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9月19日、現地時間の午後4時45分、試合は南アフリカのキックオフで始まった。「最初にきょうの日本代表はいつもと違うと考えさせれば、勝つポジションに入れる」(ジョーンズHC)。その言葉通り、7、8月の国際試合では自陣からでもボールをパスで展開していた日本代表は、一転してキックを多用。南アフリカのカウンター攻撃に対して、2人がかりのダブルタックルでボールを奪い返し、果敢に攻撃を仕掛けた。最初のスクラムでは、ジョーンズHCの言葉に挑発され、スクラムに集中した南アフリカをあざ笑うかのように、あっさりボールを出して大幅に前進。五郎丸歩の先制PGにつなげている。
前半29分、モールを押し込んでリーチ マイケルがトライし、10-7と逆転。このあたりから観客の胸の鼓動が高まっていく。後半28分、22-29の南アフリカ7点リードの場面の日本代表のサインプレーが見事に決まる。ざわつく観客席。つい詳細を書きたくなるが、このあたりで止めておいて、29-32の3点差で迎えた最後のシーンに移りたい。
終了間際、相手の反則でPKを得ると、ヘッドコーチの「PGを狙え」の声を無視して、リーチキャプテンがスクラムを選択した。ラグビーは相手の反則の際、攻撃側にいくつかの選択肢がある。1=PKからすぐに攻める、2=タッチキックを蹴ってラインアウトから攻める、3=スクラムを選択して攻める、4=PG(3点)を狙う、この時は4つあった。ジョーンズHCは手堅く同点にして勝ち点を取ろうとした。しかし、勝つための猛練習を繰り返してきた選手たちは、同点は望まず、勝利にかけたのだ。
決勝トライにつながる一連のプレーにもいくつも見どころがある。まずは、リーチ。一連の攻撃の中で3度もボールを持って突進。最後には右コーナーで密集の下敷きになって、トライの瞬間を見ていない。チームメイトに「トライしたよ!」と言われて「うそでしょ?」と言ったそうだ。アマナキ・レレイ・マフィにロングパスを送ったCTB立川理道は、実は目の怪我で右側が見えづらかった。「左方向へのパスで助かりました」。帰国後、網膜剥離が判明して緊急手術している。
そして立川は2人の選手(トンプソン ルーク、木津武士)を飛ばしてマフィにパスしたのだが、この試合でジョーンズHCは「飛ばしパスは禁止」と指示していた。南アフリカの選手はインターセプトが上手く、パスをカットされて一気にピンチになる可能性があったからだ。最後のトライは、ジョーンズHCの手のひらから選手たちが自由に羽ばたいた瞬間でもあったのだ。トライの瞬間、背後の警備員まではガッツポーズしているのは微笑ましい光景だ。
筆者は、試合を中継したJSPORTSで、スポーツ実況アナウンサーの矢野武さんとともに現地の放送席にいた。「南アフリカ相手に、スクラム組もうぜ! 宣戦布告」(矢野武)の名台詞が生れた。決勝トライの瞬間、矢野さんは「ヤッター!ヤッター!ヤッター!」と叫びつつ筆者に抱き着いた。目からは涙があふれだしていた。筆者も長い解説人生の中で初めて放送中にハンカチで涙をぬぐった。この試合は、1999年大会からRWCの中継をするJSPORTSが初めて放送した日本代表のRWC勝利でもあった。この試合を見た人の数だけ、このような物語があるはずだ。そして、2019年の日本代表が、その物語をさらに深みあるものにしてくれたのである。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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