圧をはねのけ、逆に、その返す刀であの堪能なドイツ語で、あたり一面に圧力をかけ続けた絶妙な采配によって、小林の連勝を生み出したのは言うまでもない。

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