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阿部自身は「足技や他の技で追い詰め、最終的には袖釣込腰」というビジョンを語っているが、面白いのは、直前の全日本女子合宿でコーチに招かれた内村直也氏の講習にもっとも食いついたのがこの阿部ということ。内村氏と言えば知る人ぞ知る背負投のスペシャリスト、そしてその特徴はあらゆる組み手、あらゆる形からあくまで「背負投で投げ切る」その多彩で確かな方法論である。阿部自身は「(背負投が)生きてくるのは2年後、3年後」との旨コメントしているが、内村理論に秘められた「考え方」はすべての技に応用が利くもの。この点なんらか、面白い化学変化が起こるのではないだろうか。「五輪に向けてしっかり自信をつけたい」という阿部の「一本」量産劇と、その内容に期待だ。
女子48kg級:渡名喜風南(パーク24)
2017年ブダペスト世界選手権を制した48kg級の渡名喜は、1月のワールドマスターズ・ドーハで国際舞台に復帰。準決勝では2018年・2019年と世界選手権決勝で苦杯を喫している宿敵ダリア・ビロディド(ウクライナ)に背負投「技有」で勝利、ついにリベンジを果たした。しかし決勝では「3強」の一角ディストリア・クラスニキ(コソボ)に2度投げられて完敗、復帰戦を優勝で飾ることは出来なかった。渡名喜がこの試合から見出した課題は「受け」。以後は70kg級や63kg級の選手と積極的に組み合い、この部分の強化にリソースを費やして来た。特徴である攻撃力の高さと豊かなスピード以上に、安定感という部分にフォーカスして見守りたい大会。今大会の敵はただ1人、「五輪決め」の2020年2月のグランドスラム・デュッセルドルフ決勝で敗れたフランスの新鋭シリーヌ・ブクリのみ。以後大出世、同年秋にはヨーロッパ王者の座も得たこの相手にしっかり勝利し、五輪に弾みをつけたいところだ。
2018年バクー世界選手権70kg級の覇者・新井千鶴は、2019年東京世界選手権では思わぬ早期敗退。以後課題の組み手を中心に錬磨を続け、2020年2月のグランドスラム・デュッセルドルフではキャリア最高ともいえる出来で優勝。ぶじ東京五輪代表の座を射止めた。以後70kg級は中堅選手が急速にレベルアップ、メダルクラスとの差がほとんどなくなりつつある。新井はその中にあって、復帰戦となった3月のグランドスラム・タシケントでしっかり優勝。徹底研究にあって苦戦したが、練って来た組み手を中心に必死で凌ぎ、しっかり勝ち切ったそのしぶとさと使命感の高さが印象的であった。ジュリ・アルベール(コロンビア)が引退、東京世界選手権の覇者マリー=イヴ・ガイ(フランス)が代表落ちとなった70kg級世界にあって、五輪の金メダル候補筆頭は間違いなく新井。しっかり勝ち切って、この番付を維持したまま本番に乗り込みたいところだ。
男子では、初の世界選手権代表に決まった村尾三四郎(東海大3年)が送り込まれる。90kg級は五輪金メダル候補筆頭格のミハイル・イゴルニコフ(ロシア)や2017年の世界王者ネマニャ・マイドフ(セルビア)らが出場する大会屈指のハイレベル階級。潜在能力は世界王者クラスと評される村尾が、現時点でどこまでやれるのかに注目。
文:古田 英毅(柔道サイト eJudo)
※5月1日時点のエントリー情報に基づいて作成しています
古田 英毅
「eJudo」編集長。国内の主要大会はほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。2019年東京世界選手権から、全日本柔道連盟の場内解説者も務める。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。
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