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スキー コラム 2012年1月19日

男子スラローム第7戦 キッツビュール

アルペンスキー・ワールドカップ(白いサーカス)転戦記 by 田草川 嘉雄
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先週末にウェンゲンで行なわれたラウバーホルン大会は、三日間で66000人という過去最高の観客を集めて大成功に終わった。ダウンヒルで地元スイスの新鋭ベアト・フォイツが、スーパー・コンバインドとスラロームでは“ミスター・ウェンゲン”の異名をとるイヴィッツァ・コスタリッチが優勝するという最高のシナリオ。天候にも恵まれ、観客たちは大きな満足感とともに山を降りたにちがいない。

さて、ラウバーホルン大会の興奮は、今週は約500キロ離れたキッツビュールに移る。こちらは約8万人という観客動員数を誇るハーネンカム大会。1931年に創設され、今年で第72回を迎える伝統と熱狂のレースだ。金曜日にスーパーG、土曜日にダウンヒル、そして日曜日にスラロームというスケジュールだが、ダウンヒルとスラロームの合計タイムには、さらにコンバインドの順位がつけられる。現在主流のスーパー・コンバインドは、短縮ダウンヒル(またはスーパーG)とスラローム1本(場合によっては短縮コース)を通常のレースとは別に改めて行なうというフォーマットだが、こちらは通常のフルサイズのダウンヒルとフルサイズのスラローム2本を滑って競う。スーパー・コンバインドと区別するために、あえてクラシカル・コンバインドなどと呼ばれることもあるが、そもそもコンバインド本来の姿はこちら。実態を考えれば、“スーパー”なのは、むしろこのキッツビュールのコンバインドだろう。

3日間の大会期間中、キッツビュールの街は特別な雰囲気に包まれる。もともとヨーロッパ有数の高級リゾートとして名高いキッツビュールだが、ハーネンカム大会はとりわけ豪華で熱狂的なイベントである。観客の数、レースの熱狂、メディアの注目度。いずれをとっても、ワールドカップ最大級といって間違いないだろう。

そうした大会としてのグレードの高さを形成する最大の要因は、コースの難易度が非常に高いことにある。とくにダウンヒルは、世界でもっともむずかしいコースとして名高い。街を見下ろすようにそびえるハーネンカム山から延びるダウンヒルコース“シュトライフ”は、世界中のすべてのダウンヒラーをも恐れさせる魔の山。名うてのスピードジャンキーたちをもってしても、スタートハウスでは身体に震えを感じるという。そのプロフィールは標高差860m、全長3312m、最大斜度は実に85%(40.4度)。スタート直後から難所の連続で、マウスファーレ、シュタイルハングと恐ろしく急で長い氷の斜面を駆け下りる(または飛び降りる)。終盤には、ハウスベルクカンテの大ジャンプの後、すかさず左に超高速ターン。そこからゴールまで約20秒弱は、コースなりに直滑降だ。激しく波打つ右下がりの片斜面をまっすぐに横切り、目も眩むゴール前の急斜面に真っ逆さまに飛び込む。そして最後のジャンプを大きく飛んでようやくゴール。中盤にわずかに緩斜面があるだけで、あとはどの一瞬をとっても気の抜けない2分弱の大冒険である。

一方、スラロームは一見何でもないようなコースで行なわれる。全長は590m、標高差193mといずれも平凡。斜度も前半部に35度の急斜面があるものの、わずかな距離であり、あとは中斜面と緩斜面が交互に現れるだけだ。だが問題は、その“交互”が実にめまぐるしくやってくることにある。極論すればスタートからゴールまですべてが斜面変化。右にねじれ左にうねり、夏道を横切り、あまけに一部にはアップヒルまであるのだ。昨シーズンのレースでは、イヴィッツァ・コスタリッチが「面白い趣向だった」と苦笑交じりに皮肉った小さなジャンプもゴール前に設けられていたほどだ。したがって、リズムが取りにくく、いったん流れを失うと最後までそれを取り戻すことがむずかしい。なめてかかると手痛いしっぺ返しを食らう厄介なスラロームコースといえるだろう。クラシックレースの難しさとは、単に歴史や伝統に彩られるというだけでなく、こういう地形の“古めかしさ”にもあるのである。

さて、そんな癖のあるコースで行なわれるスラロームだが、コースの難しさ同様その展開を予想することも難しい。

ザグレブ、アデルボーデンと連勝してきたマルセル・ヒルシャー(オーストリア)が、先週のウェンゲンでは1本目でまさかの失格(旗門不通過)。絶好調だった流れを絶ち切りかねない痛いミスだったが、ゴールした時点でのタイムは圧倒的なベストタイムだった。滑り自体は依然好調のはずだが、勝負とは、わずかなきっかけで流れが変わるもの。はたして、このミスがキッツビュールのスラロームにどれほどの影響を与えるのか、最大の焦点はまずそこにあるといってよいだろう。

対照的に、ウェンゲンで一気に波に乗ったのがイヴィッツァ・コスタリッチだ。スーパー・コンバインドとスラロームでいずれも優勝。ダウンヒルでは無得点(38位)に終わったもののこの週末だけで200ポイントを加算した。これで総合でもトップを行くヒルシャーに30点差に肉薄。形勢はコスタリッチに傾きかけたといってよいだろう。コスタリッチはキッツビュールで全レースに出場する予定で、コンバインドを含めれば最大400点の加算が可能。実際に昨シーズンはキッツビュールで304点の荒稼ぎで、総合優勝のタイトルを一気に手元に引き寄せたのだ。今季のコスタリッチは高速系種目で自ら不調を認めており昨年並みの成績は望めないとしても、スラロームとコンバインドでは大量得点の可能性が高い。スラロームだけにしか出場しないヒルシャーを総合ランキングで逆転することも充分に考えられるのだ。この状況にヒルシャーが焦りを感じたとしたら、スラロームの滑りにも影響は少なくないだろう。

このふたりが有力な優勝候補であることは間違いないが、これを追うのがアンドレ・ミューラー(スウェーデン)、クリスチャン・デヴィーレ(イタリア)、フェリックス・ノイロイター(ドイツ)ら。スラロームの種目別ランキングでは第2グループと言ってよいだろうが、2強のレース次第では、優勝の可能性も高い。今季ここまでの6戦中、ヒルシャー3勝、コスタリッチ3勝と2強が勝利を分けあっている。はたしてこの寡占状況を突き破ることができるのか、彼らの滑りにも注目したい。

ウェンゲンで右膝関節を負傷した湯浅直樹は、キッツビュールは出場を見合わせる可能性が高い。心配された靭帯は無事だったものの、全治4週間の診断がくだされたという。今は痛みが治まるのを待つ状況で、苦しいところだが無理は禁物。完治してからの巻き返しに期待したいところだ。

日本チームから一人だけエントリーとなる佐々木明には、まずは2本目進出が望まれる。アデルボーデン、ウェンゲンと復調の兆しが見えながら失敗に終わっているだけに、残されたチャンスは少ない。過去の成績から見ると、けっして得意とは言えないキッツビュールのスラロームコースだが、彼の爆発を期待したい。

【写真左】昨シーズンのキッツビュールSLの覇者はジャン・バティスタ・グランジ(フランス)。今季は肩の負傷で出遅れていたが、2連覇にかける思いは強いはず
【写真右】ウェンゲンで圧勝のイヴィッツァ・コスタリッチ(クロアチア)。キッツビュールでは全種目に出場し、大量得点を狙う

【写真左】ウェンゲンの1本目で膝を痛め全治4週間という怪我を負った湯浅直樹
【コース図】世界でもっとも難しいダウンヒルと、くせのある厄介なスラローム。クラシックコース特有の難しさが伝統のハーネンカム大会を演出する

田草川嘉雄

田草川 嘉雄

白いサーカスと呼ばれるアルペンスキー・ワールドカップを25年以上に渡って取材するライター&カメラマン。夢は日本選手が優勝するシーンをこの目で見届けること。
[email protected] ≫ReplaySkiRacing

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