人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

スキー コラム 2013年3月15日

最終戦

アルペンスキー・ワールドカップ(白いサーカス)転戦記 by 田草川 嘉雄
  • Line

10月27日にセルデン(オーストリア)で始まった2012/13シーズンのアルペンスキー・ワールドカップ。途中にシュラドミング世界選手権をはさみ、長い戦いが続いてきたが、いよいよ今週末で閉幕となる。現在スイスのレンツェルハイドでワールドカップ・ファイナルが展開中。ダウンヒル、スーパーG、ジャイアント・スラローム、スラローム。各種目の最終戦が行なわれシーズンを締めくくるのだ。

ワールドカップが世界最高峰のアルペンレースであるのは間違いないが、ファイナルはそのなかでとくにグレードの高いレースである。最終戦の前の段階で種目別のランキング(WCSLではなくワールドカップポイントのランキング)で25位以内に入っていなければ出場できないからだ。加えてそのシーズンに行なわれた世界選手権及びジュニア世界選手権の優勝者にも出場権がある。もっとも世界選手権のチャンピオンが種目別25位に入っていないということはほとんどあり得ないので、実際には種目別上位25人+ジュニア世界選手権チャンピオンということになるだろう。また、そのシーズンのワールドカップポイントが500点を超えた選手は、自分がランキング25位以内に入っていない種目にも出場できる。たとえば技術系スペシャリストのマルセル・ヒルシャーは、今季1ポイントも取っていないダウンヒル最終戦にもエントリーできるというわけだ。

さて今シーズンのファイナルの舞台のレンツェルハイドは日本ではほとんど知られていないが、なかなかの規模を誇るリゾート。四方を美しい山々に囲まれた別天地で、冬は完全凍結する小さな湖の周囲にホテルや別荘が点在する。まさに“瀟洒”という表現がふさわしい、静かで豊かな時間の流れる上質なリゾートである。
インスブルック五輪(1976)の男子ジャイアント・スラロームで優勝したハイニ・ヘンミはここの出身。今大会でも大会役員に名を連ねており、かつては奥さんもボランティアでプレス用シャトルのドライバーをつとめていた。

ここで最終戦が行なわれるのは9回目だが、そのうち4回が最終戦の開催。来シーズンも同様に最終戦を受け持つことになっている。スイスでは男子のウェンゲンとアーデルボーデン、女子がサンモリッツがすでにレギュラー会場として定着しており、なかなか新規参入の隙がない。唯一可能性がありそうなのが、毎シーズン会場が変わるファイナルなのだ。通常のワールドカップと違い男女4種目とチーム戦を6日間のなかで行なわなければならないので、大会の運営力も問われる。レンツェルハイドは過去3回のファイナルをいずれも成功させ、着々と評価を高めてきた。同じグラウビュンデン州にはサンモリッツ、ダヴォス、アローザといった超有名リゾートがひしめいており、そのなかで特色をアピールするためにもワールドカップの開催に積極的なのだろう。

レンツェルハイドで初めてワールドカップが行なわれたのは1995年のことなのだが、すぐ隣接するパルパンでは1980年代にしばしばワールドカップが行なわれていた。そんなレースのなかで今でも語り草なのが1984年の男子スラロームだ。このレースでは当時全盛時代を迎えていたフィル・メーアとスティーヴ・メーアの双子の兄弟がともに失格になっている。というのもふたりがゼッケンを取り違えて出場したため。当時のヘッドコーチ、トム・ケリー(現在はUSチームのスポークスマンをつとめている)がフィルとスティーヴに間違ってゼッケンを渡してしまったのだ。ふたりがあまりに似すぎているために起こった珍事だが、当初は誰もそれに気が付かなかったという。最初に気づいたのは、ゴールで観戦していたスティーヴの奥さん。おもわず「あれはスティーヴじゃないわ」とつぶやいたのが取り違え発覚のきっかけだったという。双子とはいえこのメーア・ツインズは本当にうりふたつなので親しい人たちもしばしば間違えていた。見分け方はただひとつ。着けているゴーグルの色が違うのだ。ともにスミスのゴーグルを使っていたがフレームが青なのがフィル、白がスティーヴだった。これには隠された理由があり Phil と Blue は同じ4文字、Steve と White は同じ5文字だったからである。しかし、アルペンレーサーだからといっていつもいつもゴーグルをかけているわけではない。そんなときにはみんな本当に困ったようだ。「区別がつかなかった時にはどうしているんだ?」という質問に対してふたりのサービスマン(当時はK2をはいていた)、スリーズ(ニックネーム。本名は失念)は「本人に聞くしかないな」と冗談半分で答えたのを思い出す。

話はだいぶそれてしまったので、今季のスラローム最終戦に戻そう。
種目別チャンピオンはすでに決定。もちろんマルセル・ヒルシャーである。
先週、クラニスカ・ゴラで行なわれた第10戦で2位となり80点を加算。一方、種目別ランキングで2位につけていたフェリックス・ノイロイターは1本目で途中棄権してしまった。したがってふたりのポイント差は162点に拡大した。最終戦の結果がどうであれ逆転は不可能となり、ヒルシャーのスラローム・チャンピオンが決定。彼にとっては初のスラローム種目別タイトル獲得である。シティイベント(パラレルスラローム)を含む今季のスラローム10戦中優勝5回2位4回3位1回。何があっても表彰台から外れないその圧倒的速さと安定感は、ほとんど奇跡に近い。多くのライバルが「今のマルセルはUnbeatableだ」と呆れ顔で首を振るが、まさに難攻不落の牙城といってよいだろう。 今季の男子ワールドカップは種目別タイトルがすべて決定している。この原稿を書いている3月14日朝現在、まだ決着がついていないのはヒルシャーとアクセル・ルンド・スヴィンダールによる総合優勝争いだけだ。スーパーG、ジャイアント・スラローム、スラロームを1レースずつ残してヒルシャーが1375点、スヴィンダールが1226点でその差は149点。数字の上ではスヴィンダールが逆転して通算3度目のワールドカップ総合チャンピオンになる可能性は残されている。しかし、相手は難攻不落の24歳。よほどのことがない限りヒルシャーが逃げ切るのではないか。スヴィンダールにとっては、ダウンヒル最終戦が視界不良のために中止となったのが痛い。種目別タイトルは獲得したものの、ヒルシャーとのポイント差を最大100点詰める大きなチャンスだったからだ。一方ヒルシャーはいつもは高速系種目には手を出さないのだが、昨シーズン同様最終戦だけはスーパーGにもスクランブル発進する。少しでもポイントを加算してスヴィンダールの息の根を止めようという作戦だ。これに対してスヴィンダールがどこまで反撃してヒルシャーを追い上げることができるかが勝負のポイントとなるだろう。

(追記:男子スーパーGは10人が滑った段階でキャンセルとなった。コース上部の強風と2度の中断による時間切れでの中止決定だ。したがってふたりのポイント差は変わらないが、残りは2レースのみ。スヴィンダールがスラロームには出場しないことを表明したので、事実上ヒルシャーの総合2連覇が決定した)

レンツェルハイドのスラロームコースは、前半と後半ではっきりと性格が分かれる。スタートからしばらくは急斜面。距離はそれほど長くはないが、ワールドカップレベルとしてもかなり急傾斜だ。その後は多少うねりのある緩斜面が続き、ゴール前に短い中斜面というプロフィール。全体から言えば中盤から下の中・緩斜面でのスピードが重要だが、短いとはいえ最初の急斜面もけっして侮れない。ここでリズムをつかまないとあっけなくコースアウトということもありえるからだ。

日本選手は湯浅直樹(スポーツアルペンSC)がただひとり出場する。先週のクラニスカ・ゴラでは8位。1本目9位につけて2本目のジャンプアップに期待が集まったが、今ひとつタイムが伸びずに順位をひとつ上げるにとどまった。しかし32ポイントを加算して種目別ランキング20位に浮上。堂々のファイナル進出だ。依然として腰の状態は思わしくないが、シーズン最後のワールドカップレースを思う存分暴れてほしい。湯浅はシーズン終了後、スポーツ障害のスペシャリストであるドイツ人のドクターにかかる予定。フェリックス・ノイロイター(ドイツ)やクリストフ・インナーホーファー(イタリア)、ラインフリート・ヘルブスト(オーストリア)ら腰痛に悩む多くのトップレーサーを蘇らせた名医というだけに、湯浅が来シーズンをより良いコンディションで戦うための大きなチャンスとなるだろう。

[写真1]総合2連覇に向け快調に突っ走るマルセル・ヒルシャー。とくにスラロームでの強さは際立っており、すでに種目別優勝を決めている。
[写真2]初のスラロームタイトル獲得に向けてわずかに可能性を残していたフェリックス・ノイロイターだが、クラニスカ・ゴラの第10戦で途中棄権。夢は来季以降に持ち越しとなった。

[写真3]総合優勝はマルセル・ヒルシャーとアクセル・ルンド・スヴィンダールの一騎討ちとなった。現時点ではヒルシャーがかなり有利だが、はたしてスヴィンダールの巻き返しはなるか?。
[写真4]クラニスカ・ゴラのスラローム第10戦を制したのは大ベテラン、イヴィッツァ・コスタリッチ。今季はキッツビューエルのコンバインドで優勝しているがスラロームの勝利は14ヶ月ぶりだった。

[写真5]湯浅直樹は種目別20位でワールドカップ・ファイナルの出場権を獲得し、2年連続の出場となる。もうプレッシャーはないはず。シーズン最後のワールドカップで大暴れを期待したい。
[写真6]ジュニア世界選手権のスラロームチャンピオンのマニュエル・フェラーもおそらく出場するはず。現在21歳。マルセル・ヒルシャーの次のスター候補生として注目される選手だ。

[写真7]ワールドカップ・ファイナル開催の常連となったレンツェルハイド。スイスアルプスのど真ん中に位置するスケールの大きなリゾートだ。

田草川嘉雄

田草川 嘉雄

白いサーカスと呼ばれるアルペンスキー・ワールドカップを25年以上に渡って取材するライター&カメラマン。夢は日本選手が優勝するシーンをこの目で見届けること。
[email protected] ≫ReplaySkiRacing

  • Line

関連タグ

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
スキーを応援しよう!

スキーの放送・配信ページへ