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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
他のゲームより一足先に行われる首都8強は、聖地・西が丘を懸けたガチバトル。22年ぶりの戴冠を狙う東亜学園と悲願の初優勝へ突き進む東京朝鮮の一戦は都立東久留米総合高校グラウンドです。
第73回大会では初めて出場した都大会のファイナルを制して堂々と全国へ。その時も含めて過去3度の東京4強を経験するなど、1990年代前後には都内でも存在感を示していた東亜学園。近年はなかなか結果の出ない時期が続いていましたが、今シーズンは新人戦で関東大会予選出場へあと一歩まで迫ると、支部予選を勝ち上がって挑んだインターハイ一次トーナメントでT2所属の駿台学園をPK戦の末に撃破。最後は都立東大和南に0-1で敗れたものの、確かな手応えを。迎えた選手権予選も1次予選をしぶとく勝ち上がり、3年ぶりの都大会ではリターンマッチとなった初戦の駿台学園戦を2-1で潜り抜け、続く日大豊山戦も同じく2-1でモノにして、このステージまで。今大会の台風の目として、西が丘行きを真剣に目指します。
ベスト4には5回進出しているものの、ファイナルまで勝ち上がったのは高体連加盟1年目だった19年前。インターハイでもなかなか"2枠"を掴むことができず、全国大会出場は悲願となって久しい東京朝鮮。昨シーズンはインターハイ予選、選手権予選と共に準決勝まで勝ち進んだものの、前者は関東第一に、後者は帝京に揃って1点差で敗れ、悲願達成はお預けに。プロ注目のリャン・ヒョンジュ(3年・大宮アルディージャJY)をキャプテンに頂き、周囲からの評価も高い今シーズンも、ここまで経験した2つのトーナメントコンペティションは共にベスト8で敗退。今回は10月にバーレーンで開催されるAFC U-19選手権に臨む北朝鮮代表にリャン・ヒョンジュとキム・テウ(3年・西東京朝鮮第一中)が選出されているため、準々決勝の中でもこの1試合だけが前倒し開催に。「ヒョンジュとテウが代表で北朝鮮へ行くので、良い形で行かせてあげたい」(高隆志監督)というのはチームの共通認識。そのためにも今日の勝利は絶対に譲れない所です。清瀬の空からは傘を手放せないぐらいの強い雨が。水の浮いたピッチコンディションの中、東京朝鮮のキックオフでゲームはスタートしました。
立ち上がりから勢い良く入ったのは東京朝鮮。5分に右からリ・トンソン(3年・東京朝鮮第五中)が蹴り込んだCKは、東亜学園のGK清水瞭(3年・練馬大泉北中)がパンチングで掻き出し、橋本岬(3年・Forza'02)が大きくクリアしたものの、「今年は大きな選手が多いんですよ」と高監督も語るセットプレーは迫力十分。東亜学園も8分にはボランチの山下晋開(3年・練馬中)が裏へ落とし、三浦翔太郎(3年・TACサルバトーレ)がエリア内へ侵入するも、シュートには至らず。東京朝鮮は13分にもムン・インジュ(2年・埼玉朝鮮中)が左CKを蹴り入れ、こぼれを拾ったキム・テウのクロスにチョン・リョンホ(3年・埼玉朝鮮中)が合わせたヘディングは枠の右へ外れましたが、まずは「エースがいないので、みんなで力を合わせて勝つしかないと思っていました」と高監督も語ったように、リャン・ヒョンジュが欠場した東京朝鮮が攻勢に打って出ます。
16分も東京朝鮮。ムン・インジュが思い切って狙ったミドルは、水たまりでボールが止まり掛けるも清水がキャッチ。17分は東京朝鮮の決定機。右からリ・トンソンがラストパスを通し、チョン・テギョン(3年・東京朝鮮第一中)はGKと1対1になりましたが、ここは清水がビッグセーブで応酬。24分にもチョン・リョンホの左ロングスローから、こぼれをキム・セヨン(3年・東京朝鮮中)が残し、ムン・インジュが叩いたミドルはDFが頭でブロック。降りしきる雨の中でも力強く繰り出す東京朝鮮のアタック。
26分は再び東京朝鮮の決定機。ここもリ・トンソンが裏へ良いボールを落とし、走ったチョン・テギョンはまたもGKと1対1を迎えたものの、清水も冷静にファインセーブで対抗し、懸命に戻ったセンターバックの宮崎亮太朗(2年・練馬開進第二中)が大きくクリア。これを見て、高監督の決断は27分。2度のチャンスを逃してしまったチョン・テギョンに替えて、「今日は絶対に点を取るという気持ちで臨んだ」というクォン・ジュンソク(3年・山梨学院高)を早くもピッチへ。直後にはそのクォン・ジュンソクが清水にセーブを強いる豪快なシュートを枠内へ。続く東京朝鮮のゲームリズム。
一方、清水を中心に我慢の時間を強いられた東亜学園もようやく28分にファーストシュート。ロングボールに1トップ気味の宮崎敬一朗(3年・練馬開進第二中)が競り勝つと、ルーズを収めた橋本のミドルはクロスバーを越えるも好トライ。32分に「球際で向こうの選手にやられていたので、流れを変えるためにフィジカルのある子を出した」という高監督がカン・ガンホン(3年・東京朝鮮中)とピョン・ヨンジュ(3年・西東京朝鮮第一中)をスイッチした東京朝鮮2人目の交替を挟み、33分にもボランチの恒川大樹(3年・Forza'02)が左へ振り分け、山下の低いクロスは東京朝鮮のGKチュウ・サンホン(2年・神奈川朝鮮中)が懸命にキャッチしたものの、少しずつ東亜学園にも見え始めたアタックの手掛かり。
35分は東京朝鮮。キム・ソンホ(3年・東京朝鮮第五中)の右FKは、宮崎敬一朗が大きくクリア。38分も東京朝鮮。自陣左サイドで獲得したFKを、中央へ放り込むフェイクからキム・セヨンは縦に付けるも、クォン・ジュンソクはクロスまで上げ切れず。40+1分も東京朝鮮。リ・トンソンの右CKは東亜学園の左サイドバックを務める柳真祐(3年・府ロクJY)が丁寧にクリア。再びリ・トンソンが上げたクロスから、クォン・ジュンソクが枠へ収めたシュートは清水がキャッチ。東京朝鮮が押し気味に進めた前半はスコアレス。0-0でハーフタイムに入りました。
後半もリズムは東京朝鮮。48分にキム・テウのクサビを受けたピョン・ヨンジュが縦に付け、クォン・ジュンソクの落としを狙ったピョン・ヨンジュのシュートは清水がキャッチ。55分にもリ・トンソンの右CKはDFがクリアしたものの、拾ったムン・インジュの左クロスも清水がキャッチ。58分にも右からムン・インジュがクロスを上げ切り、こぼれに反応したチョン・リョンホのミドルはここも清水がキャッチ。前半のファインセーブも含め、光るのは清水の研ぎ澄まされた集中力。
相次いで切り合うカード。59分は東亜学園。1人目の交替として三浦と大林泰輝(3年・東久留米久留米中)を入れ替え、サイドの推進力向上に着手。60分は東京朝鮮。奮闘していたボランチのカン・チス(3年・東京朝鮮第五中)を下げて、パク・チャンフン(3年・第一学院高)をそのままボランチに送り込み、狙う中盤のバランス向上。67分は東京朝鮮の決定機。ピョン・ヨンジュが右へ展開したボールから、クォン・ジュンソクが好クロスを放り込むと、突っ込んだキム・テウのダイビングヘッドは清水がファインセーブで仁王立ち。スコアに変化はなく、残された時間は10分間とアディショナルタイムのみ。
71分に動いた東亜学園ベンチ。最前線で体を張った宮崎敬一朗に替えて、戸田幹央(2年・東久留米西中)を最終盤のピッチヘ。74分は東京朝鮮。ピョン・ヨンジュが右へ流し、エリア内で受けたクォン・ジュンソクは、対峙したGKを外して冷静にファーサイドへ。チョン・リョンホが無人のゴールへ放ったはずだったシュートは、しかし懸命にカバーへ入っていた木村がスーパークリア。直後の左CKの流れから、混戦を制したキム・テウが枠へ収めたシュートはGKを破るも、再びカバーを敢行したDFが体に当ててボールは枠外へ。「雨で自分たちが有利かなと思ったんですけど、向こうが思った以上にフィジカルもヘディングも1対1も強かった」とは高監督。驚異的な東亜学園の守備力が均衡を破らせません。
76分も東京朝鮮。左からチョン・リョンホがロングスローを投げ入れ、ルーズボールを叩いたピョン・ヨンジュのミドルはクロスバーの上へ。79分も東京朝鮮。パク・チャンフンがミドルレンジから打ったシュートは枠の右へ。80分も東京朝鮮。右からムン・インジュが蹴り込んだFKに、キム・セヨンが合わせたヘディングは枠の右へ外れ、これが80分間でのラストチャンス。両者譲らず。西が丘行きの切符を巡るクォーターファイナルは、前後半10分ずつの延長戦へともつれ込むことになりました。
東京朝鮮のキックオフでスタートした延長も、押し込むのは十条のレッドタイガー。91分にエリア内でピョン・ヨンジュが放ったシュートは、宮崎亮太朗と柳真祐がダブルブロックで何とか回避。92分に左からリ・トンソンが蹴ったCKへ、ニアに突っ込んだクォン・ジュンソクのヘディングはクロスバーの上へ。93分に今度は右からリ・トンソンが入れたCKに、ここもクォン・ジュンソクが頭から飛び込むも、ボールは清水ががっちりキャッチ。96分にもムン・インジュが左から放り込んだFKに、三たびクォン・ジュンソクが合わせるも、ボールは枠の左へ。「力み過ぎた部分はあるんですけど、自分が自分がという気持ちはありました」というクォン・ジュンソクにセットプレーのボールが集まるも、変わらないスコアボードの数字。
96分に東亜学園が切った3枚目のカードは1年生のルーキー。左右両サイドで走り切った山口嘉月(3年・杉並神明中)を下げて、服部玲男(1年・東京久留米FC U-15)を右ウイングに送り込むと、突如として訪れた千載一遇の先制機。97分にセンターライン付近でボールを持った橋本は重馬場も意に介さず、左サイドを独力で切り崩しながら速いクロス。GKが弾いたボールは服部の目の前にこぼれますが、詰めたシュートはわずかにゴール右へ。頭を抱えるイレブンとベンチ。逆に「雨なので今までの経験でカウンターでやられそうな気がして怖かった」という高監督を筆頭に、胸をなでおろしたもう一方のイレブンとベンチ。
歓喜を呼び込んだのは「『自分が東京朝鮮を全国に連れて行くんだ』という気持ちで毎日やっている」と話す3年生。99分にパク・チャンフンからボールをもらったピョン・ヨンジュは、前を向くと果敢にミドル。ただ、このボールは水たまりで止まってしまいます。ここに走り込んだのは「延長戦が始まる前に1回雨が強くなったので、『絶対自分の前でいつかボールが止まる』と思っていて、あの時も『来る』と思って走っていた」というクォン・ジュンソク。振り抜いた右足から放たれたボールはGKを破り、ゴールラインの直前で水たまりの影響から一旦大きく減速しましたが、そのままコロコロと転がりながらゴールラインを越えてみせます。「前半も何度かチャンスがあった中で決め切れず、ベンチに帰った時も『信じているから』と、『1点で良いから決めてくれ』とみんなに言われたので、どんな形であろうとも泥臭いプレーで行こうと思いました」というクォン・ジュンソクの想いが乗り移ったかのような一撃が飛び出し、とうとう東京朝鮮が1点のリードを手にしました。
追い掛ける展開となった東亜学園も意地の反撃スタート。延長前半終了間際にこの試合初めてのCKを奪い、左から10番を背負った右サイドバックの内田宏紀(3年・Forza'02)が蹴り込んだボールはゴールキックとなってしまいますが、エンドが変わった延長後半の103分、右から2回連続で内田が蹴り込んだCKは、2回連続でクォン・ジュンソクが気合いのクリアを見せたものの、一気に前へと勝負を掛けた東亜学園の勢いは十分。双方の応援席もヒートアップ。最終盤。雨中の激闘もいよいよクライマックスへ。
104分は東亜学園。右サイドの深い位置で獲得したFK。スポットに立った内田は、中に上げる体の向きからニアサイドを直接狙うシュートを敢行するも、ボールは枠の右へ。107分は東京朝鮮。相手ボールを奪ったクォン・ジュンソクは、GKの位置を見て40mミドルを放つもクロスバーの上へ。108分は東亜学園。右サイドで得たFKを内田が蹴り入れ、一度はファンブルしたチュウ・サンホンが必死にボールを押さえると、1分間のアディショナルタイムも凌いだレッドタイガーに凱歌。「『絶対やってくれる』と子供たちを信じていましたし、『PKでも絶対に勝ってくれる』と思っていたので、落ち着いてゲームは見ていました」と高監督も笑顔を見せた東京朝鮮が、2年連続となるセミファイナルへの進出権を力強く引き寄せる結果となりました。
東京朝鮮の執念がわずかに上回ったゲームだったと思います。絶対的なエースを欠く中で、前回の多摩大目黒戦も今回の東亜学園戦も共に1-0という薄氷の勝利を収めましたが、そこを支えていたのは86人の部員が創り出す一体感。「今日は風邪で来れない選手もいて、ソイツとヒョンジュの分まで最後まで走り切ろうという声は出ていましたし、選ばれていないメンバーたちがあんなに頑張って応援してくれていた中で、『見える形で最後まで走ったり、強く行ったり、そういう所で気持ちを示そう』と言っていたので、そこは示せたかなと思っています」と語ったクォン・ジュンソクが、「日に日にチームが1つになっているというのは本当に思っていて、ベンチでも声を最後まで出していましたし、チームが1つになっているということを感じました」と続けた言葉はきっとみんなが感じている共通認識なんだろうなと。それは試合が終わった後に、全員で着替えている時のチームの楽しそうな雰囲気からも伝わってくるものがありました。次は昨年度のチームも超えられなかった、ここ最近では"鬼門"となっている準決勝。「次の相手、次の相手と1つ1つ倒していったら自ずと全国が見えてくると思うので、一戦一戦大事にやりたいなとは思っています」とクォン・ジュンソクが話せば、「準決勝にはヒョンジュが帰ってきて、また必ず良いプレーをすると信じているので、東京朝鮮念願の全国を狙っていきます」と高監督。準決勝は11月6日。舞台は東京高校サッカー界の聖地・西が丘です。 土屋
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