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年内最後のワールドカップ男子スラロームは、12月21日にフラッハオ(オーストリア)で行なわれる。今季第3戦となるのだが、実際には雪不足のため中止となった第1戦(レヴィ)の代替レースだ。
フラッハオは、ワールドカップの会場としては比較的新顔である。初開催は1993/94シーズン、女子のスーパーG が行なわれた。以降男女通算13レースがここで開催されてきたが、レギュラー会場として定着するには至っていない。オーストリアでは、他にもすでに多くの会場がワールドカップを開催しており、なかなかそこに割って入ることができないのだ。今回はレヴィが返上し宙に浮いた男女スラロームの代替地として、いち早く名乗りをあげて誘致に成功した。20日に女子、21日に男子のスラロームが行なわれる。
レースに使われるコースの名前は「Hermann. Maier Weltcupstrecke」、つまり「ヘルマン・マイヤー・ワールドカップコース」だ。そう、フラッハオはあの偉大なチャンピオン、ヘルマン・マイヤーが生まれ育った村なのだ。幼い頃の彼は、そして勝っても勝ってもなかなかナショナルチームに入れなかった不遇な時期を過ごした青年時代の彼は、毎日毎日ここで練習に明け暮れた。そして選手生命を失いかけた2001年の交通事故の後、約1年ぶりにスキーをはいたのもこのコースだった。
ワールドカップ通算54勝(男子では歴代2位)を記録したヘルマン・マイヤー。しかしその名前を冠した割に、コースの難易度は高くない。多少ねじれたりうねったりしてはいるものの、びっくりするような急斜面があるわけでなく、ほどよい傾斜の斜面が下まで続く。とくにスラロームはその後半部分を使うために、ほぼ一枚バーンといってもよいだろう。公式発表では全長が637m、標高差191m。スケールの点でもごく平均的な数字である。
前回、このコースで男子スラロームが行なわれたのは、2004年12月22日。今回と同じ年内最後のスラロームだった。熱烈なファンの方なら覚えているだろうが、このレースでは、佐々木明が素晴らしい滑りを見せた。1本目、トップのライナー・シェーンフェルダー(オーストリア)に0秒65差の4位。2本目の滑り次第では、表彰台、あるいは優勝も充分に狙える好位置につけたのだ。しかし、1本目とは打って変わって、2本目の佐々木は精彩を欠いた滑りで失速。合計タイムでは10位にまで下がってしまった。原因は、北向の斜面は陽が落ちるのが早く、彼が滑る頃には太陽がすっかり山の端に隠れたことにある。そのため、視界がぼんやりとする“フラット・ライト”な状態になった。これは、強度の乱視に悩んでいた佐々木にとってもっとも苦手とする状況で、彼本来の攻撃的な滑りが封じられてしまったのである。レース後、帰国した佐々木は、成田空港からその足で眼科に行き、レーシック手術を受けたという。
また、現在は基礎スキーやグラススキーで活躍する岡田利修にとっても、悔しい思いの残るレースであった。彼は1本目76番という遅いスタート順から2秒06差の25位に躍進。荒れたコースをアタックに次ぐアタックで滑りきり、初めてワールドカップの2本目を滑る権利を得た。下位シードの選手が上位に浮上するためには、こういうふうに滑るしかない、という見本のような滑りだった。岡田は2本目も快調に飛ばし、24位のタイムでゴール。しかし、ゴール前で旗門をまたいだという不可解な判定で、失格となってしまったのだ。本人にその感覚がなく、当然チームとして抗議したのだが判定は覆らず、岡田のワールドカップ初入賞はならなかった。
こうして快挙となるはずのふたりの記録が、結果的に幻と消えただけに、今回の日本チームにとっては7年越しの無念を晴らす戦いとなる。岡田は、すでにワールドカップから引退したが、現在の日本チームのトップランカーは、同じハートチームの後輩、湯浅直樹である。湯浅自身、前回のフラッハオにも出場しているが、そのときは1本目で旗門不通過で失格。つまり湯浅にとっては二重の意味で、このコースに復讐しなければならないわけである。今季は序盤からなかなか調子が上がらず、納得の行く結果の出ていなかった湯浅だが、ここに来て上昇の兆しが見えてきた。12月15日に行なわれたヨーロッパカップで5位に入賞したのだ。トップのアクセル・ベック(スウェーデン)とは0秒41の僅差。得意の急斜面の滑りは、久々に見る彼らしい躍動感にあふれていた。その勢いをワールドカップに持ち込み、アルタ・バディア、フラッハオと続くこの2レースで一気に波に乗りたいとろだ。
また佐々木も同じヨーロッパカップで16位。48番というスタート順を考えれば、悪くない結果といえるだろう。調子は着実に上向いている。前回はフラットな光線に苦戦を強いられたフラッハオのコースだが、幸いにも今回はナイトレース。ここの夜間照明は、かなり明るい方なので、視界に災いされることはないだろう。あくまで世界の頂点をめざす彼としては、現在はまだまだ本来の滑りではないものの、本格的な復活への足がかりを1日でも早くつかんでほしい。
田草川 嘉雄
白いサーカスと呼ばれるアルペンスキー・ワールドカップを25年以上に渡って取材するライター&カメラマン。夢は日本選手が優勝するシーンをこの目で見届けること。
≫[email protected] ≫ReplaySkiRacing
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