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さて冒頭の「帝京の時代は終わった」はやはり正確ではない。本当は「帝京の黄金時代は終わった」。いや「黄金より輝く時代は終わった」か。一昨年度までの全国大学選手権9連覇は絶対に偉業である。勝率という実績はゴールドよりもゴールドに光る。運営予算を含む環境や全国より集う選手層の分厚さ、強力な留学生の存在などで他校を寄せつけない期間はあったはずだ。しかし、それは惜しくも退けられた大学が「負けたからといってダメなクラブではない」という文脈に引かれるべきで、勝ち続けた側の評価を下げるものではない。ラグビーに限らず、スポーツでは「勝ったからといって、すべてにえらいわけではない」が「勝ったことはえらい」のである。
黄金期の終焉とは人間社会の必然だ。際立つ者を倒すために敗者は考え、行い、努力を重ねる。まず東海大学がフィジカリティーで迫り、明治をはじめ、他校もみずからの許される範囲でグラウンド内外における「無敵王者の強み」を学ぶ。
早稲田の6番、ルーキーの相良昌彦は、花園に初めて出場の早稲田実業から入学、世代別の代表歴もないのに、すでに帝京の主力にも伍す体つきになっている。それも一例だ。本人の努力はもちろん、栄養やトレーニングの環境を整えたゆえ。トップリーグでヤマハ発動機が強力なスクラムを創造、身体化して猛威をふるうと、ほどなく他チームも対抗するためにセットピースの力をどんどんつけた。あれも似ている。
昨年度の大学選手権準決勝。天理に敗れ、オーラという黄金の膜は剥がれた。すると、たとえば赤黒ジャージィが簡単に失点を重ねながらも自信をなくさず逆転できるようになった。悪口ではない。オールブラックスだって、たまにそうなる。先のワールドカップのアイルランドは、ジャパンに負けて、みるみるエメラルド色の輝きをなくした。開幕時の世界ランク1位の貫禄はもうなかった。では、イングランドに蹴散らされたオールブラックスは、そのオールブラックスにもっと蹴散らされたアイルランドは、弱いチーム、弱いラグビー国になるのか。ならない。ただ「まれなる黄金期」が去っただけである。これからもトップ級としてラグビー史にとどまる。
進む時計で後半42分。帝京は早稲田の攻勢を断った。乗り越えるターンオーバー。だが指先に球は当たりノックオンの笛は鳴った。まさに指の先で白星はこぼれた。黄金より輝く時代は終わり、ひとつの強いチームは残った。
文:藤島 大
【ハイライト】ラグビー関東大学対抗戦2019
早稲田大学 vs. 帝京大学
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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