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ジャパンも同じだ。2年前の躍進を未来の礎とするために手にしたいのは、さらなる強国からの白星、避けなくてならぬのは「大敗」である。テストマッチはすべて歴史の総力戦である。
worldrugbymuseum.comより引用
最後に。ワラビーズを迎えるにあたり忘却を許されぬ名を挙げたい。過去にいくつかのメディアで紹介したが、初めて知る読者がおられると考え、ここでも触れたい。
ブロウ・イデ。本名、ウィンストン・フィリップ・ジェイムズ・イデ。イデとは「井手」である。ワラビーズ史上唯一の日系選手だ。キャップは「2」。ポジションはCTBだった。佐賀出身の父、秀一郎は1894年に渡豪、シドニーで貿易商を営み、オーストラリア人のクララと結婚、4人の息子と3人の娘を育てた。末弟の愛称ブロウはラグビーが上手だった。
1939年7月21日。シドニー。ワラビーズを乗せた客船が英国ツアーへ発った。同9月2日。プリマス港到着。なんと翌3日、英独の戦争が始まった。遠征はキャンセルされた。
ブロウ・イデは帰国後、オーストラリア軍兵士となり、シンガポール陥落で日本軍に捕えられる。42年5月からの2年強は泰緬鉄道建設の苦役を科せられた。44年9月6日、1318名の「連合国人員」のひとりとして楽洋丸で日本本土の門司港へ運ばれる。炭鉱労働のためだった。同12日午前5時31分、海南島の東で米軍潜水艦の魚雷は命中、1150名強の捕虜が死亡する。
第二次世界大戦で命を落としたラグビー国際選手についての一冊『Final Scrum』にブロウ・イデの最期が記されている。「仲間が舟に引き上げようとした。しかしブロウは拒み、叫んだ。俺はとどまる。必要とあらばオーストラリアまで泳いで帰れる」。救命ボートの数はまったく足りていない。水上のブロウは傷ついた戦友のそばを離れようとしなかった。
1938年8月。来征のオールブラックスとのテストマッチに出場した。ブリスベンで14ー20。シドニーでは6ー14。死の直前、得意の低いタックルをたたえる拍手は聞こえただろうか。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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