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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。

その他の試合レポート 2019年12月30日

今シーズン公式戦初ゴールは開幕戦で。河原大輔が仲間にもたらした"お守り"。

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「狙いました!」という言葉を、「いやいや、アレはクロスだろ!」とチームメイトが口々に笑いながら否定するあたりに、日頃から彼が築いてきたキャラクターと立ち位置が滲む。「みんなが駆け寄ってくれたので、そこが素直に嬉しかったですね」。河原大輔の今シーズン公式戦初ゴールは、誰もが予想しなかったこの大舞台で飛び出した。

國學院久我山と前原が激突した開幕戦。前半で3点を奪い、後半も1点を追加した國學院久我山の清水恭孝監督は、57分に1人目の交替を決断する。1年生ながらアグレッシブなプレーを続けていた森次結哉が下がり、登場したのは3年生の河原大輔。「自分が交替の1枚目だとは思わなかったので、あまり緊張はしなかったです」という4番が、綺麗な芝生のピッチに駆け出していく。

背番号が現わすように、シーズン当初は右サイドバックのレギュラーを務めていた河原。安定感のある守備で関東大会予選、関東大会、総体予選と3つのタイトル獲得に貢献したものの、肝心の全国総体を迎えたタイミングで台頭してきた1年生の森次が左サイドバックの定位置を確保し、その位置にいた山本献は右サイドバックにコンバート。河原の名前はスタメンリストから消える。

2年以上も努力を積み重ね、ようやく掴んだポジションを奪われる格好となった心情は察して余りあるが、もともとの飄々とした明るいキャラクターが、その苦悩を覆い隠す。キャプテンを託されながら、なかなか公式戦の出場機会を得られないにもかかわらず、チームのことを最優先に考えて行動できる明田洋幸という、河原にとってチームで最も仲の良い親友の存在もポジティブに作用する。

「スタメンの11人はいますけど、自分は途中から入っても守備には自信を持ってやっていますし、そこでチームに貢献できたらいいなと思っています」。全国を懸けた選手権予選決勝では2-2の局面で途中投入され、その後に勝ち越したチームを得意の守備で支えながら、4年ぶりとなる冬の全国切符を引き寄せる。あるいは、チームの中で最も自分に課せられた役割を理解しているのが河原なのかもしれない。

1230日。高校選手権開幕戦。その時は64分にやってきた。左サイドでボールを持った戸坂隼人がヒールでボールを繋ぐと、そこへ果敢に上がってきたのは「自分は攻撃が課題」と認識している河原。すると、「オーバーラップして中を見たんですけど、自分的には中の入りが遅く感じた」というサイドバックは左足を一振り。ボールは美しい弧を描きながら、ゴールネットへ吸い込まれていく。

意外な伏兵の一撃に、7点目とは思えない歓喜がチームメイトに弾ける。「みんなが駆け寄ってくれたので、そこが素直に嬉しかったですね」。"守備の人"を自任する河原大輔の今シーズン公式戦初ゴールは、誰もが予想しなかったこの大舞台で飛び出した。終わってみれば8-0。山下貴之、山本航生と2人のハットトリック達成者が誕生する大勝で、國學院久我山が2回戦へと駒を進めた。

試合後も河原のゴールは、どうしても話題に上る。明田にあのシーンを尋ねると、「なんかアイツ、ゴール決めてスゲー浮かれてるんですけど、周りから見たら全然クロスを上げただけで(笑) でも、本人は『クロスみたいな雰囲気もあるけど、オレは絶対自分の意志でシュートを打ったから』と言っていたので、調子乗ってますね(笑)」とイジりのコメント。とはいえ、「自分は試合に出ていないですけど、仲の良い友達がああいうふうに決めてくれて凄く嬉しかったですね」と本音もこぼれる。

当の本人がミックスゾーンに姿を現した。「狙いました!」という言葉を、「いやいや、アレはクロスだろ!」とチームメイトが口々に笑いながら否定するあたりに、日頃から彼が築いてきたキャラクターと立ち位置が滲む。ひとしきりイジられた後、「コレはガチなんですけど」と前置きしながら、河原は自ら"疑惑のシーン"を振り返る。

「キーパーがちょっと動いたのが見えたので、さすがに浮き球というのはあまり狙っていないですけど、『ゴールはちゃんと見えてたよ』という感じです」。真顔で紡いだ言葉は、信頼に値する気がする。清水監督もその言葉を後押しした。「本人は『狙ってました』って言うと思うので、狙っていたということにしてあげてください(笑) 彼も1年生にポジションを獲られて、苦しい思いをしたと思うんですけど、本当に最後まで頑張ってくれているので嬉しいですよね」。

監督もチームメイトもみんなわかっている。河原が積み上げてきた努力を。河原がこの試合でゴールを挙げた意味を。苦しさを乗り越えて、自分にできることを考え続けてきたからこそ、あるいは"自分にできること"を超えるような結果が、誰もが憧れる大舞台で付いてきたのだろう。

次の試合でもやるべきことは変わらない。「自分たちは攻撃に自信を持っているので、そういう意味では初戦からこの大差で勝てたのは自信になりますけど、次がすぐありますし、今回の反省もあったので、そこはしっかり修正してやってきたいと思います」。まるでサッカーの神様が起こした"悪戯"のような、それでいて誰からも祝福されるような河原のゴールは、日本一だけを見据える國學院久我山にとっての大事な"お守り"になり得るかもしれない。

土屋雅史

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