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採点方式が“上手い下手”の基準から、“これができたらプラス”“あれができたらプラス”というような加点方式に変わったため、選手が点数の目標を決めやすくなり、踊りや動きの良し悪しを詰めるような練習から技をルールに従って細かく練習するように練習方法も変わった。この時代は旧来型のアイスダンスから新しい価値観にすぐに転換できた選手が上位に行けたように思われる。旧ソ連のように美しさを売りにするよりもどちらかといえば力自慢が多い北米勢がこの時代から徐々に力を発揮してきた。そして今、カナダ、フランスを中心に、アメリカやフランスやイタリア、ロシアなどがしのぎを削る時代となっている。
カナダのトップはVirtue & Moir組、フランスのトップは Papadakis & Cizeron組で、両組ともひとつひとつ形の綺麗さが際立つ。彼ら二組を追うのがアメリカのShibutani兄妹(日系二世。ビートの取り方が際立って上手い)、カナダのWever & Poje組(二人とも大柄な上にスピードのある演技をするので迫力がある)、ロシアのBobrova &Soloviev組(比較的基礎のしっかりした正統派のアイスダンスをする)、イタリアのCappellini &Lanotte組あたりが追いかける展開になっている状況である。今や争う組の国籍は様々であるが、彼らのコーチはロシア人が大半で、アイスダンスにおけるソビエトという国の偉大さが今更ながら実感させられるのである。
以上、非常に大雑把にアイスダンス競技や流れを概説してきたが、アイスダンスという競技は滑りの良し悪し、踊りの良し悪し、といった大変抽象的なものを採点する競技であった。それは、採点におけるスキャンダルや虚実混じった様々な噂を生み出すこととなり、それぞれの時代や国際的なパワーバランスに影響されてきたという事実は否めないであろう。
一方で、西洋スポーツでありながら、ある種のものに対する習熟度を争うということ、そこに深い精神性が求められるということからも“道”のような性質を持っていたとも言える。
近年採点方式が改定され、定性的なものから定量的なものを採点する方向にきている。未だにまるで電話帳のような厚さの細かいルールがあり、それが毎年改定されるような状態ではあるが、昔に比べ競技内容の良し悪しがわかりやすくなり、一般のお客様がたもこれを“鑑賞する”から“観戦する”方向にシフトしやすくなってはきているが、一方でアイスダンス独特の強い精神性や文化、“道”としての深みを失うようなことになってほしくはないと、私は考える。
木戸 章之
1975年8月28日生まれ。 千葉県松戸市出身。芝浦工大柏、筑波大卒業。 小学校低学年でスケートを開始し、5年生からアイスダンスを始め全日本ジュニアで5度優勝。渡辺心とカップルを組んでからは2003-04シーズンから引退するまで全日本選手権で4連覇。2006年トリノ五輪に出場し15位。現在は専属コーチとして新横浜スケートリンクで、アイスダンスをはじめとしてフィギュアスケートの指導にあたる。
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