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暖冬の影響でザグレブはキャンセル。代替レースはボルミオへ。= ボルミオ・イタリア プレビュー
アルペンスキー・ワールドカップ(白いサーカス)転戦記 by 田草川 嘉雄 0今年のヨーロッパアルプスは、冬の訪れは比較的早かったものの、その後は全体的に暖冬傾向。そのため、アルペンスキー・ワールドカップのスケジュールにも影響が出ている。まず1月1日ミュンヘン(ドイツ)で行なわれるはずだったシティレースがキャンセルされた。これは代替レースは行なわれずそのまま中止となることが決定。さらに1月4日、6日にザグレブ(クロアチア)で予定されていた男女のスラロームがともにボルミオ(イタリア)に会場が変更となった(5日女子、6日男子)。
ザグレブは、もともと雪の多い地域ではない。実際の会場となるのはザグレブ郊外に位置するスリエーメ(Sljeme)だが、この山はアルプス山脈からは外れており、スタート地点の標高も978mとそれほど高くない。例年人工雪を中心にコースが整備されるのだが、今年は気温が高く充分な量の雪を作ることができなかったようで、やむなくレース開催を断念せざるをえなかった。
ザグレブはイヴィッツァ・コスタリッチのホームコース。クロアチアの英雄を応援しようと毎シーズン2万人もの観客を集める人気のレースでもある。一部では今季限りでの引退も噂されているコスタリッチにとっては、最後のホームレースになるかもしれなかったわけで、その意味でも残念な会場変更といえるだろう。
一方、急遽代替レースを引き受けることになったボルミオは、世界選手権を2度(1985年・2005年)にわたって開催しているイタリアのビッグ・リゾート。ワールドカップでは年末に行なわれる男子ダウンヒルの会場として知られている。通常、代替レースの開催にはオーストリアのスキー場が手を上げることが多いのだが、今回は年末ダウンヒルのためにコースがしっかり整備されていること、観客席やプレスセンター等の設備ををそのまま使えることなどからボルミオがピンチヒッターを買って出たのだと思われる。
ボルミオのコース“ステルヴィオ”は、1985年の世界選手権のために作られたコースだ。ダウンヒルからスラロームまですべて行なえる機能的な設計。とくに上部は高速かつトリッキーで、トップレーサーをも怖れさせる難所の連続。しかし、地形的に難しい箇所は主にコース中盤までで、コース終盤を使うスラロームの場合、それほど難しくはない。スラロームコースとしての“ステルヴィオ”は全体的に中・緩斜面が中心で、パワー系の選手が有利となるコースといえるだろう。
このコースでワールドカップのスラロームが行なわれたのは過去に2回あり、最初は2003年1月。これは今回と同じように雪不足で中止となったシャモニの代替レースだった。優勝したのは、イヴィッツァ・コスタリッチ。日本チームからは木村公宣、皆川賢太郎、佐々木明の3人が出場し、木村、皆川は1本目で途中棄権、佐々木は69番スタートから39位と健闘したものの2本目に進むことはできなかった。しかし、彼がウェンゲンのスラロームで2位(65番スタート)の快挙を成し遂げたのは、このわずか1週間後のことである。
2007/08シーズンは最終戦として行なわれたため、このシーズンのスラロームランキングで23位となった佐々木のみが出場権があった。その佐々木も2本目で途中棄権(1本目は16位)しており、これらの記録からは、日本選手にとって相性の良いコースとは言えそうにない。やはり日本選手が得意とする急斜面が長くないこと、最初の斜面とゴール前の斜面をつなぐトラバース部分がかなりフラットなことなどがその要因だろう。全体的に、緩斜面の滑らせ方と馬力に優る選手に有利なコースであることは否めない。
さて、今回のボルミオのスラロームはシーズンまだ3戦目だ。1戦目と2戦目とでは上位の顔ぶれがかなり異なっており、今季のスラロームの勢力図はまだはっきりと定まっていない印象だ。これは、第1戦レヴィのスラロームがグリップが効く雪質でしかも比較的やさしいポールセットだったのに対し、第2戦ヴァル・ディゼールは、一瞬のミスも許されない恐ろしく硬いツルツルのアイスバーンにトリッキーなポールセットが立ったことが影響しているのだろう。途中棄権者の数を比べてもレヴィの1本目は82人中8人しかいなかったのに、ヴァル・ディゼールでは実に68人中27人が1本目で転倒あるいはコースアウトで消えている。
この対照的なコンディションとなった2レースで、ともに表彰台に立っているのはマリオ・マット(オーストリア)。1戦目で8位、2戦目1位と条件を選ばず安定した成績を残している。第2戦での優勝は、彼にとって2011年3月以来約2年9カ月ぶりの勝利だ。通算ではスラローム14勝目(他にスーパー・コンバインドで1勝)。オーストリアの男子としてはベンジャミン・ライヒと並び歴代最多勝。ワールドカップ全体でも歴代5位タイで、現役ではイヴィッツァ・コスタリッチの15勝に次ぐ2位タイの記録となる。
「チームのみんなのハードワークに感謝する。今季は練習の開始が遅れたが、その分集中してトレーニングすることができた。スキーやブーツのチューニングも問題なく、今は自信をもってレースに臨めている」と語るマット。オーストリアにとって、技術系種目でヒルシャー以外の選手が優勝したのも2011年3月以来のことで、彼自身のみならずチームにとっても価値ある勝利といえる。ボルミオでは目立った成績を残していないが、本来であれば得意とするコースのはず。現在の安定感を考えれば、有力な優勝候補に上げないわけにはいかない。
ヴァル・ディゼールでは1本目でコースアウト。慌てて登り直してゴールしたものの2本目に残ることができなかったマルセル・ヒルシャーは、その後アルタ・バディアのGSで優勝し、悔しさを晴らした。最強のGSレーサー、テッド・リガティ(アメリカ)を破っての勝利は、ヒルシャーに再び大きな自信を与えたはずで、ヴァル・ディゼールのSL失敗のダメージは残っていないだろう。実力的には間違いなくナンバー1。年末から連日ハードな練習を行っており、年明け最初のレースにきっちり合わせてくるはずで、彼が本来のスラロームをすれば、好調マットもそう簡単に勝つことはできないだろう。
ダークホースとして注目したいのは、ヘンリック・クリストファーセン。ノルウェーの19歳で、第1戦3位、第2戦11位。さらにアルタ・バディアのGSでも2本目のベストタイムをマークして12位に食い込むなど、今もっとも勢いに乗る新星だ。数年前のマルセル・ヒルシャー、アレクシー・パントュロー(フランス)を思わせる急激な上昇カーブを描いており、スラロームでは第1シード入りも時間の問題と思われる。
日本選手は、湯浅直樹(スポーツアルペン)、佐々木明(ICI石井スポーツ)、皆川賢太郎(ドーム)の3人に加えて、今回はナショナルチーム外の武田竜(サンミリオン)が出場する。武田は、12月のヨーロッパカップスラローム、サン・ビジリオとポッツァ・ディ・ファッサで日本人最高位となったことで国枠の出場権を手に入れた。29歳でついにつかんだワールドカップ初出場。おそらく世界の壁を痛感するデビュー戦となるだろうが、持てる力をすべて出し切ってぶつかってほしい。
一方、エース湯浅にとっては、そろそろ上位入賞がほしいレースだ。今季の2レースはともに1本目30位。首の皮一枚でつながった2本目でそれぞれ19位、16位に浮上している。ヴァル・ディゼールの2本目はベスト・タイムという会心の滑りだが、現在の彼が1番スタートの好条件で滑れば、ベストタイムを記録するのは、驚くには当たらないということだろう。それだけに1本目のもたつきが惜しまれる。目標とするソチ五輪でのメダル獲得には、その前のワールドカップで表彰台に立つことが、ひとつの前提条件となるだろう。不安を抱える腰は、相変わらず可もなく不可もない状態のようだが、ここまできたら爆発あるのみ。年明け最初のレースから、全開の滑りを期待したい。
〔写真1〕ヴァル・ディゼールの第2戦で優勝したマリオ・マット。彼のとっての優勝も、技術系レースでマルセル・ヒルシャー以外の選手が勝ったのも、ともに2年9ヶ月ぶりのことだ。
〔写真2〕スラロームの連続表彰台記録が11で途切れてしまったマルセル・ヒルシャー。しかし、実力的には間違いなくナンバー1。ボルミオで、どう巻き返すのかが注目される。
(クリックで写真拡大)
田草川 嘉雄
白いサーカスと呼ばれるアルペンスキー・ワールドカップを25年以上に渡って取材するライター&カメラマン。夢は日本選手が優勝するシーンをこの目で見届けること。
≫[email protected] ≫ReplaySkiRacing
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