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スキー コラム 2009年1月22日

【アルペンスキーW杯転戦記】キッツビューエル(オーストリア)

アルペンスキー・ワールドカップ(白いサーカス)転戦記 by 田草川 嘉雄
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先週行なわれたウェンゲンのラウバーホルン大会は、過去最高の観客数を記録した。土曜日のダウンヒルに集まった有料入場者数は、29000人(組織委員会発表)。これまでの記録は2005年の27500人だったので、それを1500人上回ったことになる。たいしたことのない数字と思われるかもしれないが、登山電車以外に交通機関のないアルプスのど真ん中で行なわれるイベントに、これだけのファンが集まるというのは、やはり驚くべきことだろう。スーパー・コンバインドでカルロ・ヤンカ、ダウンヒルでディディエ・デファーゴと、ともに地元スイスが優勝したこともあり、第79回のラウバーホルン大会は、かつてないほどの盛り上がりをみせた。これで今シーズン、スイスで行なわれたワールドカップは、アデルボーデン、ウェンゲンともに史上最高のファンが集結したわけで、その背景にはもちろんスイスチームの好調という事実がある。やはり、地元選手の活躍はレースの盛り上がりに必要不可欠な要素なのだ。

というわけで今週はオーストリア選手が頑張らなければいけない番である。今週末の男子ワールドカップ会場は、オーストリアのキッツビューエル。ラウバーホルン大会と並び、二大クラシックレースと称されるハーネンカム大会だ。今回で69回目の開催。ワールドカップのなかでもっとも熱狂的なレースとして知られ、もっとも多くの観衆を集める大会でもある。今季開幕戦のゾルデン以来、約3カ月ぶりにオーストリアに戻ってきたワールドカップ。総合でベンジャミン・ライヒがトップに立ち、スラロームではラインフリート・ヘルブスト、マンフレッド・プランガーが絶好調。高速系にももちろん強豪が揃っている。オーストリアにとっては、アルペン最強国の威信にかけても負けられないレースだ。この週末、さらにシュラドミングのナイト・スラロームが行なわれる次の火曜日、この国の新聞のスポーツ欄はアルペンスキー一色になるはずだ。

種目は金曜(1月23日)がスーパーG、土曜日(24日)がダウンヒル、そして日曜日(25日)にスラロームがスケジュールされている。加えてダウンヒルとスラロームの合計タイムで競うコンバインドも設定されているために、実質的には週末だけで4レースが行なわれるわけだ。したがって総合ポイント争いにからむ選手たちにとっては、この4レースをどのように戦うかが、非常に重要なポイントになってくるだろう。

ハーネンカム大会がもっとも盛り上がるのは、なんと言ってもダウンヒルだ。ラウバーホルン・ダウンヒルが世界もっとも長いダウンヒルならば、ハーネンカムのダウンヒルコース“Streif(シュトライフ)”は世界でもっとも難しい、あるいは恐ろしいダウンヒルといってよい。全長3312m、標高差805mというスペック自体は、ワールドカップ・レベルではごく標準的な数字。しかし、実際はゴールまで完走することだけで勇者と称えられるほどの難コース。すべてのダウンヒラーにとってこのコースで勝つことは、オリンピックの金メダルに匹敵するほどの究極の目標となっているのだ。スタート直後の大ジャンプ“Mausefalle(マウスファーレ:ねずみ取りの意味)”、すさまじい角度で落下する“Steilhang(シュタイルハング:絶壁!)”から時速140kmオーバーの“Zielschuss(ツィールシュス:ゴール前の疾走)”まで、まさに難所に次ぐ難所。毎年多くの選手が病院送りとなる恐怖のダウンヒルコースで、昨シーズンはゴール前の最後のジャンプでスコット・マッカートニー(アメリカ)が空中高く舞い上がり、そのまま雪面に叩き付けられるという壮絶なクラッシュ。意識を失った彼は、ヘリコプターにつり下げられたまま病院に直行するというショッキングなシーンが大観衆の眼前で演じられた。

またダウンヒル同様、スーパーGもまた、恐ろしいことではここが世界一だろう。キッツビューエルのスーパーGは、ダウンヒルコースの下3分の2を使って行なわれる。ジャイアント・スラロームとダウンヒルの中間的な位置づけというスーパーGの特性上、コースによってジャイアント・スラロームに近くなったりダウンヒルに近くなったりするのだが、ここキッツビューエルのスーパーGは、間違いなくダウンヒル寄りのスーパーGである。昨年の記録を見ると、最高速こそダウンヒルよりも約20㎞遅いものの、平均スピードは逆に約3㎞も上回っている。前日までに同じコースを使ったトレーニング・ランが行なわれるダウンヒルと違って、スーパーGはインスペクションのみでレースに臨む一発勝負。技術的難度や精神的重圧という点ではむしろダウンヒルをしのぐといってもよいだろう。そしてハーネンカムのスーパーGで圧倒的な強さを発揮しているのが、地元オーストリアの英雄ヘルマン・マイヤーである。彼は出場4レース中2レースで優勝し、さらに2位も2回。つまりこのスーパーG表彰台から外れたことがないわけだ。すでに36歳。全盛期と比べると衰えたとはいえ、ここ一番での勝負強さはまだまだ侮りがたい。このレース最大の注目はやはりこの大ベテランの滑りだろう。

スラロームは、クラシックコース特有の複雑で癖のある地形が特徴。斜度的にはたいしたことはないが、ねじれやうねりが多く、2本目の後半には短いアップヒル(上り斜面)もある。ポールセットだけでなくこうした地形の変化にも対応が必要という点で、やはり難度の高いスラロームなのだ。昨シーズンは、スタートから右へ右へと斜行しながらダウンヒルへのゴールへ続く新しいコースが使われたが、今季はふたたび従来のコースに戻った。地形の変化が少なくなった分、コース攻略の面白みも減ったと評判が悪かっただけに、今回の変更は歓迎したい。

レースはオーストリア勢を中心とした戦いになるだろう。アデルボーデンではヘルブスト1位+プランガー2位、ウェンゲンではプランガー1位+ヘルブスト2位。ともにけがに苦しんだ末に見事な復活を果たしたベテランスラローマーが絶好調だし、もちろんライヒも好調を維持している。マリオ・マットが不調なのが気になるが、その一方で新鋭のマルセル・ヒルシャーが安定した力をつけてきた。2005年にプランガーが優勝して以来、オーストリアはここのスラロームで勝っていないだけに、彼らの意気込みは高いはず。大観衆の声援を味方につけたオーストリア勢がどのような滑りをみせるのか注目だ。

対照的にシーズン前半をすさまじい強さを発揮していたジャン・バティスタ・グランジェ(フランス)の調子が下降気味。この2レースは9位、4位と勢いはやや衰えた。もっとも彼は2月に地元ヴァル・ディゼールで行なわれる世界選手権優勝というもうひとつの大目標がある。調子のピークをそこに合わせるための意図的な調整だとすると、彼の滑りからも目を放すことはできない。

苦しい戦いが続く日本チームは、立て直しに必死だ。今週はキッツビューエルのスラロームに備えインスブルック周辺で調整の予定だったが、急遽予定を変更。ウェンゲンで2日間のトレーニングの後、クーシュベル(フランス)で行なわれるヨーロッパカップに回った。結果は佐々木明が4位、皆川賢太郎13位。わずかではあるが上昇の兆しはみえている。伝統のクラシックコースで、復活へのきっかけをつかんでほしいところだ。

【写真1】キッツビューエルのハーネンカム大会は、ワールドカップでもっとも熱狂的な雰囲気。とくにダウンヒルの表彰式会場の熱気は、この国におけるアルペン競技の人気を象徴している

【写真2】難コース“シュトライフ”を疾走するボーディ・ミラー。この後、すさまじい急斜面にほとんどまっすぐ飛び込み、ゴール前の最高速は時速140㎞にも達する

【写真3】急斜面の上からゴールを見下ろす。土曜日に行なわれるダウンヒルには、5万人を超える大観衆が集結する

【写真4】昨シーズンのスラロームの優勝者はジャン・バティスタ・グランジェ。今季も種目別ランキングでトップを走るが、ライバルたちとの差はわずか。タイトル争いはこれからさらに激化するだろう。

田草川嘉雄

田草川 嘉雄

白いサーカスと呼ばれるアルペンスキー・ワールドカップを25年以上に渡って取材するライター&カメラマン。夢は日本選手が優勝するシーンをこの目で見届けること。
≫Twitter@ReplaySkiRacing ≫ReplaySkiRacing

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