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第2節を終えて、ひとまずの現象としては、ブレイクダウンのサポートがわずかでも遅れると被ターンオーバーもしくは反則に結ばれる。もちろん休止期間に倒れ方、乗り越え方の意識や動作がさび付いた事実も関係している。どのチームの精度も高くはなかった。そこにルールの新適用がかさなって、いっそう「攻めると反則で終わる」危険は増した。産みの苦しみというところだ。
サポートを早く速く。そこで、ひとつの課題が浮かんだ。すなわち「オフロードをどうするか」。抜きにかかり、あるいは相手にぶつかり、そのうえでポっと球を浮かし、後方のサポートにつなぐ。スーパーラグビーを長くスーパーなラグビーであらしめてきた中核的なスキルであり、ニュージーランドのいわば十八番(おはこ)である。
しかし、もしうまくつなげず、そこで倒されると、オフロードからの突破を狙っていた後方支援は遅れる。空中に浮かされた球を受けるには深いサポートが求められるからだ。そうでないと球を追い越してしまう。ラックのサポートはまっすぐに速く。オフロードのサポートはまっすぐに深い位置から。ここのギャップをいかに調整するのか。
いまこのときも各チームのコーチは思案しているだろう。オフロードを捨てて球の確保に集中する。セットプレーからのアタックを整理、最初のフェイズは高速ラックで球出し、防御のオフサイドを誘いつつ、その次の仕掛けでオフロードを狙い、うまく運ばず球の保持者が倒れたら、あらかじめ備えて配置されたサポート専門要員がただちに働く。なんて東京のスポーツライターが梅雨の雨音を聴きながら机上で思いつくような内容はとっくに実験しているかボツにしているはずだ。
開幕節、ブルーズとハリケーンズはオークランドのイーデン・パークで対戦した。解説のために地元紙を調べていたらブルーズの責任者が「試合後、昔のように子どもたちがピッチに降りてもかまわない」とコメントしていた。古い映像を見返すと終了の笛と同時に少年少女が観客席から飛び出してきて選手の尻や背をぺたぺたと叩く。サインをねだる。あれはいい光景だった。プロ化が進んで、利害関係者ってやつのさまざまな事情が優先されるようになり「子ども、まとわりつく」は禁止された。
休止期間のもたらす、なかば本能的な「原点回帰」は大歓迎だ。なにより大切なのは渇望によって「ズル」の肩身が狭くなったことである。統治機関から「ズルを許さず」のルールが下りてくるだけでなく、ラグビーのないときを過ごした実感が自然に「ズル」を退ける。ここに価値はある。
2020年9月28日。静岡。ジャパンの忘れがたきアイルランド戦。後半37分。7点のリード。背番号11の福岡堅樹はインターセプトに成功する。ゴール前でつかまった。しかし、そこでエメラルド色のジャージィに落球をさせて自軍投入のスクラムを得る。敗北の可能性はあれで限りなく消えた。振り返れば日本ラグビーの歴史を刻む「ノックオン獲得」だった。
のちに本人にインタビューすると秘密を明かした。
「タックル後に相手がボールを獲りにくるのはわかっていました。最後の抵抗というか、ボールを置いたあと、ちょっと指で引っかけました。あまり長くそうするとノットリリースを取られるので、本当に、獲られる瞬間だけ指でくっと引っかけてノックオンを誘う」
ダブリン市民は「ズル」と両手を広げるだろうか。では東京都民は、北海道民は、大阪府民は、福岡県民は。「ズルでなく工夫」。理由? ないといえばない。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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