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この2月19日からスキー保養地のゼーフェルド(オーストリア)で開催される世界選手権では、地元の人気選手で先の札幌W杯で連勝を遂げたシュテファン・クラフト(オ―ストリア)との強烈な金メダル争いになってきた。
超アウエイといえるLHインスブルックのベルグイーゼルシャンツェで、きっちりとジャンプをまとめて、しかも考えられる様々な困難辛苦をものともせずに、表彰台の中央に昇りたい。そして、それを阻止しようと、オーストリアチームは万全の囲い込み体勢で、日本のエース小林に重圧をかけてくる。
その前には、カミカゼカサイ葛西紀明が得意とするフライングがある。
見るからに荘厳なオーベルスドルフ(ドイツ)のフライングヒルで、あやしいまでに乱れた風をものともせずに果敢に飛ばしてくる、しかも飛びっきりの笑顔で。だから欧州のジャンプファンはたまらない。これがリアル・レジェンドの由縁だ。
「世界選手権のメンバーから外れてしまったのは悔しいですが、たまには若手にチャンスをやろうと。そんな心境です。また、めずらしくその時期は日本にいることになるので、そうですね、娘とのんびりしますよ」
悔しいに違いないが、そこは動揺すらみせず、落ち着き払って皆に応えていた葛西だ。
その後には、いつものように静かに並んで待っているファンの前に進み、ひとりひとりと対話し、にこやかに写真に入り、サインをして握手などを繰り返した。
こんなシーンをインタビューのかたわら、横目でそっと眺めていた小林陵侑だ。
そこで『やってやる、頑張り抜く!』その想いをいっそうあらたにした。
勝負とは時の運や風の強弱もあろう。
それらにまどわされることなく、最後の最後には、心の中に浮かぶ葛西選手の笑顔、これが良き励みになってくる。けっして他言はしないが静かなるまま小林の目がそう語っていた。
地元札幌に帰国してW杯で5位と、3位の表彰台。
そこから再び渡欧したドイツシリーズでは伝統のフライング台オーベルスドルフで優勝、W杯10勝目をあげて意気揚々と北欧ラハティ(フィンランド)、さらには巨大なビリンゲンへと転戦と調整を重ねつつだ。
そして迎えるゼーフェルド世界選手権(オーストリア)では、ジャンプ週間の覇者小林、W杯連勝で勢いの波に乗るクラフト、オーベルスドルフFHで優勝し復調著しい実力者のストッフ、この3強の素晴らしいジャンプで、じつに名勝負の予感にあふれている。
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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