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いやおうなしにフライングジャンプは盛り上がる。
それもクルム、バド・ミッテンドルフ(オーストリア)のフライング台は、レジェンド葛西紀明(土屋ホーム)がもっとも得意とするシャンツェだ。
速やかにサッツを出て、空中を低めに伸びていき、そこに下からの最後のひと吹き、巻き上げの神風がやってくる。葛西選手はそれがくるのワクワクしながら飛んでいる。
「そのとき、きたーってなるんですね。もう、うれしくてたまらなくて」
表情も軽やかに、その偉大なる向かい風に乗りグイっと進んで、着地でテレマークを決める。そして『よしっ』と右手でガッツポーズだ。
そのままあっさりとひとケタ台の順位を記録する、それも数年前には優勝を遂げているのだから素晴らしい。
そのときの各国TVの著名スキージャンプアナウンサーは、下で伸びていく葛西の背中を観ては『カザイ、カサイ、カザーイがロングジャンプだー』と絶叫しまくった。
これは、毎年の1月になるともはやスキージャンプ中継の名物になりそうな勢いで、われらの葛西が飛ぶ順番になる頃には、会場に用意された各国のテレビブースでは、有名アナウンサーたちが雄叫びの準備をして構えているのである。
それを承知の葛西選手は、顔に微笑みを浮かべて心地良く飛んでいた。
盆地の中央部にある鉄道臨時駅から西側の丘に向けて広がる会場を埋め尽くし、オーストリア国旗を振りかざしている国民の皆さんが、地元オーストリア選手よりも大きな拍手と声援をもって、その葛西選手のジャンプに敬意を表してだった。それこそ偉大なるジャンパーカサイに頑張れとエールと一陣の風をおくっていたのである。
そこで英気を得たカサイは続く、オーベルスドルフ(ドイツ)のフライングに、RAW AIR最終戦のビケルスン、さらには経験がものをいうシーズンエンドのプラニツァまで明るくおおらかなまでに飛び抜けていった。
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